ニューヨークにある音楽の殿堂カーネギーホールには…(2024年5月6日『毎日新聞』-「余録」

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ミシガン州USスチール製鉄所=2024年4月4日、大久保渉撮影
 
 ニューヨークにある音楽の殿堂カーネギーホールには道案内のジョークが伝わる。近くで迷っていた人から「どうすれば行けるでしょうか」と尋ねられたピアニストはこう答えた。「練習、練習、練習だ」
◀ゴールに簡単にたどりつけないのは、ホールの創設者アンドリュー・カーネギーが設立に関わった米鉄鋼大手USスチールの買収計画も同様に見える。日本製鉄が約2兆円を投じるが、バイデン大統領が難色を示し、返り咲きを狙うトランプ前大統領は反対を明言した
◀かつては世界最大の生産量を誇った名門だ。本社のあるペンシルベニア州は11月の大統領選で激戦必至と言われる。売却を拒む労組票を取り込もうと躍起なのだろう
◀懸念されるのは米国の政治が内向きの姿勢を強めていることだ。バイデン氏は中国製鉄鋼への関税を3倍に引き上げると表明した。「米国第一」を掲げるトランプ氏が中国製品に一律60%の高関税を課すと宣言したことに対抗したようだ
◀選挙目当てに自国企業を過度に優遇する保護主義を競えば、自由な貿易や投資を損ない、インフレなどの問題を抱える世界経済に更なる逆風となる。結局は米国の景気にも悪影響を及ぼすのではないか
スコットランドからの貧しい移民だったカーネギーは、米国への思いを「あらゆる市民の権利は、彼らに与えられた基本的な人権であるという自由人の天地」と語った。世界に開かれた体制こそが経済を発展させ、国際社会もリードする原動力となってきたはずだ。