主要7カ国の首脳が被爆地に集まったG7広島サミットから1年を迎えた。核兵器のない世界の実現に向けて行動する若い世代は、その後の状況をどう見ているか。核廃絶を目指すNGOの代表として国内外を奔走する高橋悠太さん(23)に聞いた。
核軍縮交渉進まず
私が代表理事を務める一般社団法人「かたわら」(横浜市)は2023年春の設立で、核兵器をなくそうと行動する市民の「傍ら」にありたいというのが趣旨。市民のためのシンクタンクとして、地方自治体への政策提言や情報発信などに力を入れている。
サミットに市民サイドの声を届ける「G7市民社会コアリション」の一員として、外務省のシェルパ(首脳の補佐役)にも面会し、核兵器廃絶をサミットの主要議題に取り上げてもらうよう求めた。4月の面会では、6月にイタリアで開かれるサミットで広島サミットを引き継ぐ形での議論をお願いした。
1年前を振り返ってみると、被爆地でサミットが開かれても核兵器を巡る現状は変わらなかった。核を保有する西側諸国が核軍縮を呼びかけるようであれば大きな進展だと思ったが、核拡散防止条約(NPT)の第6条が核保有国を含む締約国に義務として定める核軍縮交渉は進んでいない。
広島サミットでは初めて核軍縮に特化した声明「広島ビジョン」が出されたが、その後にパレスチナ自治区ガザ地区に侵攻したイスラエルの閣僚からは核使用をほのめかす発言があった。通常戦争が核兵器の使用につながるリスクは高まっているのではないか。広島と長崎は核の問題を考える出発点で、サミットはそれを共有する機会だったはず。しかし、被爆地からのメッセージは軽んじられているのが現実だ。
広島ビジョンでは、核兵器のない世界という究極の目標は「現実的で、実践的な、責任あるアプローチを通じて達成される」とある。しかし「責任あるアプローチ」とは「核抑止力」を含むのか。そうであるならば、どういう状況で、どんな大義があれば、核兵器を使用できるというのか。その問いを詰めていけば核兵器の被害を認識しなければならず、広島と長崎に立ち返ることになるはずだ。
戦争が行き着く先は……
日本国内で気になるのは、核廃絶を求める人たちの発言が内輪にとどまっているように思えることだ。地元の広島を離れて東京にいると、戦争体験から学ぶ機会が途切れつつあると実感する。戦争が行き着く先に核兵器の問題があることを語るのは難しい。
市民社会から核廃絶を求めていくために、核を巡る言説を強くしたい。広島サミットの際には他の分野のNGOなどと結びつきができ、環境問題の中で原発を取り上げ、子どもを巡る政策から平和に言及するといった協働が生まれた。共通の土台を作れたことは成功だったと思う。
たかはし・ゆうた