首長の嫌がらせ 職員の被害見過ごさぬ制度に(2024年5月6日『読売新聞』-「社説」)

 自治体の首長によるセクハラやパワハラが相次いでいる。被害を受けた職員の訴えをしっかりと受け止め、問題行為に厳しく対処する仕組みを整えなければならない。
 岐阜県池田町長と愛知県東郷町長が、いずれも多数の職員にハラスメント行為を繰り返していたとして、辞職した。
 池田町長は20年前から女性職員の体を触るなどし、東郷町長は「お前らの脳みそは 鳩はと の脳みそより小さい」などと発言したという。一連の行為は各町の第三者委員会でハラスメントと認定された。
 3月には岐阜県岐南町長も、度重なるセクハラとパワハラで辞職している。岐南町長は気に入らないことがあると、職員に「懲戒」「クビ」と言い放っていた。
 今どき、このような悪質な言動を平然と繰り返す首長が各地にいることに、 唖然あぜん とする。深刻なのは、3町ともハラスメント防止の仕組みが機能せず、被害の拡大を長期間防げなかったことだ。
 池田町は庁内に相談窓口があったが、被害者の職員は町長からの報復人事を恐れて相談できなかった。東郷町にはハラスメント防止の規定はあったものの、対象は一般職員だけで、町長は対象に含まれていなかった。
 岐南町では、職員が相談窓口に被害を申告したところ、町長が「誰が言ったんや」と犯人捜しをするような状況だった。このため、町幹部らは「町長室に近寄らないように」といった自衛策を助言するにとどまっていた。
 ハラスメントを排除するには、被害を相談しやすい環境を整え、公正な調査を実施することが不可欠だ。首長の問題行為は各地で起きている。各自治体でそれぞれの体制を見直してもらいたい。
 職員が、庁内での 噂うわさ の広がりや人事上の不利益を恐れずに済むよう、相談窓口には弁護士ら外部人材も含める必要がある。何がハラスメントにあたるのか、よく分かっていない首長もいる。ハラスメント防止研修も徹底すべきだ。
 近年、ハラスメントを防ぐため、条例をつくる自治体が目立つ。東京都狛江市は市長のセクハラ問題を機に、市長や議員も対象とする条例を制定した。明確なルールを定めることで、ハラスメントへの厳しい姿勢を示す狙いもある。
 池田町長は、辞意を表明した記者会見で「裸の王様だった」と謝罪した。首長の職責は住民のために尽くすことにある。職員が安心して働けないような役所に、良質な住民サービスなど望めない。