満腹なのにダイエットできる! 我慢は禁物! 誰でも健康的な体に近づける「ロカボ」実践法(2024年5月19日『毎日新聞』)

ゆるやかな糖質制限のススメ ~健康の常識・非常識~
山田悟・北里大学北里研究所病院副院長、糖尿病センター長
キャプチャ
 緩やかな糖質制限ロカボ」。最大の特徴は「我慢不要の食事法」という点です。発案し、提唱する糖尿病専門医の山田悟医師自身がかつて、カロリー制限を「最もよい治療法」と信じて患者に指導していたにもかかわらず、その厳しさから自身も挫折してリバウンドした苦い経験が込められています。
 おなかいっぱい食べられるのに、健康的に痩せられる――。ロカボは糖尿病患者だけでなく、誰にでも有効です。「『やってみよう!』と思ったその時から簡単に実践できる」と話す山田医師が、具体的な取り組み方や、「ダイエット」だけではない数々のメリットを教えます。【聞き手・倉岡一樹】
糖質摂取量 下限がある理由
 爽やかな薫風に吹かれながら心機一転、新たなことを始めるのにはとてもいい時期です。今回は「実際にロカボに取り組んでみたいけれど、何をすればいいのか分からない」とお考えの方に、その実践法や注意点を伝授致しましょう。あまたある民間療法とは次元が全く異なり、学術的な根拠に裏付けられた、科学的な食事法であることをお分かりいただけると思います。
 ロカボは簡単に言えば「おいしく楽しく食べて適正糖質を目指しましょう」という食事法です。緩やかな糖質制限とは、1日当たりの糖質摂取量を70~130gに抑えることをいいます。1食当たりの糖質摂取量を20~40gとし、糖質10gのデザートも加えます。130gを1日3食で割ると43・3gですね。一の位を四捨五入し、毎食40gを上限としました。これで120gですね。残りの10gをデザートに充てたわけです。
 多くの方から「年齢や性別、身長の高低、体重の軽重で糖質摂取量を変えなくてよいのですか」と尋ねられます。結論から言えば、その必要はありません。
 そもそも糖質摂取量の上限を130gとしたのは、2006年の米国糖尿病学会のガイドラインが元祖です(注1)。その根拠は、体内で糖質ばかりをエネルギー源として利用したがる臓器と細胞が二つあることに起因します。
 まずは赤血球。ミトコンドリアがなく、脂質を全く燃やせないため、解糖系(ブドウ糖をエネルギーに変える)でやっていくほかありません。もう一つの脳神経系はミトコンドリアがあり、本来は脂質を燃やせるのですが、「血液脳関門」という障壁があるため血液から脳の中に脂質が入らない仕組みになっています。それゆえ、脳細胞は原則的にブドウ糖をエネルギーとして利用しています。
 この赤血球と脳細胞が使う1日当たりのブドウ糖量が約130gで、体格や性別にかかわらず同様とされています。これは「大人である限りは、糖質量130gまでならインスリンの分泌を求めることなく処理できる」ことを意味しています。
最低限必要な糖質摂取量は0g?!
 一方、医学誌「ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・クリニカル・ニュートリション」で、1999年に「赤血球と脳細胞が使うブドウ糖量として1日に最低150gの糖質を摂取すべきだ」と勧告した「国際的栄養勧告作成グループ」がありました(注2)。ただ、「これ(150g)は恣意(しい)的に設定されたものであって、理論的な糖質の最低必要量は0gである」とも記しています。
 肝臓はブドウ糖を24時間放出しており、その量が健…