政治改革と自民党 裏金体質から脱却せねば(2024年5月6日『毎日新聞』-「社説」)

キャプチャ2
衆院3補選の結果などを記者に問われ、厳しい表情を見せる岸田文雄首相=首相官邸で2024年4月30日午前9時42分、平田明浩撮影
 
 政治への信頼が音を立てるようにして、崩れている。自民党派閥の裏金事件後初の国政選挙となった衆院3補欠選挙では、自民党が全敗した。にもかかわらず岸田文雄首相らの危機感は乏しい。
 自民党は当初、政治資金規正法の改革案を出し渋り、国会審議の直前になってようやく提示した案も、弥縫(びほう)策にとどまっている。
政治資金規正法改正などを議論する衆院政治改革特別委員会の初会合=国会内で2024年4月26日午後1時53分、平田明浩撮影
 裏金事件では、派閥がパーティー券収入のノルマ超過分を、議員に還流させ、政治資金収支報告書に記載していなかった。
 1999年の規正法の改正で、政党を除き、派閥や政治家個人は企業・団体献金を受け取れなくなった。以降、派閥はパーティーを重要な代替収入源としてきた。
 
キャプチャ
 なぜ、パーティー券収入という「表」の資金を、わざわざ「裏」の金にして、国民から見えなくしたのか。
市民感覚と大きな乖離
 自民党が今年2月に実施した聞き取り調査では、人件費、事務費、書籍代、会合費などに使っていたことが報告された。
 だが、裏金化したからには、使途を秘匿したい思惑があったと疑われても仕方ない。
 特に安倍派は、参院選の年には、改選議員のパーティー券販売のノルマを免除し、全額を還流させていた。選挙対策に充てるためだったのではないかと国会で追及する野党に対し、派閥幹部は否定したが、疑いはくすぶっている。
 領収書が不要で使い勝手のよい裏金が、派閥に議員を囲い込むための資金に使われていたと指摘する元秘書らもいる。いつしか議員の「特権」のようになり、慣習的にさまざまな使い方をされていたのではないか。
 そもそも政治資金は非課税だ。物価高に苦しむ市民の感覚から、あまりにも乖離(かいり)している。
 裏金事件をきっかけに規正法の「抜け穴」も浮かび上がった。筆頭は不透明な「政策活動費」だ。
 規正法は政治家個人への寄付を禁じているが、政党から政治家個人への寄付は例外的に認めている。これに基づき、自民党は議員に「政策活動費」の名目で寄付をしている。
 政党は支出先や金額を報告書に記載しなければならないが、受け取った議員は公開する義務がない。最終的な使途を合法的に隠すことができる仕組みだ。
 二階俊博元幹事長には、党から5年間で約50億円の政策活動費が支出されていた。自民党は党勢拡大、政策立案、調査研究に使われているとしか説明していない。
 地方議員などの「陣中見舞い」や「当選祝い」に広く使われているのではないかとの疑いも、政界では根強い。
 規正法の目的は、政治活動を「国民の不断の監視と批判」のもとに置くことだ。国民が中身をチェックできない政策活動費は、その趣旨に反している。最低限、使途の全面公開を義務化すべきだ。
民主政治の危機克服を
 近年、自民党では国会議員による選挙買収事件が続いた。
 昨年4月の東京都江東区長選を巡る買収事件では、柿沢未途前副法相の有罪が確定した。同時実施された区議選の「陣中見舞い」の名目で区議に現金を渡したことなどが、買収と認定された。
 2019年の参院選広島選挙区を巡る大規模買収事件では、河井克行元法相と妻の案里元参院議員が有罪となった。地元議員ら100人に現金を配っていた。夫妻に自民党本部から1億5000万円が提供されていたことも明らかになった。
 金権選挙が許されないのは当然だが、通常の政治活動でも報告書に載せられないカネの流れが横行しているのではないか。
 地方議員や後援会の側の倫理観も問われる。不透明な資金を道具に政治を動かす構造を断ち切らなければ、癒着が生まれ、公正な政治判断がゆがめられかねない。
 「平成の政治改革」は、選挙制度改革が焦点となった結果、政治とカネの問題が中途半端に終わった。そのツケが回ってきているのではないか。企業・団体献金の全面禁止などを含め宿題を解決すべきだ。
 自由な政治活動は民主主義の基盤であり、政治資金はそれを支える重要なツールである。国民から不信の目で見られるような現状は、民主政治の危機と言える。
 透明・公正で、わかりやすい制度にすることが急務だ。抜本改革なくして政治の再生はない。