教員に関する社説・コラム(2024年10月6日)

教員の精神疾患休職 予算拡充で抜本対策を(2024年10月6日『琉球新報』-「社説」)
 
 2023年度に精神疾患で休職した県内公立小中高・特別支援学校の教員が前年度比39人増の268人となり、過去最多を更新した。教員の働き方改革に向けた機運が芽生えてきたが、休職者の増加はむしろ深刻化している。社会全体で重く受け止めなければならない。
 仕事でメンタル不調を来す最大の要因は、多忙と重圧だ。長時間労働といった教員の負担を軽減するには、業務効率化の対症療法だけでは難しい。教職員の絶対数を増やし、現場に余裕を生み出すことが抜本的な負担の解消策だ。教育予算の大幅な拡充が必要なことを確認したい。
 文部科学省は2025年予算の概算要求に、小学校の教科担任を2160人拡充するなど、教職員定数を約7600人改善する案を盛り込んだ。時間外労働や休日出勤の一因となる部活動指導に外部人材を活用する動きも進んでいる。必要な経費が予算化されるかどうかの行方を含め、国全体による改革の進展を注目する必要がある。
 一方で、全教員に占める精神疾患休職者の割合は沖縄が全国で最も高い。過去10年以上、全国平均の2倍以上の状態が続く。地域の実情に照らした沖縄独自の対策も急がなければならない。
 県教育委員会那覇市教育委員会が実施した調査で、メンタル不調を感じたことがある教員のうち69.3%が「職場に要因がある」と答えたのに対し、校長へのヒアリングでは要因について「職場、業務外」の回答が多かった。
 職場環境にストレスを感じている教員への理解不足が学校内に生じていないだろうか。精神疾患を未然に防ぐ適切なフォローを行うためにも、管理職と教員の間にある認識のずれは是正が必要だ。
 教員が何にストレスを感じているかについては、「保護者対応」「対処困難な児童生徒への対応」「事務的な業務」の順に多かった。学校が抱える課題は複雑・多様化している。教員不足の解消には教育現場だけでなく、保護者や地域の理解も欠かせない。
 県内の公立学校では9月時点で52人の教職員の未配置が生じている。休職者が出ても補充教員が確保できず、未配置のカバーに入る他の教員に負担が及び、さらに疲弊者を出す悪循環がある。療養後に復帰した教員もすぐに過度な業務量となり、再度の休職や退職につながってしまうケースが少なくないという。
 休職が明けた後は段階を踏みながら復職していく綿密なプログラム作りが必要だ。文科省調査では、若手ほど精神疾患による休職の割合が高い傾向が出ている。採用から数年間は指導力向上に必要な研究・研修の時間を十分に設けることなど、習熟プログラムを見直していく必要もある。
 そのためにも教員定数を増やし、柔軟な補充態勢や研修時間が確保できるゆとりを生み出すことが前提となる。

オーナーの「特権」を利用 偽情報で米大統領選挙戦かき乱すマスク氏(2024年10月6日『毎日新聞』)

イーロン・マスク氏=インドネシアで2024年5月19日、ロイター
 電気自動車(EV)大手テスラなどを率いる実業家イーロン・マスク氏が米東部ペンシルベニア州バトラーで5日に行われる共和党のトランプ前大統領の選挙集会に初めて参加する。今年7月にトランプ氏支持を正式に表明して以降、マスク氏は自身が所有するX(ツイッター)の影響力を武器に、虚実ないまぜの情報を発信して選挙戦への関与を深めてきた。
 マスク氏は自らを「穏健派の民主党支持者だった」と述べている。過去の大統領選では民主党を支持し、オバマ元大統領と握手するために6時間並んだこともあったという。EV普及を推進するバイデン政権で、テスラは消費者向けの税控除などでその恩恵も受けているが、労働組合をめぐる立場などで相反。マスク氏は22年の中間選挙では共和党支持を打ち出した。
 今年に入ると、マスク氏はXでバイデン大統領の高齢不安や移民政策などに批判を広げ、トランプ氏に肩入れする傾向を強めた。とりわけ民主党が重視する「多様性、公平性、包摂性」(DEI)の推進を敵視。自身の子どもの一人が、出生時に割り当てられた性と自認する性が異なるトランスジェンダーであるのは「意識高い系ウイルス」のせいだとも発言している。
 一方、マスク氏は個人の自由を最大化し、政府による規制を極力減らす社会像を志向する点ではぶれていない。22年のツイッター買収も「言論の自由の擁護」の大義名分を掲げたものだった。
 マスク氏が経営権を握り、名前を変えたXは広告収益の分配を含むさまざまな機能変更が行われた結果、インプレッション(表示)回数を稼ぎたいユーザーが大量に生まれ「カオス化」が進んだとの指摘が絶えない。2億人以上のフォロワーを抱えるマスク氏自身のアカウントが言論空間の信頼性を損ねる一因にもなっている。
 オンライン上の誤情報・偽情報やヘイトスピーチを監視する非営利組織「デジタルヘイト対策センター」(CCDH)の調査によると、8月上旬時点で米大統領選に絡んで「虚偽または誤解を招く」マスク氏の投稿はXで12億回近く閲覧されていた。その内容は、民主党の移民政策や選挙の不正に関する誤った主張、生成AI(人工知能)を使ったハリス副大統領の偽動画などが含まれていた。
 また、Xには別のユーザーが誤解を招く内容の投稿を訂正したり補足したりする「コミュニティーノート」機能があるが、CCDHの調査時点ではマスク氏の投稿には適用されていなかったという。マスク氏は、この機能についてXで流れる誤情報に対応する有効な手段だと主張していた。
 CCDHのイムラン・アフメド最高経営責任者は「マスク氏は、政治的に影響力のあるソーシャルメディアのプラットフォームの所有者という特権的立場を悪用して、不和と不信を生む偽情報をまき散らしている」と指摘している。【ニューヨーク八田浩輔】

天皇の「側室」と「皇后」の「意外な関係」をご存知ですか? 女官が目撃していたこと(2024年10月6日『現代ビジネス』)

女官は見ていた
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明治天皇〔PHOTO〕Gettyimages
明治天皇やその妻・昭憲皇太后に仕えた女官として、山川(旧姓:久世(くぜ))三千子という人物が知られています。
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女官のきらびやかな姿
彼女は1909(明治42)年に宮中に出仕し、1914年に退官するまでの足掛け6年間、天皇家の「内側」の奥深くをつぶさに目撃しました。
彼女の当時の経験は、『女官』として1960年に実業之日本社から公刊され、世間に衝撃を与えたとされます(現在は『女官 明治宮中出仕の記』として読めます)。
現在の皇室は、政府の有識者会議が「安定的な皇位の継承」について議論を重ねていますが、「皇位の継承」といえば、かつて天皇には「側室」がいました。天皇の側室とは、どのような立場だったのか。皇室の歴史的なあり方について知るうえにおいては、重要な知識です。
明治天皇のケースについて、『女官 明治宮中出仕の記』はさまざまな知識を授けてくれます。
同書のなかで山川は、側室という役割についてこのように報告しています。
〈権典侍(ごんてんじ)は俗のことばでいえばお妾さんで、天皇のお身のまわりのお世話がその仕事、お内儀においでになる時は、交代で一人は始終御側につめていますので、何かのご沙汰(お言いになる)のお取り次ぎもすることになっていました。
やはり宿直も交代で、奥の御寝台のそばに出る人と、一間へだてた次のお部屋で、内侍と一しょに休む人とになっていましたが、その当時、御寝台のそばで寝(やす)むのは、小倉、園の両権典侍の二人きりでした〉(25~26頁)
側室のつとめはこのようなものだったそうです。
皇后と権典侍
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さらに同書は、明治天皇とその妻・昭憲皇太后の仲むつまじい様子を描くなかで、皇后と権典侍の関係についても、ほのかに描き出しています。
〈前にも申しましたように皇后宮(こうごうぐう)様にお子様がお出来にならなかったので、権典侍(げん の ないしのすけ)はいましたが、皇后宮様に対しての(編集部注:明治天皇の)御愛情は深く、何かとお心使いを遊ばされ、ちょっとお風邪気味で、皇后宮様が御所においでにならないと、すぐにお見舞のお使(権典侍)が来るという有様でした。
典侍は、いつも御座所のお縁座敷に一人は詰めておりますが、御用の時以外、滅多にお口さえおききになりませんでした〉(56頁)
明治天皇は、ある種の「必要」に迫られて側室を持ちながらも、昭憲皇太后を深く愛していた……これが、山川の目から見た天皇夫妻(そして、側室)の関係であったようです。
また、同書には明治天皇が妻をいかに愛していたかに関して、こんな記述もあります。
〈皇后宮様は一度肺炎を遊ばされましたので、冬になると侍医が御心配申し上げてご避寒を願うので、暖かい海岸においでになりました。
御健康のためというのでお許しにはなりますが、やはり何となくお寂しいのか、このお留守中はとかくお上(編集部注:明治天皇のこと)のご機嫌がよくないので、側近者は皆困りました。
「皇后宮さんが弱いから、わしより早く死なれてはたいへんだ。一日でもよいから後に残ってもらわなければね。先に死なれては皆がわしを一人にして置てはくれまいし、今時気に入るような女はないよ。だから体を大事にしてもらうために、海岸に行かせるのだ」
と、仰せになっていました。これを伺っても、ご愛情の深さがしのばれます〉
山川は、明治天皇夫妻に深い尊敬を抱いていたというので、やや二人の関係を理想的に見ている可能性はありそうですが、一方で、そばで仕えていた人間の目に夫妻の関係がこのように映っていたという事実は興味深いものがあります。
そこには、「明治」「側室」という言葉から一般的にイメージされる、保守的な雰囲気とは少し違ったニュアンスが漂っているようにも思えるのです。
こうした天皇家の人々の細部についての情報は、瑣末なものにも思われるかもしれませんが、一方で、皇室というものについて考える際の、一つのヒントにもなりそうです。
また、放送大学教授で日本政治思想史が専門の原武史さんによる「知られざる天皇家の「闇」をあぶり出した、ある女官の手記」という記事によれば、同書には、天皇家の「闇」をあぶり出した側面もあるとも言えるそうで、興味の尽きない書物と言えます。
学術文庫&選書メチエ編集部
 

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女官 明治宮中出仕の記 (講談社学術文庫 2376) 文庫 – 2016/7/12
山川 三千子 (著)
明治天皇昭憲皇太后に仕えた女官の手記。華族・久世家(くぜけ)の長女、三千子の見聞は、宮中のしきたりや天皇皇后の実像を生々しく伝える。数十人にのぼる女官のさまざまな職名と仕事、天皇自らが名づけた源氏名とニックネーム。「雀」と呼ばれた三千子は、天皇皇后の睦まじい様子に触れ、女官たちに気安く声を掛けて写真をねだる皇太子(大正天皇)に戸惑う。さらに、「俗の言葉でいえばお妾さん」である権典侍と、皇后の関係とは――。
明治末から大正初年、明治天皇と皇后(昭憲皇太后)に仕えた女官の手記。筆者は、華族・久世家の長女で、退官から40年以上を経た1960年(昭和35)、皇太子御成婚以来の「皇室ブーム」のなかで、本書を記した。いわく、「公表を許されなかった御内儀での御生活は、世上いろいろとあやまり伝えられておりますので、拙き筆をも省みず思い出すままを記して見ました。」
明治42年、18歳で出仕した三千子の見聞は、宮中のしきたりや天皇皇后の実像を生々しく伝えている。数十人にのぼる女官のさまざまな職名と仕事、女官長・高倉寿子や典侍柳原愛子らの人となり、天皇自らが名づけた女官たちの源氏名とニックネーム。「雀」とあだ名された三千子は、天皇と皇后の睦まじい様子に触れ、また、女官たちに気安く声を掛けて写真をねだる皇太子(大正天皇)に戸惑う。さらに、「俗のことばでいえばお妾さん」である権典侍と、皇子の生まれなかった皇后の関係は、どのようなものだったのか――。
本書は、明治大正期の宮中の様子を伝える歴史資料としても多くの研究者に活用されている。巻末解説を、放送大学教授の原武史氏が執筆。
〔原本 : 『女官』 1960年、実業之日本社刊〕

裏金議員公認に関する社説・コラム(2024年10月6日)

新宿末広亭の楽屋で将棋が流行したことがあったそうだ。かつて…(2024年10月6日『東京新聞』-「筆洗」)
 
 新宿末広亭の楽屋で将棋が流行したことがあったそうだ。かつての席亭、北村銀太郎さんが語っている。昭和20、30年代の話だろう
▼昭和の名人で将棋好きの古今亭志ん生が流行の中心だったが、やがて困ったことになる。噺家(はなしか)たちは将棋に夢中になってしまい、高座に上がったかと思えば、すぐに下りてきて、また将棋。噺に身が入らぬ。北村さんはついに楽屋での将棋を禁止したそうだ
自民党衆院選の公認候補を巡る「ぞろっぺいさ(いい加減なこと。疎略なこと)」にこの話を思い出した。あれほど世間を騒がせ、自民党不信の原因となった「裏金議員」にも原則、党の公認の看板を与えるそうだ
▼「裏金議員」を公認せず、政治とカネの問題で、立て引きの強いところを見せるべきだろうに石破さん、結局、これができなかった
▼公認候補を差し替えていては迫る27日の総選挙に間に合わないというのが言い分で、このあたり、将棋の時間ほしさに客そっちのけになった落語家さんにつながるか。自民党が大切なのはいったいどっちだろう。政治とカネの問題へのけじめか、それとも「裏金議員」か
▼非公認とすれば「裏金議員」を抱える党内勢力の反発を買い、石破さんの立場が難しくなるという事情もあろうが、有権者という「お客さん」は政治とカネの問題にとりわけ厳しい。次の総選挙で、しまりのない自民党の「芸」に拍手を送るとは思えない。

こころの不調 世代を問わず人ごとではない(2024年10月6日『読売新聞』-「社説」)

 うつ病などにかかり、心の健康を損なう人が増えている。不調に陥った時、周囲が支える環境を拡充したい。
 政府は、2024年版の厚生労働白書で、「こころの健康」を初めて特集した。
 この中で、「こころの不調を抱える人を含むすべての人が、地域や職場で生きがい・役割を持ち、安心して暮らすことができる社会の構築」を目指すと掲げた。
 白書によると、精神疾患の外来患者数は年々増え、20年には586万人に上った。自殺者数も2万人を超えている。精神的な健やかさは、今や社会が抱える大きなテーマとなっている。
 心の不調は、性別や世代にかかわらず起きる。学校や職場の人間関係、産前産後の生活の変化、社会との接点を失いがちな高齢期など、人生のあらゆる局面にリスクが潜んでいる。
 現代の世相も影響しているのではないか。デジタル化が進み、インターネット上では無責任な 誹謗 ひぼう 中傷が後を絶たない。人と人とのつながりが薄れ、孤立や孤独は深刻な社会問題になっている。
 災害が心に打撃を与えることもある。能登半島は、元日の地震発生に続き、記録的な豪雨に見舞われた。再び被災した人の精神的な痛手は計り知れない。心のケアも含めた手厚い支援が急がれる。
 精神的な不調は、体の病気と同様、早めに気づいて対処することが肝心だ。意欲や食欲の低下、不眠などが長引いている場合、うつ病の初期症状の可能性がある。
 気候の変化で気分が落ち込む人もいるだろう。
 不調の兆候があれば、まず家族や身近な人に相談し、必要に応じて医師の診察やカウンセリングを受けることが大切だ。
 だが、心身の健康に関する国の意識調査によると、心の不調を家族や職場に相談するという人は、体の病気の場合よりも少なかった。心の病気を恥ずかしいと感じる人や、周囲に心配をかけまいとする人が多いのだろうか。
 一人で抱え込まずに済むよう、国や自治体は、公的な相談窓口を充実させるべきだ。身寄りのない高齢者については、地域での見守り活動を通じて心の健康状態を把握しておくのも一案だろう。
 政府は15年から、従業員50人以上の企業に対し、働く人の「ストレスチェック」を義務づけている。単にストレスの度合いを測るだけで終わらせず、結果を一人ひとりの心の健康維持や、職場環境の改善につなげる必要がある。

地方移住に関する社説・コラム(2024年10月6日)

若い世代を中心とする地方への移住の活発化は…(2024年10月6日『毎日新聞』-「余録」)
 
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多くの相談者が訪れた移住支援のフェア=東京都千代田区東京国際フォーラムで2024年9月21日(画像の一部を加工しています)
 若い世代を中心とする地方への移住の活発化は、2008年のリーマン・ショックが転機だったと言われる。それよりも早く、02年から移住を希望する人と自治体の橋渡しをしている団体がある。認定NPO法人「ふるさと回帰支援センター」(東京都千代田区)だ
▲年に1度、センターが都内で開く「フェア」を先月取材し、盛況ぶりに驚いた。自治体や団体がブースを設けて移住相談に応じるイベントだが、広い会場は大勢の相談者でにぎわっていた。2日間でのべ670の自治体・団体が参加し、全体の参加者数は約2万9000人にのぼった
▲相談者の多くは若者や子育て世代で、相談が順番待ちという人気自治体もある。「(単なる)情報収集よりも、本気度の高い相談者が比較的多いようです」とセンターの高橋公理事長は説明する
▲「ほどほどの田舎」と書いた案内板を掲げていた長野県箕輪町は21組の相談に応じた。係員は「夏涼しく、冬は雪が少ない。希望すれば無料の体験宿泊も可能です」
▲コロナ下でみられた人口の「脱・東京」の動きにはブレーキがかかり、東京圏への回帰現象が指摘されている。ただし、地方暮らしを志向する若者が増える潮流は変わらない。センターが昨年受けた相談件数はメールなども含めて約5万9000件で、3年続けて過去最多を更新している
▲移住への環境を整え、支援することは地方の人口減少対策だけでなく、ライフスタイルの選択肢を広げる。そう実感させた、移住フェアの活況だった。
 
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保育に関する社説・コラム(2024年10月6日)

曲がり角の保育政策 多様なニーズに応えたい(2024年10月6日『毎日新聞』-「社説」)
 
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こども誰でも通園制度のモデル事業に参加した保育園の1歳児クラス。保育士が絵本を読み始めると園児が集まった=横浜市青葉区で5月28日、阿部絢美撮影
 待機児童の解消に力点を置いてきた保育政策が曲がり角にある。きめ細かく子どもたちの成長を支える仕組みの構築を急がなければならない。
 希望しても保育所に入れない待機児童は4月時点で2567人だった。ピークだった2017年の10分の1だ。
 7年連続で減少しており、1994年の調査開始以降、最も少なかった。20年以上にわたって保育所を増やしてきた政策の効果が表れた形だ。
 今後必要になるのは、急速に進む少子化への対応だ。社会のつながりが希薄になる中、保育所には、地域の子育て支援拠点としての新たな役割が期待されている。
 その試みの一つが、23年度から一部地域でモデル事業が始まった「こども誰でも通園制度」だ。月10時間を上限に子どもを預かる。
 保護者が働いていないなどの理由で保育所に入っていない生後6カ月から3歳未満の子どもが対象となる。市区町村が指定した保育所認定こども園、幼稚園などが受け入れる。
 子どもは、同年代の子や、家族以外の人との触れ合いを通じて発達が促される。保護者は、保育士に子育てについて相談することができる。
 子育てに悩みを抱えても誰にも頼れず、社会から孤立し、問題を抱え込むケースもある。それが児童虐待の一因になっているとも指摘されてきた。
 とはいえ、新たな子どもの受け入れは、恒常的な人手不足にある保育現場にとって負担増になる。
 こども家庭庁は、全国で実施される26年度までに、十分な人材を確保するための対策を講じる必要がある。
 手厚い支援を要する子どもに対応する体制も整えるべきだ。たんの吸引などの医療的ケアが必要な子や障害のある子を受け入れる施設は限られている。
 こうした多様なニーズに応えるためには、保育士だけでなく、医療など他の専門職との連携が不可欠だ。
 保護者の就労支援を主眼とする保育政策ではカバーしきれなかった課題に対処する時だ。何より求められるのは、子どもの目線に立った取り組みである。