動いた賃上げの「山」、24年は5%付近に3割強(2024年4月27日『日本経済新聞』)

 

24年春季労使交渉では各社が高い賃上げを記録している

春季労使交渉で賃上げが着実に進んでいる。内閣府の賃上げ率に関する分析によると、24年は5%近辺に3割強の企業が集中していることが分かった。23年は3%近辺に25%程度の企業が分布していた。人手不足を背景に連合の要求目標に沿った妥結が相次いでいるのに加え、日本企業の横並び意識もありそうだ。

内閣府が集計可能な労働組合の回答から賃上げ率の分布を推計した。24年は23年より高い賃上げ率が実現した。分布を示すグラフをみると、24年のピーク(山)は5%近辺(4.5〜5.5%)に集中し、33%程度だった。

 

連合は今回の要求目標で賃上げで5%以上、ベアで3%以上の引き上げを要求した。内閣府が24年の最頻値を推計したところ賃上げが5.13%、ベアが3.47%だった。多くの企業が連合の要求を満たす形で妥結している。

要因の一つは人材獲得競争の激化だ。みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介主席エコノミストは「物価高に負けない賃上げを求める労働者側のプレッシャーを背景に、大企業だけでなく中小企業も人材確保へ高い賃上げ率に集中した」とみる。

日銀が1日発表した全国企業短期経済観測調査(短観)では雇用人材が「過剰」と答えた企業の割合から「不足」の割合を引いた雇用人員判断指数(DI)の値が製造業、非製造業ともに悪化した。非製造業は約33年ぶりの低水準と人手不足感が特に強い。

政府は前年に続き24年も賃上げを旗印に掲げた。岸田文雄首相は経済界や労働団体の代表者と意見交換する政労使会議に出席し、前年を上回る水準の賃上げを求めた。

人手不足に政府の掛け声も加わって、多くの企業にとって連合の要求を上回るのが一定の目安となったようだ。

もっとも日本ならではの企業の横並び意識の強さも背景にある。歴史的にみて、第2次石油危機のさなかにあった1980年には官民の連携で賃上げを抑制した。第1次石油危機後の大幅な賃上げがインフレを悪化させたという反省からだった。

最大手の賃上げ率に2番手以下が追随する構図が見える。競争が激しくなり、人材を引き留めようと、他社と同じ水準を目指したことがうかがえる。

例えば鉄鋼では日本製鉄が3万円の労組要求に対し3万5000円の賃金改善を回答し、JFEスチール神戸製鋼所は3万円の満額回答だった。いずれも前年の2000円から大幅に増えた。

内閣府は地域別の交渉の妥結結果もまとめた。4月19日時点の全国平均は5.20%だが、宮城、栃木、群馬、山梨、愛知、富山、福井、広島、愛媛、福岡、熊本、大分の12県が5.24〜6.85%で上回った。 

りそな総合研究所の荒木秀之主席研究員は「23年は都市圏の大企業が先行したのに対し、24年は中小企業が多い地方にも裾野が広がっていることを示す」と分析した。製造業がさかんな県の賃上げ率が高い特徴がある。

 

沖縄・石垣市が海上からドローンで尖閣諸島を調査、中国海警局の船が1kmまで接近し取りやめ(2024年4月27日『産経新聞』)

 沖縄県石垣市による尖閣諸島と周辺海域での環境調査が27日午前に行われた。調査は昨年1月に続いて3回目。今回の調査2日目となる同日は、読売新聞など一部メディアも同行した。魚釣島北部でドローン(小型無人機)を用いて動画撮影を行ったが、中国海警局の船が約1キロまで迫り、撮影を中断した。

中国海警局の船(中央)が調査船に接近しないように警戒する海上保安庁の巡視船2隻。奥は魚釣島北部(27日、尖閣諸島沖で)
中国海警局の船(中央)が調査船に接近しないように警戒する海上保安庁の巡視船2隻。奥は魚釣島北部(27日、尖閣諸島沖で)

 尖閣諸島は国が上陸を認めていないため、市から委託を受けた東海大が中心となって民間船をチャーターし、海上で調査を実施した。午前7時40分頃、魚釣島から約1・8キロの沖合でドローンを飛ばし、約15分間、動画撮影を行った。

 午前8時過ぎに2回目の撮影を行う予定だったが、海警船が調査船の方へ近づいたため、調査員が「危険」と判断して撮影を取りやめた。海上保安庁の巡視船2隻が海警船と調査船の間を航行し、さらなる接近を阻む形をとった。
 

 一方、第11管区海上保安本部(那覇市)によると、27日午前5時14分頃、沖縄県石垣市尖閣諸島・南小島沖の領海に中国海警局の船2隻が相次いで侵入した。中国海警船の領海侵入は今月25日から3日連続で、今年に入ってから13回目。同9時現在、魚釣島沖を航行していたが、同9時53~54分頃、領海を出た。

 

岸田内閣、外遊ラッシュ 大型連休、14人海外へ(2024年4月27日)

【関連記事】

東京15区補選 立民・野田佳彦元首相と共産・小池晃書記局長が〝共闘〟 連合会長「残念」(2024年4月27日『産経新聞』)

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第95回メーデー中央大会であいさつする連合の芳野友子会長。右は岸田文雄首相=27日午前、東京都渋谷区(酒井真大撮影)
 
連合の芳野友子会長は27日、衆院東京15区補欠選挙(28日投開票)で立憲民主党共産党から支援を受ける状況に重ねて苦言を述べた。立民の野田佳彦元首相と共産の小池晃書記局長が一緒に街頭演説に臨んだことに言及し「非常に残念だし、連合としては容認できない」と指摘した。東京都内で記者団に語った。
 
連合は、次期衆院選の基本方針に、共産を念頭に置いて「異なる社会の実現を目的に掲げる政党から支援を受ける候補者は推薦できない」との文言を盛り込んでいる。
 
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小池 晃(日本共産党
@koike_akira
大激戦の衆議院 #東京15区 補欠選挙、JR亀戸駅前で共同街宣。私は、江東市民連合の宇都宮けんじ弁護士、立憲民主党野田佳彦衆議院議員と共に、#酒井なつみ 候補の勝利で、裏金政治を終わらせようと訴えました。司会は手塚仁雄衆議院議員
演説会に来られていた小堤東江東地区委員長ともエールを交換。
 
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メーデー中央大会で岸田首相に「帰れ」とやじ 連合・芳野会長「非常に申し訳ない」(2024年4月27日『産経新聞』)
 
連合が27日に東京都内で開催した第95回メーデー中央大会の式典で、政府代表として岸田文雄首相があいさつする際、一部の参加者から「帰れ」などのやじが飛んだ。
 
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メーデー中央大会であいさつする岸田首相。「帰れ」などのやじが飛んだ
 
式典後、連合の芳野友子会長は記者団に「来賓に組織内からやじが飛んだということは、非常に申し訳ないと思う」と述べた。一方で「国民としてさまざまな思いが政府に対してあるというのは理解できる」とも指摘した。
 
 

「不徳の致すところ」では済まされない長谷川岳氏のパワハラ騒動 国会議員→自治体職員はレア?(2024年4月27日『東京新聞』)

 北海道が道内選出の国会議員によるパワハラ騒動で揺れている。震源自民党長谷川岳参院議員(53)。道庁職員をはじめ、複数の自治体職員に威圧的な態度を取ったと伝えられる。各地で地方議員のハラスメント防止条例が制定される中、「行きすぎた国会議員」を生まない術(すべ)、たしなめる方法はあるか。(宮畑譲)
 
◆「表現方法が時代にそぐわない」と釈明
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 「不徳の致すところです。私の表現方法が時代にそぐわないものであることを痛感いたしました。以後、時代に即した表現方法に変えて参ります」
 パワハラを疑われる行為や威圧的な態度があったとの報道を受け、長谷川氏はブログでそう釈明した。
 2010年の参院選北海道選挙区で初当選した長谷川氏は、現在3期目。総務大臣政務官や総務副大臣を歴任した。北海道大在学中に「YOSAKOIソーラン祭り」を企画したことでも知られる。
 
◆面談で上京、経費は2000万円
 同氏を巡っては道庁や帯広市の職員らが叱責(しっせき)されるなど、威圧的な態度を取られたと受け止める例があったという。札幌市の秋元克広市長は「かなりきつい調子で言われる方」などと苦言を呈した。
 それだけではない。札幌市では昨年度、長谷川氏と面談などをするために市長や副市長を含め計284回、東京へ出張した。経費は約2000万円に上り、うち72回は面談のみが目的だったという。同氏とのやりとりなどで残業時間が月100時間を超えた職員も。
 道庁でも昨年度、面談などのために20回以上、出張した職員が複数人いた。さらに昨年11月以降、国会で補正予算が成立するなどのタイミングで道幹部がお礼のメールを送り、誰が送ったのかを確認、共有した。他の国会議員に同様の対応はしていなかったという。
 
◆「地元の評判が落ちて選挙に響く」
 「こちら特報部」は長谷川氏に改めて見解を聞こうと、国会事務所に複数回、電話したものの、つながらなかった。ファクスを送信しても、期限までに回答はなかった。
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国会議事堂
 
 驚きと怒りが広まった長谷川氏を巡る問題。国会議員が自治体職員に威圧的な態度を取ったり、むちゃな要求をしたりすることはよくあることなのか。
 自治体での勤務経験もある神戸学院大の中野雅至教授(行政学)は「普通、国会議員と自治体は中央省庁に対する陳情などでタッグを組む。地元の評判が落ちれば選挙にも響く。あまり考えられないケースだ」と解説する。
 一方で、国会議員が自治体職員にハラスメントを行う可能性は「抜け落ちていた視点」だという。
 「『公務員はたたいてもよい』という風潮が行きすぎた結果のような気もする。政治家が公務員を追及することで隠された事実が明るみに出たり、物事が動いたりすることもあるが、職務権限に関係なく、何らかの規定をつくるべきだ」
 ハラスメントに詳しい笹山尚人弁護士は、議員の問題に限らず、昨今の世情としてこう口にする。
 
◆「人間関係づくりが劣化」
 「昔からひどいハラスメントは民事訴訟や刑事事件になる可能性があった。以前からあったことが表面化するようになったのに加え、互いに配慮する人間関係づくりが劣化しているように感じる」
 地方議員のハラスメントについては、多くの自治体で防止条例が定められている。では、国会議員と自治体職員の間で生じる同様の問題はどう対処すべきか。
 笹山弁護士は「必ずしも直接、指揮命令する関係になくても、接触する機会があり、優越的な関係を利用していれば、ハラスメントを否定する要因にはならない」と説明し「対処するルールを具体化する議論が必要だろう」と提唱した。
 

<ぎろんの森>「密告」で推進? マイナ保険証(2024年4月27日『東京新聞』)

 
 やはり見過ごしてはならないと考えました。
 武見敬三厚生労働相が、マイナンバーカードに健康保険証の機能を持たせた「マイナ保険証」の利用率とは関係なく、閣議決定通り、現行の健康保険証を12月に廃止すると言明したことです。
 
マイナンバーカードの表面(見本)

マイナンバーカードの表面(見本)

 東京新聞は25日の社説「現行保険証廃止 責任転嫁せず撤回せよ」で「マイナ保険証の利用率は3月も5.47%と低迷している」「背景にはマイナカードへの国民の疑問や不安があり、誠実に対応しないまま現行保険証を廃止すれば、混乱は避けられまい。政府には廃止方針の撤回を求めたい」と主張しました。

◆「政府の考えに不信が募る」

 読者から本紙に「廃止とはとんでもない。マイナカード普及を強引に進めるだけの政府の考えに不信が募る」「これからも個々の具体例を挙げて、悪政から市民を守る記事をどんどん書いてほしい」との意見が相次いで寄せられました。論説室として意を強くして、読者の皆さんに背中を押された思いです。
 政府は現行保険証の12月廃止という目標を掲げ、マイナ保険証の普及を図ろうとしているのでしょうが、現行保険証でも支障がないのに、「総点検」後もトラブルが相次いでいるマイナ保険証をなぜ強引に導入しようとするのか、理解に苦しみます。

◆一閣僚が国会議員に「指示」

 さらに看過できないのは、河野太郎デジタル相が自民党の国会議員に対し、マイナ保険証が利用できない診療所や病院があった場合、相談窓口への連絡を支援者に呼びかけるよう求める文書を配布していたことです。
 政府方針に従わない医療機関を探して「密告」を促す手法には背筋が寒くなります。読者から「中国やロシアのような監視社会、言論弾圧に一歩ずつ近づいている気がします」との声も届きます。河野氏はそんな監視社会を目指しているのでしょうか。
 そもそも一閣僚が、国権の最高機関を構成する国会議員に「指示」することが許されていいのか。三権分立に反すると反発する自民党議員はいなかったのでしょうか。
 そんなに政府が個人情報を一括管理したいのなら、醜悪な裏金事件が二度と起きないよう、自民党議員の政治資金をすべてひも付け、透明化してからにしろ、と言いたくもなります。読者の皆さんはどうお考えですか。(と)
 
 

 

東山紀之社長の空虚な受け答えは「苦笑を通り越して怖かった」 松尾潔さんが見たジャニーズ性加害問題<下>(2024年4月27日『東京新聞』)

 
 旧ジャニーズ事務所(現スマイルアップ)創業者の故ジャニー喜多川氏の性加害を取り上げ、社会問題となる契機となった英BBC放送(BBC)のドキュメンタリー番組の続編「捕食者の影」が3月30日に放送された。性加害問題への言及を続ける音楽プロデューサーの松尾潔さん(56)は、番組内で記者の質問に答える東山紀之社長の「空虚さ」を指摘する。松尾さんに聞いた。(望月衣塑子)

 松尾潔(まつお・きよし) 1968年、福岡県生まれ。音楽プロデューサー、作家。少年時代から米黒人音楽に心酔し、早稲田大在学中から国内外で取材活動を展開。評論の寄稿やラジオ・テレビ出演を重ねる。90年代半ばから音楽制作へ。宇多田ヒカルさんのデビューにブレーン参加。平井堅さん、CHEMISTRY、JUJUさんらにミリオンセラーをもたらす。2008年、EXILE「Ti Amo」(作詞・作曲)で第50回日本レコード大賞「大賞」を、22年12月、天童よしみさんの「帰郷」で第55回日本作詩大賞を受賞した。提供楽曲の累計売上枚数は3000万枚超。著書に小説「永遠の仮眠」(新潮社)、新刊「おれの歌を止めるな ジャニーズ問題とエンターテインメントの未来」(講談社)など。

 

インタビューに答える音楽プロデューサーの松尾潔さん

インタビューに答える音楽プロデューサーの松尾潔さん

◆会社トップとして失言のオンパレード

 ―BBCの続編をどう見ましたか。
 東山氏が「スマイルアップの責任者を務めることについて社会は信用しているか、信用すべきだと思うか」と聞かれ、「僕しかいない。タレントやスタッフを路頭に迷わすわけにはいかない」と即答しているが、違和感があった。組織防衛が前面に出てきた話し方で、彼はまず何より「被害者救済をするために社長になった」と言うべきだったのでは。
 あの場で何を言うかは、会社のトップとして重要だ。組織の内側、ファンの人にはファン思いの東山氏になるのかもしれないが、記者の質問の真意を理解していれば、あんな答えは出てこない。
 皮肉込みで言えば、NHK大河ドラマや数々の時代劇で主役を演じてきた東山氏が、鮮やかな口跡でこんな空虚なことを言うのかと苦笑を通り越して怖かった。BBCのカメラの前にサポート役のスマイル社の弁護士はいたのか。失言のオンパレードだった。
 
2023年10月の会見時のスマイルアップ社・東山紀之社長

2023年10月の会見時のスマイルアップ社・東山紀之社長

 東山氏は、2月のインタビューで被害申告をした約1000人のうち、約200人と面会したと話していた。一方で、自分には社会福祉士の資格もなく、カウンセリングの正式な訓練を受けた経験もないと。それが善行であるかのごとく「僕が聞くことで少しでも心が癒やされれば、それが自分の役割」「僕と話してカウンセリングになるなら」と話していたことも気になる。市民感覚というものとは違う場所で生きてきたと思わざるを得ない。社会福祉士ソーシャルワーカーをしている人たちに対しても軽すぎる発言だ。

◆スタッフ2人の性加害認めても「通報考えていない」

 東山氏だから話せないということもあるはず。もちろん、被害者からの聞き取りは彼の使命でもあるのだろうが、悪気がないからいいという問題ではない。
 喜多川氏以外にもスタッフ2人の性加害があったことを認めた東山氏は、「名前の公表や警察への報告は考えていない。権限がない」と言い「被害者が告訴すれば、自分たちも警察に情報提供する」と言った。
 2017年に強制わいせつ罪などの性犯罪が親告罪から非親告罪になり、被害者の告訴が不要になった。被害者補償に向き合うトップがこれを知らなくていいのか。付け焼き刃でもBBCの取材の前におさらいをしなかったのか。この国の多くの人々に知られているあの良い声、良い話し方で「僕には権限がないので」と言うと、何か別の狙いがあるのかといぶかしんでしまう。
 ―BBCの記者が、警察への情報提供を約束できるか聞いても東山氏は「もちろんオプションとしては考えなければいけないと思っている」と警察への情報提供を約束しなかった。どう受け止めたか。
 ある程度は想定問答があるとして、それでも「2人の性加害者を警察に通報しない」ということが会社の総意だとしたら失望を覚える。BBCの記者は変化球を投げているわけではなく、あくまでBBCの人が聞くならこういう内容だろうという想定内での質問しかしていない。東山氏がせりふを読み違えているのでなければ、あの会社の総意なんだろう。

◆誹謗中傷で亡くなった人が出ているのに…

 ―誹謗(ひぼう)中傷への対応について東山社長の発言をどう受け止めたか。
 
オンラインで記者会見するBBCのモビーン・アザー記者(画面右)=10日、東京都千代田区の日本外国特派員協会で

オンラインで記者会見するBBCのモビーン・アザー記者(画面右)=10日、東京都千代田区の日本外国特派員協会

 番組では、誹謗中傷を受け昨年10月に無くなった遺族が出てきた。それなのに誹謗中傷に対し「言論の自由というのもある」「その人の正義もある」と言い、耳を疑った。自分が正義を守るかのように「言論の自由がある」と現状を是認する東山社長を見て、「表現の自由戦士」というネットスラングを思いだした。
 ―25日にスマイル社は、東山社長の発言を意図的にゆがめて放送したとして英BBC放送に抗議し、訂正と謝罪を求める文書を送ったと発表した。
 私が気になるのは、BBCがオンエアで割愛したという「なるべくなら誹謗中傷は無くしていきたいと僕自身も思っています」の中で「なるべくなら」と言う部分。誹謗中傷をなくしたいという強固な意志が感じられない。仮にこの部分も放映されていたら、むしろ東山社長への批判の度合いが高まることになったのではないだろうか。
 
インタビューに答える音楽プロデューサーの松尾潔さん

インタビューに答える音楽プロデューサーの松尾潔さん

 そもそも、現在の東山氏への『誹謗中傷を助長』という批判は、抗議文書で引用された「言論の自由もあると思うんですね。僕は別に誹謗中傷を推奨しているわけでもなく、多分その人にとっては正義の意見なんだろなと思う時もあります」という箇所だけに向けられたものではない。
 「僕が(被害者の声を)聞くことで少しでも心が癒やされれば」「(性加害を行ったスタッフの)名前を公表したり警察に報告したりすることは積極的には考えていない」といった発言等も含めて、市民が総合的に判断したうえで形成された世論と考えるのが自然だろう。今回のスマイルアップ社の抗議は、論点ずらしの印象が拭えない。
 少なくともこの国のエンタメビジネスのリーディングカンパニーのトップがとるべき行動ではない。備えてしかるべき知識・認識・見識・常識が著しく欠けていることは否定できない。

◆「日本のテレビ局は何もやらない」証拠まで伝えた

 ―旧ジャニーズのテレビ出演は、4月と3か月後の7月とで、スマイル社のタレントが主役を張るテレビの新番組が合わせて9本ほどスタート。日本のテレビの現状をどう思うか。
 テレビ局がBBCの番組をほとんど報じないのは、広告代理店とスポンサーを考えると4月の番組が始まる直前に事を荒立てたくないからではないか。
 逆にBBCは日本の改編期を意識し、続編を3月に放送したのかもしれない。事実「ほら日本のテレビ局はみな何もやらないんですよ」という証拠付きで伝えることができた。6月に予定されている国連人権委員会の報告は、7月の改編期の直前。次にテレビはどういう反応をするだろうか。
 
 東山氏に取材依頼している日本のメディアは多いのに、スマイル社が全て断っていると聞く。では東山氏は、BBCをなぜ受けたのか。私の推論はこうだ。前回、BBCでは記者が港区赤坂の旧ジャニーズ事務所(現スマイルアップ)本社ビル入り口で取材を断られたシーンを流した。日本のテレビとは異なるトーンを感じさせる報道だった。今回もBBCの取材を断ると、それが世界で放映されると思い、それなら受けようとなったのではないか。どうせやるならわれわれスマイルアップの姿勢を広く知らしめたいと思ったのではないか。

◆支持者以外にどう思われようと構わない、自民党と同じ姿勢

 ―BBCの番組内では、スマイル社の広報は「虚偽の申告をする人たちがいる」と話す被害者たちを用意していた。どう思ったか。
 記者は何を見せられているんだろうと思っただろう。BBCは記者が「はっ?」とあきれている様子も流した。スマイル社側はよかれと思ってやったのか。賭けに出て失敗したのか。
 
BBC公式ホームページでドキュメンタリー番組「捕食者の影」を紹介するサイト(スクリーンショット)

BBC公式ホームページでドキュメンタリー番組「捕食者の影」を紹介するサイト(スクリーンショット

 

 スマイル側が用意した被害者たちの「声」は、ホームページ(現在は閉鎖)で「被害者でない可能性が高い方々が、本当の被害者の方々の証言を使って虚偽の話をされているケースが複数あるという情報にも接している」と注意喚起を呼びかけていたことを補完する証言をしている。
 ―スマイルのホームページに「虚偽の申告者がいる」と出た日は、NHKが局内のトイレでも被害者がいたと報じた日だった。どう受け止めたか。
 被害者が出たとされるNHK放送センター西館7階。その階下のスタジオで、私は自分が出演するラジオ番組を10年以上収録してきた。世界的に見ても巨大と評されるテレビ局社屋の廊下を、若い少年たちが成人マネジャーも伴わずにウロウロしているようなNHKの状況は不適切だったのではないか。むろんスマイルアップの責任者もいるとはいえ、少年たちが成人の付き添いもなく局内に出入りするのが日常的な光景になっていた。
 「被害申請者の中にうそつきがいる」という注意喚起がハレーションを生むことも想定しながら、それでもなおスマイルアップは自社のファンへの釈明としてやったのだろう。その様子は、いまの自民党有権者のとらえ方にも近いのではないか。野党の支持者にどう思われようが、与党の支持者に票を投じてもらえればいい、それ以外の人は選挙に来てくれるなという方法論と相似形だ。


 ジャニーズ性加害問題 旧ジャニーズ事務所創業者のジャニー喜多川氏(2019年死去)が所属タレントの少年たちに性暴力を加えていた問題。英BBC放送が2023年3月に報道し、被害を訴える告発が相次いだ。事務所は、喜多川氏による性加害を認めて謝罪。その後、社名を「スマイルアップ」に変えて、被害者への補償を終えた後に廃業する方針を示した。被害者への補償は4月15日時点で、受付窓口に981人が申告し、うち434人に補償内容を通知した。377人が合意し、354人に支払いを終えたという。スマイル社は具体的な補償金額を明らかにしていない。