米大統領は保護主義に走るな(2024年4月19日『日本経済新聞』-「社説」)

バイデン米大統領は中国製鉄鋼への制裁関税を引き上げる方針を表明した(17日、ペンシルベニア州ピッツバーグ)=ロイター

 

 11月の米大統領選は保護主義を競い合う場なのか。バイデン米大統領が打ち出す自国の鉄鋼産業を守るための措置に、憂慮を覚えざるを得ない。
 バイデン氏は17日、ダンピング(不当廉売)の疑いがあるとして中国製の鉄鋼やアルミ製品への制裁関税を、いまの3倍に引き上げると表明した。
 米国は中国から輸入する鉄鋼製品に対し、米通商法301条に基づいて7.5%の追加関税を課している。バイデン氏はこれを20%超に高めるよう、米通商代表部(USTR)に求める。
 中国政府が過剰な補助金で主要な産業を支えているのは事実であり、見直しを求めるのは当然だ。
 しかし、国内産業の保護を名目とする301条を使った一方的な措置には問題が多い。本来、貿易をめぐる紛争は世界貿易機関WTO)などを通じて話し合いで解決するのが筋だからだ。
 制裁関税の引き上げは、選挙対策の色彩が濃い。バイデン氏は今回の方針を、USスチールなど鉄鋼産業が集積するペンシルベニア州ピッツバーグで明らかにした。同州は大統領選のカギを握る接戦州の一つである。
 301条による一方的な制裁関税は、もともとトランプ前大統領が2018年に発動したものだ。バイデン氏が選挙のためにトランプ氏を上回る措置に突き進むのだとすれば、自由貿易に背を向ける行為だと言わざるを得ない。
 日本製鉄によるUSスチールの買収についても、バイデン氏は懸念を表明している。トランプ氏が反対の意向を示したのに対抗する狙いがあったのは明らかだ。
 両社の経営陣が合意したうえでの買収なのに、政治が介入するのは容認できない。
選挙戦が激しくなるにつれ、バイデン氏とトランプ氏の双方から外資の排除や保護主義を競うような言説が増えるおそれがある。それは先行きが不透明な世界経済の動揺を招く。両氏には最大限の自制を求めたい。