宝塚パワハラ、謝罪へ 業界全体の改革実現を(2024年2月27日『琉球新報』-「社説」)

 宝塚歌劇団の俳優が昨年9月に急死したことを巡り、ようやく歌劇団と遺族側の合意が成立しそうだ。歌劇団の親会社である阪急阪神ホールディングス(HD)がパワハラを認め謝罪する方向となった。遺族の悲しみに向き合い、二度と悲劇が起きないよう、企業体質、労働環境の抜本的改革を求めたい。

 昨年11月、双方が記者会見し、遺族側が謝罪と補償を求めたのに対し、歌劇団は調査報告書の概要を公表して長時間の活動、心理的負荷は認めたが、いじめなどは「確認できなかった」とした。
 会見で歌劇団の専務理事(現理事長)が「(いじめがあったと言うなら)証拠を見せていただきたい」と発言し強い批判を浴びた。遺族側は反発し、再検証を求めた。歌劇団は組織風土改善のためとして第三者委員会の設置を表明したが見送り、問題点の検証は「外部有識者の意見も聞きながら劇団の責任で進める」としていた。
 遺族側は12月、パワハラの証拠としてLINE(ライン)のメッセージを公表し、やけどの痕とされる写真を添付して意見書を歌劇団側に提出した。歌劇団歌劇団を運営する阪急電鉄は「ご遺族のお気持ちやお考えを真摯(しんし)に受け止め、誠実に協議していく」とコメントした。「改めて事実関係の精査などを行う」として、公式サイトから報告書概要を削除した。
 その後、歌劇団が2000年から21年の間に、割増賃金の不払いや労務管理の不備で労働基準監督署から計4回の是正勧告を受けていたことが明らかになった。労働災害も急増しており、過去10年間で90人規模で発生していた。
 労災増加の背景には公演内容の高度化があった。運営側が、厳しい上下関係による統制のしやすさを優先して労働環境悪化を放置してきたと批判された。入団6年目からフリーランス個人事業主)契約となることも「脱法的」と指摘された。
 今年に入り、パワハラを認め謝罪する方向に転換したことが分かった。阪急阪神HDトップの角和夫会長が管理責任をとって、歌劇団と養成機関「宝塚音楽学校」の両理事を退任する方向で調整中だ。
 長年続いた伝統、体質の改革は簡単ではなかろう。運営会社を含むトップが動く形でなければ、立ち直ることはできないはずだ。エンターテインメント業界全体の改革の契機になることを期待したい。
 旧ジャニーズ事務所の性加害問題など業界のハラスメント問題が次々と浮上する中、芸能人の権利を保護する新法制定を目指す署名運動が始まっている。不公平な契約や過重労働を防ぐ規定を設け、漫画家やユーチューバーまで幅広い分野のクリエーターを含めるべきだとしている。被害実態調査も行うという。当事者の声に耳を傾け、社会全体の課題として業界の体質改善を実現しなければならない。