花粉症対策 国民的問題の早期解消を(2024年2月27日『熊本日日新聞』-「社説」)

 今期も既に花粉の飛散が活発化している。花粉症の人にとってはつらい季節だ。スギ花粉の飛散のピークは3月ごろで、くしゃみ、鼻水、目のかゆみといったアレルギー症状を引き起こす。花粉症は「国民病」とも言われ、有症率は4割を超えたとされる。

 大量の花粉を発生させるスギ人工林は、高度成長期の住宅建材需要などを見込んだ戦後の林業政策によって形成された。政府は昨年、花粉の発生抑止、飛散予測、治療の3分野からなる総合的な花粉症対策をまとめた。それぞれの具体策を着実に進め、国民を悩ませる社会問題の早期解消を目指してもらいたい。

 花粉症患者の割合は近年も増加傾向にある。日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会の診療ガイドラインによると、1998年には国民の16・2%だったが、2008年に26・5%になり、19年には38・8%に増えた。

 製薬会社が最近公表した7千人超の親への調査結果によると、子どもへの影響も目立っている。病院で花粉症と診断されたり、症状からそう思われる0~16歳の子どもは42・6%で、小学生に絞ると約47・4%に及んだ。花粉症のために「授業など勉強に集中できない」「夜眠れない」といった声も寄せられた。

 花粉の発生を抑止するため、政府は沖縄を除く46都道府県に近く対策の「重点区域」を設定。スギ人工林の伐採と花粉飛散の少ない品種への植え替えを集中的に進めることにした。全国のスギ人工林は約441万ヘクタールで、その2割を重点区域とする。伐採促進に向け林業団体などを支援し、全国の伐採ペースを現在の年5万ヘクタールから10年後に7万ヘクタールに伸ばす考えだ。30年後に花粉発生量を現在の半分に減らすことを目指す。

 スギ材は従来、安価な輸入材に押されて需要が低迷。伐採期を迎えても放置される状況が続いてきた。このため今後伐採を加速しても、その後の木材の有効活用が課題になる。

 国土交通省林野庁は、住宅メーカーが、スギなどの国産材を多く使った新築住宅であることを消費者にPRできる表示の仕組みを新たに設ける方針という。そうした取り組みをしっかり進めるべきだ。

 伐採後に何も植えずに山林を放置すると、土砂崩れなどの危険性が高まる。このため花粉飛散の少ないスギへの植え替えが必要になるという。そうした作業を担う人材の確保も課題だ。政府は外国人材の受け入れ拡大を対応策に盛り込んだ。

 治療分野でも、薬で花粉に反応しない体質に改善する「舌下免疫療法」の普及に向け、原料確保や増産体制の整備のための支援が検討されている。

 改良スギへの植え替えなどを含む花粉症対策は従来も行われてきたが、十分に進んでこなかった。新たな対策を計画倒れに陥らせず、具体策の実施を加速させてほしい。