宝塚パワハラに関する社説・コラム(2024年4月2日)

宝塚パワハラ 組織風土変えられるか(2024年4月2日『東奥日報』ー「時論」/『茨城新聞山陰中央新報佐賀新聞』-「論説」)

 

 宝塚歌劇団の劇団員だった女性が昨年9月に急死した問題で、歌劇団を傘下に持つ阪急阪神ホールディングス(HD)は上級生らによるパワーハラスメントを認め、遺族に謝罪した。合意書が交わされ、女性の額にヘアアイロンでやけどを負わせたり、人格を否定するような言葉を浴びせたりするなど計14件のパワハラ行為が確認された。

 女性は自殺したとみられ、遺族側はパワハラを指摘し、歌劇団に謝罪と補償を求めた。だが歌劇団側は昨年11月、外部弁護士の報告書を公表し「パワハラは確認できなかった」と主張。理事長が「(あったと言うなら)証拠を見せていただきたい」と発言するなどかたくなな姿勢を崩さず、決着まで半年近くを要した。

 歌劇団側の対応は遅きに失したと言わざるを得ない。パワハラを認めれば、厳しい上下関係と指導という歌劇団の「伝統」を批判され、イメージが低下すると考えたのだろう。阪急阪神HDの記者会見では、執行役員パワハラ行為の一部について「悪意があったとまでは言えない」と述べ、遺族側と見解が一致していないことを強調した。

 再発防止策が示されたとはいえ、歌劇団内のしきたりや行き過ぎた指導方法を巡り、どこまで反省を深めているのか、見えづらい。悲劇を繰り返さないため、組織風土を変えられるかが問われている。それなしに再出発に理解は得られない。

 宝塚音楽学校の試験に合格し歌唱や演技、バレエなどの基礎を積み、歌劇団に入団する。花、月、雪、星、宙(そら)の5組に分かれて華やかな舞台に立ち、トップスターを目指すが、音楽学校時代から上級生、下級生の厳格な序列に組み込まれる。

 亡くなった女性は当時25歳。入団7年目で宙組に所属し、下級生のまとめ役として演技指導や衣装準備に追われ、公演に備え自らの稽古もこなしていた。そんな中、上級生から「下級生の失敗は全て、あんたのせい」「うそつき野郎」と何度も罵声を浴びせられた。

 「ずっと怒られているから、なんで怒られているか分からない」などと、家族に訴えたこともあった。しかし当初、歌劇団側は「社会通念に照らして許容の範囲内」として片付けようとした。

 特に、上級生が女性の額にヘアアイロンを押し付け、やけどをさせたとされる一件で「故意と判断できなかった」としたことに遺族側は強く反発。最終的に「気遣いや謝罪をしなかった」と、これもパワハラに含め「全ての責任は劇団にある」と認めた。ただ全面謝罪が真摯(しんし)な反省に基づいたものか、疑問は残る。

 そもそもパワハラを否定した報告書は、歌劇団を運営する阪急電鉄のグループ企業役員がいる弁護士事務所に任されていた。調査の公正さが疑われても仕方ない。外部有識者から成る第三者委員会も設置していない。

 遺族側への譲歩に方向転換した背景には一連の対応に批判が高まり、4月に予定していた宝塚歌劇110周年記念式典の中止や宙組の公演見合わせなど事業への影響が深刻化し、追い詰められたという事情が浮かぶ。

 歌劇団側はまだ言いたいことがあるかもしれないが、理不尽な指導・叱責(しっせき)を排し、劇団員の人権を尊重する組織改革は待ったなしだ。阪急阪神HD、阪急電鉄が劇団任せにせず、前面に立ち着実に進める必要がある。(共同通信・堤秀司)

 

【宝塚パワハラ】組織の古い体質を見直せ(2024年4月2日『高知新聞』-「社説」)

 夢や感動を与える舞台芸術が、人権を侵害しながら成り立っているようでは本末転倒だ。問題との向き合い方が問われている。組織体質の徹底した見直しが求められる。
 宝塚歌劇団の俳優の女性が急死した問題で、親会社阪急阪神ホールディングス(HD)は上級生らによる女性へのパワーハラスメントを認め、遺族側と合意した。ハラスメントは14項目になる。角和夫HD会長らが遺族側に直接謝罪し、パワハラを行った上級生らの相当数が謝罪文を遺族に提出したという。
 女性は入団7年目で、遺族側は過重な業務やパワハラによって心身の健康を損ない、昨年9月に自殺に至ったと訴えた。これに対し歌劇団側は、上級生からの指導・叱責(しっせき)で強い心理的負荷がかかった可能性があるとしつつ、ハラスメントは確認できなかったとした。いじめの証拠を遺族側に要求する場面もあった。
 歌劇団側は、遺族側とはハラスメントが起きた背景や言葉の解釈について相違が残っているとする。遺族が故意だと主張したヘアアイロンによるやけどや上級生の叱責などを念頭に、悪意があったとまでは言えないと判断した。その上で、行き過ぎた行為はパワハラに該当するとの認識を示した。
 よりよい舞台を創作したいと思うのは当然だ。日々練習に励むことが作品の完成度を高める。だからといって、長時間労働の強要やパワハラ放置が容認されるわけはない。時代に合わせた俳優教育や雇用形態の在り方、安全確保策をないがしろにしてきた責任は重い。
 歌劇団側は、組織風土を変えなかったことを怠慢と位置付け、過失を認めた。遺族側は歌劇団に過ちを認めさせた意義を、劇団員の人権や健康を守る重要な礎石となったと位置付ける。その反省に基づき組織の再生に努めることが重要だ。
 遺族側との交渉は長期化した。歌劇団側の調査が不十分だったことに遺族側は反発を強めていた。歌劇団としては早期の幕引きでブランドのイメージを守るつもりが、かえって事態を混乱させる結果となった。
 今回、方針転換を図ったのは、事業への影響拡大を食い止めたい思惑が指摘される。また、スポンサー企業との契約更新を要因とする見方もされる。スポンサー側はハラスメントへの批判が自社に波及しないよう慎重になっている。
 それだけに、根本的な原因に踏み込んで変革する必要がある。収束を急ぐあまり形だけの対応にとどめれば問題は繰り返されかねない。
 ファンからは、パワハラが存在した驚きや、認定が遅すぎるとの批判が上がる。こうした声と真剣に向き合いながら、新しい組織づくりを進めることがファンの信頼回復へとつながっていく。
 歌劇団側は、全力で改革に取り組むと表明した。再発防止の一環として、弁護士ら外部の有識者でつくる諮問委員会を設置し、改革への助言を受けるとする。そうした取り組みが注視される。