米排日移民法100年 分断深めた歴史を教訓に(2024年5月30日『毎日新聞』-「社説」)

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米国の排日移民法成立に反対する国民大会=1924年7月
 日本人の移住を禁止する排日移民法が米国で定められてから100年になる。国家間に憎悪を生み出し、世界の分断を深める一因となった。教訓を今に生かしたい。
 1924年5月に成立した。南欧や東欧、アジアからの移民急増で人種的な摩擦や仕事の奪い合いが各地で起き、規制を強化した。
 すでに米国への移住を制限していた日本も対象としたのは、強国として台頭することへの警戒感やアジア人への差別意識があったからだという。日本では反米感情が高まり、やがて日米開戦に至る。
 日本が招いた惨禍を正当化する理由にはならない。だが、米国の排外主義がその伏線として作用したことは否定できないだろう。
 そして今、世界を見渡せば、当時と似たような光景が広がる。
 ドイツやオランダでは移民排除を掲げる極右政党が支持を伸ばしている。フランスでは外国人の受け入れや滞在許可の要件を厳格化した。
 移民大国の米国でもまた、寛容政策をとるバイデン政権に対する批判が高まっている。大統領選で競うトランプ前大統領は不法移民の一掃を公約に掲げる。
 背景にあるのが、紛争や内戦を逃れた難民の急増だ。反移民感情は高まり、排外主義を掲げるポピュリズム大衆迎合主義)が支持を広げている。
 欧州では流入するイスラム教徒への差別が横行する。米国では中南米系やアジア系がその標的になり、各地でいさかいが絶えない。
 民族の対立は戦争をも引き起こしている。ロシアは同じ民族を守ると主張して隣国に侵攻した。イスラエルパレスチナは無残な戦いを繰り広げている。このままでは世界の分断は深まり、紛争は拡大し続けるだろう。
 この流れを反転させる必要がある。重要なのは、協調主義の衰退を食い止めることだ。自国の利益のみを追求する「一国主義」から脱却しなければならない。
 日本との外交関係よりも、白人中心の社会の維持を重視した――。移民法制定当時の政治状況を米国務省は記録に残している。
 この100年で外交はより重要になり、人権意識は高まった。その促進に注力することが今を生きる指導者たちの責務だ。