地域で暮らす外国人 「移民」の現実直視する時(2024年5月7日『毎日放送』-「社説」)

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能登半島地震被災地への支援で、車両に資材や物資を積み込んだクルド人のボランティア=埼玉県川口市で2024年2月23日午前10時27分、田原拓郎撮影
 
 日本で暮らす外国人が急増し、さまざまな分野で社会を支えている。どう向き合っていくかが問われている。
 在留外国人は昨年末時点で、総人口の2・7%に当たる約341万人に上る。前年から30万人以上増えた。紛争や迫害から逃れてくる人たちもいる。
 地域で外国人が生活する光景が当たり前になった。にもかかわらず、偏見は社会に根深く残る。
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外国人が多く住む群馬県大泉町には、外国語の看板を掲げた店が並ぶ=2024年4月26日午後5時30分、北村和巳撮影
 人権を守る観点から、憂慮すべき事態も起きている。クルド人に対するヘイトスピーチは、その典型例だ。
 主にトルコ、シリア、イラクなどにまたがる山岳地帯で暮らし、「国を持たない最大の民族」と呼ばれる。度々戦争に巻き込まれ、迫害を受けてきた。
 日本では、埼玉県の川口市蕨市を中心に2000人以上が住むとされる。身寄りを頼り、集まってきた。
社会に残る根深い偏見
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特定技能1号の資格で食品会社で働くベトナム人女性=長野県伊那市で2020年3月24日午後、北村和巳撮影
 
 「攻撃」が目立ち始めたのは昨春以降だ。ネット交流サービス(SNS)に「出て行け」「偽装難民」などの投稿が相次いだ。
 在留資格がない外国人の帰国を徹底させる入管法改正案が国会で審議されていた時期と重なる。クルド人の中には、難民と認められず、入管施設への収容を一時的に解かれている人が少なくない。
 クルド人同士のトラブルなどを受け、バッシングは過熱した。電話で繰り返し罵声を浴びせかけられたり、排外主義のデモが行われたりしている。だが、いかなる理由であれ、差別は許されない。
 日本人と外国人の間に分断を生じさせず、違いを認めながら互いを尊重する共生社会を、どのように築いていけばいいのか。
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外国人材の受け入れ・共生に関する関係閣僚会議で発言する岸田文雄首相(左から2人目)=首相官邸で2024年2月9日午前8時43分、竹内幹撮影
 
 外国人が多い自治体は取り組みを進めている。
 自動車などの工場が集まる群馬県大泉町は、人口4万人余のうち外国人が2割を占める。1990年の入管法改正で日系人の就労が拡大し、働き手として多くのブラジル人が住むようになった。
 町は外国語が話せる職員を採用し、ポルトガル語などで広報紙を発行する。公立の小中学校全てに日本語を学習するクラスを設け、民間の日本語教室を支援する。
 力を入れているのが「文化の通訳」事業だ。日本の文化や暮らしのマナーなどを学ぶ講座を開催し、家族や知人にも伝えるよう、参加者に働きかけている。
 地域の生活者としての意識を高めるとともに、行政との橋渡し役も担ってもらう狙いがある。ボランティアで地域の活動に参加する外国人も出てきている。ブラジル人の多くは定住し、家族を持って一軒家を構える人もいる。
 近年はベトナムやネパールなどアジアの人が増え、多国籍の人々に、どう対応するかも町の課題となっている。
共生社会へ国が主導を
 公益財団法人・日本国際交流センターの毛受(めんじゅ)敏浩執行理事は「交流の接点を積極的につくる必要がある」と話す。課題に精通した専門家を育て、自治体が地域の状況を的確に把握することも重要だと指摘する。
 ただ、自治体の取り組みには限界がある。特定地域だけの問題ではない。国全体で対応すべきだ。
 人口減少が加速し、政府は外国人の受け入れ拡大を進めている。
 即戦力となる労働者の在留資格「特定技能1号」の対象業種を広げた。受け入れの上限も大幅に増やした。昨年度までの「5年間で34万人余」から、今年度以降は「5年間で82万人」となる。
 家族の帯同が認められ、無期限の就労が可能になる「特定技能2号」の対象業種も拡大された。
 人権侵害を招いていると批判されてきた技能実習制度を見直し、人材確保に力点を置いた仕組みに変える法改正も国会で審議中だ。
 深刻な働き手不足が懸念される実情を踏まえた動きだ。一方で政府は「外国人を家族ごと無期限に受け入れることで、国家を維持する政策は取らない」と説明する。
 しかし、労働力の調整弁という考え方にとらわれている限り、人権は守れない。共生のための施策や日本語教育も中途半端に終わり、分断を広げかねない。
 毛受氏は「日本はもはや、移民をタブー視する状況にはない。国が基本的なスタンスを明確に示す必要がある」と強調する。
 外国人なしでは回らない「移民社会」となっている現実を、政治は直視する必要がある。