米大統領選/混乱回避へ日本も備えを(2024年3月10日『神戸新聞』-「社説」)

 11月の米大統領選に向けた共和党候補の指名争いは、15州の予備選などが集中した5日のスーパーチューズデーでトランプ前大統領が圧勝し計23勝2敗となった。ヘイリー元国連大使は振るわず、選挙戦からの撤退を表明した。

 トランプ氏の候補指名は確実となり、民主党の現職、バイデン大統領と戦う本選の構図がほぼ固まった。4年前と顔触れは変わらず、国民の間には冷めた見方も広がる。社会の閉塞(へいそく)感を示しているようだ。

 トランプ氏は国民の分断をあおる言動を繰り返し、自国最優先で国際秩序の維持にも後ろ向きの姿勢を示す。選挙結果は緊迫度を増す世界情勢だけでなく、今後の民主主義のあり方にも影響しかねない。米国社会が建設的な議論を重ねていくことを期待したい。


 トランプ氏は前回の選挙結果を認めず、連邦議会襲撃を誘発した事件など4件で起訴された。西部コロラド州最高裁などはトランプ氏の大統領選立候補資格を剝奪する判断を下したが、連邦最高裁は「一部の州の判断で左右される」点を問題視して資格を認める判決を出した。しかしトランプ氏が民主主義の根幹である選挙制度を否定している事実は変わらず、免罪符にはならない。

 それでも熱狂的な支持を集める要因は「米国を再び偉大に」など単純で力強いメッセージにある。移民政策緩和や性的少数者の地位向上といった民主党政策から取り残されたと感じる労働者や農民に、伝統的な社会への回帰を期待させるのだろう。

 民主党だけでなく共和党も、こうした人々に光を当ててこなかった。米国の政治家は真摯(しんし)に省みなければならない。

 バイデン氏は一般教書演説で「米国内外で自由と民主主義が攻撃を受けている」とトランプ氏からの決別を訴えた。しかし81歳という高齢への不安もあり、トランプ氏のような熱狂的な支持者が少ないのが弱みだ。

 大統領選の議論ではウクライナ支援やパレスチナ情勢への対応だけでなく、国内産業の優遇など世界経済に大きな影響を与えるテーマも扱われる。日本も注視し、誰が大統領になっても混乱に陥らないよう備えたい。