自国優先の保護主義政策が広がれば、世界経済は混乱する。歯止めを掛けるのは主要国の責務だ。
中国政府による巨額の補助金でEVが過剰に生産され、輸出価格が不当に押し下げられていると米国は批判している。G7も各国の雇用や産業に打撃を及ぼすとして、共同声明で懸念を表明した。
公正な貿易がゆがめられているとすれば、具体的な影響を調べたうえで是正を求める必要がある。
とはいえ、米国がEV向けの関税を現行の4倍の100%に引き上げると決めたのは一方的な制裁であり、極めて乱暴だ。
中国は、日米欧などから輸入する自動車部品用の樹脂が不当に安い疑いがあるとして調査に着手した。報復の用意との見方もある。
大国間の制裁合戦は貿易を縮小させかねない。インフレなど多くの懸案を抱える世界経済をさらに悪化させる恐れがある。
欧州各国は制裁関税には距離を置く。フランスが「貿易戦争はどの国にも利益にならない」と主張したのは当然だろう。
ウクライナ危機などで国際社会の分断が深刻化する中、協調を主導する役割を今こそ果たさなければならない。
G7のリーダーたちは立場を自覚し、イタリアで来月開かれる首脳会議(サミット)で保護主義を排する方針を確認すべきだ。
ウクライナ危機が長期化し、米欧では「支援疲れ」が広がる。米国の軍事支援は約半年間停滞し、4月に610億ドル(約10兆円)の追加予算がようやく成立した。
年間で約30億ユーロ(約5000億円)の運用益が見込めるという。9割を軍事支援、1割を復興支援に充てる方針だ。
G7の声明では、EUの合意を「歓迎」した上で、G7としても「議論を前進させている」と総括した。米国は今回、将来にわたって生み出す利子を「担保」に、500億ドル(約8兆円)規模を融資する案を示したという。
米国案には、短期間にまとまった額を渡せる利点がある。ただし、金融市場の動向によっては運用益が想定通りに得られない可能性がある。G7は、米国案をたたき台として、どれだけの支援が可能か精査することが大切だ。
議論が前進したのは、米国が巨額の資金を活用できる資産の没収案から今回の案に切り替えたからだ。日本政府は、没収案は国際法に抵触する恐れがあると指摘し、声明にも国際法や法制度と整合的である必要性が明記された。
G7は来月の首脳会議(サミット)で合意できるよう、話し合いを尽くしてほしい。