G7財務相会議に関する社説・コラム(2024年5月30日)

G7と米中貿易摩擦 保護主義拡大に歯止めを(2024年5月30日『毎日新聞』-「社説」)
キャプチャ
写真撮影に応じる主要7カ国(G7)の財務相中央銀行総裁ら=イタリア北部ストレーザで2024年5月24日、AP
 自国優先の保護主義政策が広がれば、世界経済は混乱する。歯止めを掛けるのは主要国の責務だ。
 日米欧の主要7カ国(G7)は財務相らによる会議を開催し、中国製の電気自動車(EV)を巡る米中の貿易摩擦をテーマに取り上げた。
 中国政府による巨額の補助金でEVが過剰に生産され、輸出価格が不当に押し下げられていると米国は批判している。G7も各国の雇用や産業に打撃を及ぼすとして、共同声明で懸念を表明した。
 公正な貿易がゆがめられているとすれば、具体的な影響を調べたうえで是正を求める必要がある。
 中国の李強首相は日韓首脳との会談で保護主義に反対する考えを強調した。ならば不透明と言われる補助金の実態を説明すべきだ。
 とはいえ、米国がEV向けの関税を現行の4倍の100%に引き上げると決めたのは一方的な制裁であり、極めて乱暴だ。
 本来は世界貿易機関WTO)などを通じて、対話で解決すべき案件である。強硬策は相手国の反発を招き、対立を深めるだけだ。
 中国は、日米欧などから輸入する自動車部品用の樹脂が不当に安い疑いがあるとして調査に着手した。報復の用意との見方もある。
 大国間の制裁合戦は貿易を縮小させかねない。インフレなど多くの懸案を抱える世界経済をさらに悪化させる恐れがある。
 欧州各国は制裁関税には距離を置く。フランスが「貿易戦争はどの国にも利益にならない」と主張したのは当然だろう。
 G7はこれまで、地球温暖化などグローバルな課題で国際協調をリードしてきた。自由貿易を推進して、各国の経済関係を深め、世界の成長を後押しした。
 だが中国やインドなど新興国の発展に伴い、守勢に回った先進国は「自国第一」の姿勢を強める。米国などは対中戦略として半導体業界に補助金をつぎ込み、市場原理を損ねると批判されている。
 ウクライナ危機などで国際社会の分断が深刻化する中、協調を主導する役割を今こそ果たさなければならない。
 G7のリーダーたちは立場を自覚し、イタリアで来月開かれる首脳会議(サミット)で保護主義を排する方針を確認すべきだ。
 
G7財務相会議 露凍結資産の活用策急ぎたい(2024年5月30日『読売新聞』-「社説」)
 
 ロシアに侵略されたウクライナは、武器・弾薬の調達や復興の資金不足で苦境にある。先進7か国(G7)が主導して、具体的な支援策づくりを急いでもらいたい。
 G7財務相中央銀行総裁会議がイタリアで開かれ、共同声明を採択して閉幕した。
 会議では、経済制裁により凍結したロシア中央銀行の約3000億ドル(約47兆円)に上る資産について、ウクライナ支援に活用する手法を主要な議題とした。
 ウクライナ危機が長期化し、米欧では「支援疲れ」が広がる。米国の軍事支援は約半年間停滞し、4月に610億ドル(約10兆円)の追加予算がようやく成立した。
 世界銀行は、ウクライナの復興に必要な資金が、今後10年間で4860億ドル(約76兆円)に上ると試算している。この資金をどう工面するかが課題になる。
 ロシアが国際法に違反してウクライナを侵略し、破壊したインフラなどの被害は、本来、ロシアが賠償するべきものだ。凍結資産の活用は当然だと言えよう。
 凍結資産のうち約3分の2は、欧州連合(EU)諸国の管理下にある。EUは、今月、その活用策で先行合意した。国債などの元本に手を付けず、保管する現金部分の運用益を活用する手法だ。
 年間で約30億ユーロ(約5000億円)の運用益が見込めるという。9割を軍事支援、1割を復興支援に充てる方針だ。
 しかし、EU案ではウクライナが必要とする資金には足りない。G7が率先し、支援額を増やす枠組みを検討することが重要だ。
 G7の声明では、EUの合意を「歓迎」した上で、G7としても「議論を前進させている」と総括した。米国は今回、将来にわたって生み出す利子を「担保」に、500億ドル(約8兆円)規模を融資する案を示したという。
 米国案には、短期間にまとまった額を渡せる利点がある。ただし、金融市場の動向によっては運用益が想定通りに得られない可能性がある。G7は、米国案をたたき台として、どれだけの支援が可能か精査することが大切だ。
 議論が前進したのは、米国が巨額の資金を活用できる資産の没収案から今回の案に切り替えたからだ。日本政府は、没収案は国際法に抵触する恐れがあると指摘し、声明にも国際法や法制度と整合的である必要性が明記された。
 G7は来月の首脳会議(サミット)で合意できるよう、話し合いを尽くしてほしい。