唐の詩人、杜甫は…(2024年5月30日『毎日新聞』-「余録」)

大衆文壇の長老、長谷川伸氏の古希を祝う会。当時は総人口に占める70歳以上の割合が3%程度だった=1954年(昭和29年)3月15日、写真部員撮影
 
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高齢者の定義の65歳から70歳への引き上げを求める意見が出た経済財政諮問会議。左端は岸田文雄首相=首相官邸で2024年5月23日午後6時27分、平田明浩撮影
 
 唐の詩人、杜甫(とほ)は「人生七十古来稀(まれ)なり」と詠んだ。70歳の長寿を祝う「古希」の由来だ。もっとも「詩聖」は長安での役所勤めに疲れ、前段であちこちに酒代の借金があると嘆く。長くは生きられないと達観した言葉とも読める
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▲日本では奈良朝。数えの40歳で初老と呼ばれた時代だ。杜甫は満58歳まで生きた。知識人としては短命ではなかろう。ちなみに杜甫が「一斗詩百篇」と評した酒豪で友人の李白(りはく)は61歳で亡くなっている
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▲我が国で「古希」が本来の意味どおりだったのは総人口に占める70歳以上の割合が1桁だった昭和までだろう。23%を占める今は決して「まれ」ではない
▲首相直属の経済財政諮問会議で高齢者の定義を65歳から70歳に引き上げるよう求める意見が出たそうだ。人生100年時代。60代後半でも健康に自信を持つ人は多い。7年前には日本老年学会などが75歳以上を高齢者とする区分を提言している
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▲素直にうなずけないのは年金改革など財政負担の軽減や労働力確保に結びつける狙いが透けて見えるからか。70歳までの雇用が企業の努力義務になり、60代後半の就業率は男性で約6割。だが、やりがいよりも収入確保が最大の理由とされる
▲高齢者ほど健康状態には個人差が大きい。老後に何を望むかも人それぞれだ。一律の年齢で区切っても同じ対応で済むわけではない。昔から定年後の理想は「悠々自適」とされてきた。自適とは心のままに暮らすことだ。できるなら老後の生き方ぐらいは自分で決めたい。