新幹線、敦賀へ 復興への「輝き」乗せて(2024年3月15日『東京新聞』-「社説」)


 北陸新幹線金沢-敦賀間が16日に開業する。国が能登半島地震の被災地支援として観光需要を喚起する「北陸応援割」も同じ日に始まる。震災復興への「輝き」を乗せた往来となるよう願う。
 北陸新幹線の延伸は長野-金沢間の開業以来9年ぶり。福井-東京間は速達型の「かがやき」で最短2時間51分、北陸3県も1時間圏でつながる。日本政策投資銀行は石川、福井県で計600億円近い経済効果を生むと試算する。
 北陸の観光地では魅力アップ策を準備してきたが、元日の大地震で環境が急変。金沢市など石川県加賀地区や富山、福井、新潟県内でも風評被害により観光客が激減した。業界にとって1泊旅行の半額(上限2万円)が補助される応援割への期待は大きい。
 開始時期を巡って、2次避難者を受け入れている加賀地区の旅館では、被災者優先か観光客か-と戸惑いも広がったが、最終的に石川県が「両立は可能」と判断し北陸4県での同時開始となった。各県はくれぐれも被災者への配慮を忘れぬよう留意してほしい。
 避難者と観光客が共存することになる旅館には工夫も求めたい。観光客が「お見舞い」の、避難者が「歓迎」の気持ちを伝え合う機会があれば、交流も生まれよう。能登の食材を使ったメニューを提供するなどしてファンを増やし、次の来訪につなげたい。
 応援割の申し込みが殺到し、配分枠が完売した旅館も続出している。大型連休前までとした期間の延長や補助額の追加、自治体独自の支援も検討に値しよう。
 一方、被害の大きかった観光地では、なお「輝き」とはいかない苦境が続く。能登半島の入り口、石川県七尾市和倉温泉は全旅館が被災して休業中だ。新幹線延伸を「千載一遇の好機」としていただけに失望感は計り知れない。それでも、早々に若者主体で復興プランを策定したことは心強い。
 旅行社によると、既に被災地を巡る「震災ツーリズム」を求める声も出てきているという。能登の旅館で応援割に参加できたのはごく少数だが、新たに「農家民宿」を開こうとする動きもある。
 いずれ、受け入れ環境が整ってきた時には、被災地に絞って観光客を誘致する「能登応援割」のような別の手だてを講じるべきだ。旅先に選ぶことで復興を支えたいと思う人は少なくない。