参院政倫審 やはり証人喚問必要だ(2024年3月15日『北海道新聞』-「社説」)
自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、参院の政治倫理審査会(政倫審)が開かれた。
参院政倫審での審査は設置以来初となる。世耕弘成前参院幹事長、西田昌司参院議員、橋本聖子元五輪相の3人が出席した。
最大の焦点は、安倍派が参院選の年に改選対象の議員にパーティー収入を全額還流した理由や、2022年にいったん中止した還流を再開した経緯などだった。
だが参院安倍派の会長だった世耕氏は「知らない」「関与していない」「記憶にない」などと繰り返した。責任転嫁が目に余る。
トップが全く知らないのであれば、一体誰がこの仕組みを決め、動かしていたのか。知っていた政治家は本当に一人もいないのか。裏金の闇は深まる一方だ。
国会には実態解明の責任がある。追及の手を緩めず、偽証罪を問える証人喚問に進むのが筋だ。
世耕氏は、還流再開を協議した22年8月の安倍派幹部会合について「還流が決まったりしたことは一切ない」と述べた。
しかし衆院政倫審では、塩谷立元文部科学相が「(還流の)継続になった」と答弁している。
出席者の証言の食い違いは一層鮮明となった。幹部を全員集めて事実関係を確認する必要がある。
安倍派に強い影響力を持つ森喜朗元首相について、世耕氏は自民党議員からの聞き取り調査結果を挙げ「(裏金への)関与は一切認められなかった」と述べた。
本人に直接問わずにそう断言するのは理解できない。森氏を国会に呼び、きちんとただすべきだ。
橋本氏は、政治資金収支報告書への不記載が巨額に上るのに、記者会見を開いていなかった。説明が遅すぎたと言わざるを得ない。
政倫審では「適正処理と思っていた」と述べ、陳謝したが、疑念は解消されていない。
今回野党が自民党議員ら32人の出席を求めたのに対し、道選挙区選出の高橋はるみ氏ら大半は欠席の意向を示した。断った議員は説明責任をどう考えるのか。このまま逃げ続けることは許されない。
18日の衆院政倫審には元安倍派幹部のキーマンと呼ばれる下村博文元文科相が出席する。極めて重要な審査だが、これで疑惑追及を終わりにしてはいけない。
自民党は下村氏が出席意向を示した後も開催に消極的だった。幕引きを狙う意図は明らかだ。
真相究明に後ろ向きな姿がかえって不信を広げている。自民党はそのことを自覚すべきである。
責任逃れの姿勢目に余る/参院政倫審(2024年3月15日『東奥日報』-「時論」/『茨城新聞・山陰中央新報・佐賀新聞」-「論説」)
これで説明責任を果たしたと考えるなら、思い違いも甚だしい。責任逃れの姿勢が目に余り、国会議員としての適格性さえ疑われよう。重大な政治不信を招いた岸田文雄首相や自民党には、真摯(しんし)な取り組みを改めて求めたい。
自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡り、参院が衆院に続いて政治倫理審査会を開いた。参院での開催は初めてで、それだけ疑惑の広がり、深刻さを示していると言えよう。
審査の対象になったのは、安倍派の実力者「5人組」の一人である世耕弘成前参院幹事長のほか、西田昌司元政調会長代理、橋本聖子元五輪相の3人。このうち発言が注目されたのは、世耕氏だった。
政治資金収支報告書に記載しなかった安倍派のパーティー券販売のノルマ超過分について、安倍晋三元首相が2022年4月、幹部との会合で議員側への現金での還流取りやめを指示した。
「不透明で疑義を生じかねない」というのが理由だったが、安倍氏死去後の同年8月にあった幹部会合を経て還流が復活した。世耕氏は両会合に、塩谷立元文部科学相や西村康稔前経済産業相らとともに参加していた。
安倍氏の指示段階で違法性を認識していたと疑われるのに、還流復活を誰が、いつ決めたのか。衆院政倫審での塩谷、西村両氏の説明は曖昧だったり、齟齬(そご)があったりしたため、世耕氏への質疑で焦点になった。
しかし、世耕氏は「分からない。私自身、知りたい」などと述べ、当事者意識の欠如をあらわにした。幹部会でノルマ超過分を議員個人のパーティー券購入費に充てる案が出たことは認めたが、誰の提案だったかは「記憶にない」を連発した。
それまでの還流方式が法に触れると考えたからこそ、代替案が示されたのではないか。塩谷、西村両氏もそうだったが、提案者を特定すれば、自民党内外から批判されることを危惧したと受け止められても仕方あるまい。
「記憶にないことを言えと言われてもお答えできない」と主張したが、2年もたっていない少人数の会合である。国会議員としての責任の重さを自覚した誠実な態度とは到底言えない。
安倍派は参院選の年に改選対象の議員側へパーティー券の販売ノルマ分と超過分の合計額全てを還流させていた。参院を取り仕切る世耕氏が把握していてしかるべきだが、「私には何の相談もなく、勝手に決まっていた」という。
ほかの安倍派幹部とも共通する還流資金の不記載を「一切知らなかった」という釈明と同様、にわかに信じ難い発言である。これでは岸田首相がしばしば言及する「信なくば立たず」の政治信条が空疎に響くだけだ。
世耕氏の後には西田、橋本両氏に対する質疑が行われたが、国民が疑問を持つ裏金事件の実態解明は進まなかった。「5人組」に相当する派閥幹部ではなく、それもやむを得ないが、安倍派幹部の説明責任について「全く果たされていない」と西田氏が指摘したのは、国民の声を代弁したと言っていい。
来週は衆院で安倍派の会長代理を務めた下村博文元文科相が出席して政倫審が開かれる。下村氏もほかの幹部と大差ない発言にとどまれば、偽証罪に問われる証人喚問の必要性も出てくるだろう。(共同通信・鈴木博之)
参院「裏金」政倫審 責任逃れ再び、不信はさらに(2024年3月15日『河北新報』-「社説」)
この期に及んで誰ひとりとして最低限の説明責任さえ果たそうとしない。こうも続けざまに知らぬ存ぜぬを繰り返し、責任逃れに終始する姿ばかり見せつけられては、国民はたまったものではない。
自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、参院では初となる政治倫理審査会がきのう、参院安倍派会長だった世耕弘成前参院幹事長らが出席して開かれた。
世耕氏は焦点となっていた2022年8月に安倍派が資金還流を復活させた経緯について関与を否定。改選対象の参院議員にパーティー券販売収入の全額を還流する参院安倍派の独自ルールも「承知していない」と述べた。
安倍派で長年続いていたパーティー券の販売ノルマ超過分を議員側に還流させる仕組みは、22年当時会長だった安倍晋三元首相の指示で中止することが決まったものの、同年8月5日の派閥幹部の会合を経て復活したとされる。
今月1日の衆院政倫審では8月の幹部会合を巡り、当時の派閥事務総長だった西村康稔前経済産業相が「結論は出なかった」と語った一方、塩谷立元文部科学相は「話し合いで継続になった」と述べ、認識が食い違っていた。
世耕氏は会合への出席を認めた上で「各人で記憶が曖昧だったりするのでは」「なぜ安倍氏が『やめよう』と言っていた現金給付になったか分からない」と強調。衆院政倫審の出席者と同様に「知らない」「関与していない」と繰り返した。
理解しがたいのは、この協議の場で資金還流ではなく所属議員のパーティー券を派閥が購入して政治資金収支報告書に記載する案が出され、その案に賛同したと言いながらも、誰の提案だったかは覚えていないと語ったことだ。
衆院政倫審でも誰の発案だったかを問われた西村氏は明言を避けたが、この会合に出ていたのは世耕、西村両氏を含む計5人だけ。口裏合わせでもしない限り、誰も発案者を覚えていないのは明らかに不自然だろう。
還流の違法性を認識していたがゆえの是正策だったことを隠す意図があるのではないか。疑念は深まるばかりだ。
世耕氏は、自身が13年ごろから受けていた還流分について「裏金的支出は確認されていない」と強弁しながら、その資金は簿外で、しかも事務所の引き出しで管理していたとも述べている。
国民一般の感覚からは、そうした資金がまさに「裏金」なのであって、東京地検特捜部の捜査で立件されなかったからと言って政治的、道義的な非難を決して免れるものではない。
人として通常、備えているべき責任感や金銭感覚、言語感覚を国民と共有できる政治家は、もはや自民党にはいないのではないか。そんな不安さえ感じさせる弁明、答弁だったと言わざるを得ない。
参院でも「裏金」政倫審 疑問はますます深まった(2024年3月15日『毎日新聞』-「社説」)
派閥トップだった安倍晋三元首相の意向に反し、なぜパーティー券収入の還流が続いたのか。衆院に続き参院でも政治倫理審査会が開かれたが、疑問はますます深まるばかりだ。
自民党派閥の裏金事件を巡り、安倍派参院議員の会長だった世耕弘成氏らが証言した。還流を受けた安倍派所属議員は政治資金収支報告書に記載していなかった。
焦点の一つが、違法性を認識していたかどうかだ。安倍氏は2022年4月、現金による還流を廃止する方針を示したが、死後の8月に開かれた世耕氏ら幹部の会合では、派内に還流廃止への不満があることが話題になったという。
廃止方針を誰がいつ覆したかは、幹部の証言が一致せず判然としない。世耕氏は「私が出席する場で決まったことは一切ない」と釈明した。
一方、出席した幹部全員が認めているのが、還流は維持するものの、今後は報告書に記載するとの提案があったことだ。
実際は採用されなかったが、違法な「不記載」が認識されていた可能性がある。世耕氏は「有力なアイデア」だとして提案に賛同したと明かしたが、誰の発案かは「記憶にない」と述べた。肝心な点を思い出せないのは理解に苦しむ。
幹部らは還流の仕組みを知りながら、派閥や自身の不記載は「昨年秋に報道されるまで知らなかった」と口をそろえる。記載提案が話し合われた段階で把握していなかったというのは、不自然だ。
参院側には独自の仕組みもあった。参院選の年は改選議員のパーティー券販売ノルマを免除し、全額を還流していた。世耕氏は自身の関与を否定し、「選挙に使うことはあり得ない」と述べた。 公職選挙法は選挙で使用できる費用の上限を定める。裏金が流用されていたとすれば、選挙の公平性をゆがめる由々しき事態だ。使途を明らかにする必要がある。
派内からも幹部の責任を問う声が出ている。西田昌司参院議員は政倫審で「誰も知らないというのは納得できない」と批判した。
世耕氏は「説明は尽くした」と強調したが、裏金作りの実態は明らかになっていない。これで国民の不信を拭えると考えているなら、勘違いにも程がある。
参院政倫審 会計責任者に聞いてはどうか(2024年3月15日『読売新聞』-「社説」) 衆院と同様、参院の審査で
も同じようなやりとりに終始し、実態解明にはつながらなかった。与野党は審査の対象や手法を見直してはどうか。
自民党の派閥の政治資金規正法違反事件を受け、安倍派幹部だった世耕弘成前参院幹事長と、安倍派の橋本聖子前参院議員会長、西田昌司参院議員の3氏が参院政治倫理審査会で弁明を行った。
安倍派では、パーティー券の販売ノルマを超えて売った分を現金で所属議員に還流していた。参院選のある年には、参院議員に対して、販売した分をそのまま全額還流していたという。
世耕氏は、「還流は十数年前には始まっていた」と述べる一方、自らが還流を受けていたことは昨年の事件発覚で知ったという。
会長の安倍晋三元首相は2022年4月、還流をやめるよう世耕氏ら安倍派幹部に指示したが、7月の安倍氏の死去後、還流は続けられた。世耕氏は派の方針転換について「誰が決めたか私も知りたい」と繰り返した
が収支報告書への不記載を指示した理由を「知らない」と述べていた。政倫審で安倍派の議員をこれ以上、追及してもらちが明きそうもない。
今回の事件で立件されたのは安倍派、二階派、岸田派の会計責任者らだ。政治家が「知らない」のであれば、資金を実際に管理していた職員を、政倫審や予算委員会に参考人として招致する方が実態解明に近づくかもしれない。
そもそも政倫審は、非公開が原則だ。野党が今回、テレビ入りにこだわったのは、自民党議員を問い詰める場面を国民に見せる狙いがあったのだろう。
国会議員は様々な団体の意見を調整し、政策に生かすことも多い。その過程での会食など、政治資金の使途を公にしにくいケースもあるに違いない。
政治資金の不明朗な使用を本気で改善するつもりなら、国会議員同士で本音を語り合い、具体策を練るのも一案だ。
一部の安倍派議員は、還流された資金を「陣中見舞い」として地方議員に渡していたという。
陣中見舞いを政治団体間の寄付として行うことは違法ではない。だが、受け取った側が「票のとりまとめの依頼」だと認識すれば、買収にあたる可能性があり、その線引きは曖昧だとされている。
与野党は法改正を含め、わかりやすい制度を考えるべきだ。
この政倫審では裏金の実態解明に程遠い(2024年3月15日『日本経済新聞』-「社説」)
参院の政治倫理審査会が14日に開かれた。衆参両院の質疑を経ても自民党の裏金問題の実態解明は進まず、派閥幹部らが説明責任を果たしたとは言いがたい。政倫審での追加の審査と並行し、国政調査権に基づく参考人招致なども検討すべき段階にきている。
参院政倫審の実質審査は初めてで、自民党安倍派に所属した世耕弘成前参院幹事長、西田昌司氏、橋本聖子氏が出席した。参院政倫審は8日に収支報告書の不記載があった32人全員を審査対象にすると全会一致で議決した。出席が3人にとどまったのは残念だ。
世耕氏は安倍派の政治資金パーティー収入の還流の仕組みについて「関与したこともなければ報告、相談も受けていない」と強調した。改選を控える参院議員に全額を還流する運用に関しても「いつからあったのか、誰が決めたのかも分からない」と述べた。
安倍派の資金還流は2022年4月に故・安倍晋三元首相が中止を指示したが、死去後の同年8月上旬の幹部協議を経て継続された。その経緯の解明も焦点だ。
同協議に出席した塩谷立氏は1日の衆院政倫審で「話し合いの中で継続になった」と明かした。西村康稔氏は「いろんな意見があったが結局結論は出なかった」と述べ、食い違いがみられた。
世耕氏は「私が出席している場で還流が決まったり、私が了承したというようなことは一切ない」と今回言明した。資金還流を誰がいつ始めてルールを定め、22年の中止はなぜ見送られたのかなど、疑問は何一つ解消していない。
衆院で野党は不記載が見つかった51人全員の政倫審での審査を求めている。安倍派幹部だった下村博文氏は18日の出席が固まったが、萩生田光一前政調会長、二階俊博元幹事長をはじめ他の幹部も早期に質疑に応じるべきだ。
自民党派閥の裏金事件では、不記載額が特に大きかった国会議員3人と安倍、岸田、二階3派の会計責任者が立件された。一方で安倍、二階両派の幹部は衆参の政倫審で「秘書にすべて任せていた」と繰り返し、党による関係者の処分も先送りされたままだ。
野党は1998年以降に断続的に派閥会長を務めた森喜朗元首相の聴取を求めている。自民党は森氏の証言や記録の提出に積極的に応じるべきだ。全容をまず徹底解明し、再発防止に向けた法改正の議論を加速する必要がある。
参院政倫審 また「知らぬ」連呼なのか(2024年3月15日『産経新聞』-「主張」)
自民党の派閥パーティー収入不記載事件を受けて、参院で政治倫理審査会(政倫審)が行われ、安倍派の3人が弁明に立った。
衆院でも先に政倫審が開かれ、同派幹部らが釈明した。だが、いずれにおいても、還流資金の政治資金収支報告書への不記載に関し、誰がいつ、どのような理由で始め、なぜやめられなかったのかなどの疑問は解消されなかった。
「分からない」などと繰り返し、真相を明らかにしようという姿勢も感じられなかった。これでは信頼を取り戻すことは到底できまい。
還流を巡っては、令和4年4月の同派幹部会合で、会長だった安倍晋三元首相の意向を踏まえ、停止が決まったが、派内からの反発で継続となった経緯がある。参院政倫審で弁明に立った世耕弘成前参院幹事長は、幹部会合に出席した一人だ。
世耕氏は還流の慣行は知っていたとしながらも、不記載に関しては「一切知らなかった」と説明した。還流の継続を決めたことへの関与を否定し、「誰が決めたのか、私自身知りたい」と語った。
還流の継続決定に関し、誰一人明確には分からないという。そんなことがあり得るのか。
参院安倍派では、参院選の年は、複数の参院議員にパーティー券の販売額すべてを還流していたとされる。世耕氏は参院安倍派の会長も務めてきたが、これへの関わりも否定した。
「知らぬ存ぜぬ」を繰り返すだけでは、説明責任を果たしたとはいえない。政倫審は政治的・道義的な責任が問われる場であり、政治家として説明を尽くす責務がある。
安倍派だが幹部ではない西田昌司氏も弁明のため出席し、同派幹部らの説明責任に関し「全く果たされていない。まともに答えている人がいない」と語った。派内からこのような声が上がる状況は情けない。
衆院は18日に政倫審を開き、同派会長代理を務めた下村博文元文部科学相が弁明する予定だ。国民の疑問にしっかり答えてもらいたい。
真相解明と同時に、再発防止に向けた政治資金規正法の改正も急がれる。会計責任者だけでなく政治家にも責任が及ぶ連座制の導入は不可欠だ。速やかに自民案をまとめ、野党側と協議に入ってほしい。
参院政倫審 際立った幹部の無責任さ(2024年3月15日『新潟日報』-「社説」)
参院側の派閥幹部からも「知らなかった」「関与していない」という言葉が繰り返された。またしても幹部の無責任さが際立った。
自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けた参院の政治倫理審査会が14日、開かれた。安倍派(清和政策研究会)の参院側会長だった世耕弘成前参院幹事長ら同派の3人が出席した。
だが審議で新事実はなく、政倫審では不十分なことが露呈した。これでは偽証罪を問われる証人喚問へ移行せざるを得ない。
注目されたのは、安倍派参院側を率いた世耕氏の発言だ。
2022年4月に会長だった安倍晋三元首相の指示で中止を決めた資金還流が、同年7月の参院選後に復活した経緯について、どう説明するかが焦点となった。
世耕氏は同年8月に自身を含む安倍派幹部で集まった際に、資金還流を収支報告書に記載する案が出され、反対しなかったとしたが、この場で還流復活が決まったことは「断じてない」と明言した。
先立つ衆院政倫審では、出席した幹部が、協議の結果を「困っている人がいるから仕方ないというぐらいの話し合いで継続になった」「結論は出ていない」と発言し、食い違っていた。
この協議で還流復活が決まらなかったとすれば、いつ、どこで、誰が決めたのか、謎のままだ。
世耕氏に続いて出席した西田昌司元政調会長代理は、還流の存在は報道で初めて知ったと釈明した。安倍派幹部については「誰一人、まともに答えている人がいない」と批判した。
安倍氏が亡くなった後、安倍派は複数幹部による集団指導体制を敷いてきた。派内から表立った批判が出るのは、幹部らが責任感を欠いていることがあるだろう。
安倍派では参院選の年に、改選対象の参院議員に、パーティー券の販売ノルマと超過分の全額を還流する独自ルールがあったことも判明している。
政倫審に出席した橋本聖子元五輪相は、改選の19年に1566万円が還流された一方、前後の年は200万円台だった。
橋本氏は、選挙活動での還流資金の使用は否定した。世耕氏も「選挙に使うことは、基本あり得ない」と述べた。
では、何のために改選の年だけ全額還流されたのか。参院側会長だった世耕氏は、経緯を調べて説明する責任があるはずだ。
自民党は裏金事件を受け、党則、規律規約、ガバナンス・コード(統治原則)の改正案をまとめた。17日の党大会で正式決定する。
会計責任者が刑事処分された場合に、議員への処分を厳格化することが柱だが、今回の事件では改正案に基づく処分はしない。
政倫審と党則改正で幕引きを図る思惑が透ける。だが優先すべきは、国民に真相を示すことだ。
(2024年3月15日『新潟日報』-「日報抄」)
原本と同じように写し取る。コピーは機械を使う方法のほか、手書き伝票などで複写紙を使うやり方がある。筆圧によって、2枚目以降の紙にも1枚目と同じ文字が記される。かつては紙と紙の間にカーボン紙を挟むこともよくあった
▼事務仕事では長く必需品だったが、コピー機の普及でその姿を見る機会はずいぶん減った。それでも、カーボンコピーという用語は現在もよく使われる。比喩的に「模倣」「丸写し」など、負のニュアンスをまとわせて使われることが多い
▼よく知られるのは参院についてだ。衆院の決定を追認するばかりだとして「衆院のカーボンコピー」と揶揄(やゆ)されることがある。やはりそうかと思わされた。参院できのう初めて開かれた政治倫理審査会である
▼自民党安倍派の資金還流が復活した経緯について、派閥幹部は「知らない」と繰り返した。問題の核心部分を知らぬ存ぜぬで押し通すのは、先ごろ衆院で政倫審が開かれた際と同様だった。コピーのように同じ弁明が繰り返された。衆院側と口裏を合わせたのかと勘ぐりたくなる
▼国民の政治不信を増幅する結果を招くのも同じだろう。知らなかったというなら調べようとはしなかったのか。責任の所在を明らかにすることで、政治不信の払拭を計ろうとは思わなかったのか
▼きのうの政倫審では安倍派に所属した議員が、派閥幹部の説明責任について「全く果たされていない」と発言する一幕もあった。カーボンコピーの逃げ口上は政治不信を深めるだけだ。
参院で政倫審 説明責任果たせていない(2024年3月15日『山陽新聞』-「社説」)
真相は「良識の府」でも明らかにならなかった。自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件である。「政治とカネ」に対する国民の疑念は解消されず、深まる一方だ。
参院できのう、政治倫理審査会が開かれた。事件の主舞台となった安倍派に所属していた議員3人が出席し、それぞれ弁明の後、質疑に応じた。参院の政倫審で議員を審査するのは1985年の設置後、初めてだった。
3人のうち、発言が最も注目されたのは安倍派の参院側会長だった世耕弘成前参院幹事長だ。派の有力幹部「5人組」の一人である。同派はパーティー券の販売ノルマを超えた利益を議員に還流してきた。2022年、会長だった安倍晋三元首相の指示で中止を決めたが、安倍氏の死去後に復活させた。世耕氏はこの際の協議に参加していた。
世耕氏は質疑で、22年8月に自身を含む安倍派幹部で集まり、資金還流を政治資金収支報告書に記載する案が出され、反対しなかったと説明した。ただ、この協議で復活が確定的に決まったことは「断じてない」と否定した。当時、派閥の会長代理として協議に加わった塩谷立元文部科学相は先の衆院政倫審で「困っている人がいるから仕方ないというぐらいの話し合いで継続になった」と述べていた。世耕氏の発言はこれと食い違いを見せており、実態は不明瞭なままだった。
この日、政倫審で弁明した西田昌司元政調会長代理は安倍派幹部の説明責任について「全く果たされていない。誰一人、まともに答えている人がいない」と指摘。世耕氏の弁明を「全く納得できない」と批判した。真相解明には程遠いと言わざるを得ない。
安倍派では、参院選の年に改選対象の議員側にパーティー券の販売ノルマ分と超過分を合わせた全額を還流させていたことが判明している。この独自ルールについて世耕氏は「いつからあったか、誰が決めたのかも分からない」と述べ、関与を否定した。だが、参院側の派閥トップならば、資金還流が問題となる中、経緯を把握して政倫審に臨むべきではなかったか。説明責任から逃げるような姿勢は到底容認できない。
資金還流の仕組みが始まった時期について、世耕氏は「少なくとも十数年前」との認識を示した。橋本聖子元五輪相は存在を「10年以上前から」知っていたとした。だが衆院政倫審と同様、いつ、誰が始めたかについて明確な説明はなかった。派閥会長を務め、これまでの経緯を知る可能性のある森喜朗元首相への確認が欠かせまい。
政倫審は18日、衆院で再び開かれ、安倍派の会長代理を務めた下村博文元文科相が出席する予定だ。安倍氏死去後の還流復活を協議した場に出席していたとされ、経緯を知り得るキーパーソンだ。説明責任をきっちりと果たすべきである。
「人を人として」(2024年3月15日『熊本日日新聞』-「新生面」)
歴史学者の磯田道史さんが先日、司会を務める『英雄たちの選択』(NHKBS)の締めくくりで語っていた。「人を人として扱い、言葉で政治をする。この基本を離れたところに社会の安定はないと思います」と
▼「これが言いたくて、この番組をやっているようなもんですから」。いつも以上に力を込めてのコメントだったこともあって記憶に残った
▼このところの国会では、政治の基本である言葉がますます軽くなっている。きのう開かれた、自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡る参院政治倫理審査会でも、その思いを強くした
▼キーマンとして注目された世耕弘成前参院幹事長ら3議員が出席。「痛恨の思い」「深くおわび」と、陳謝の言葉は重々しかった一方で、肝心な還流決定の経緯や還流金の使途の詳細などについては、「分からない」「知らなかった」の連発で、今回の弁明も中身が伴わなかった
▼そもそもこの問題で釈然としないのは、政治活動と名が付けば飲食利用などでも課税されない特権的構造だ。世耕氏は「(還流金使用は)1円もない」と強調したが、世耕氏の秘書も出席した自民党和歌山県連主催の会合では、あらためて政治資金の使い道に焦点が当たっている
▼露出の多い衣装の女性ダンサーを招いた県議(自民党離党)は、「多様性の重要性を問題提起しようと思った」と釈明したという。この言葉の使い方の軽々しさには、女性の社会参画など、「人を人として」公正に扱う重要課題の軽視も透けて見える。
「印象操作が過ぎる」安倍晋三の「キックバックやめろ」発言の裏側(2024年3月15日『日刊スポーツ』-「政界地獄耳」)
★「どうせ処分されるのだから、政倫審などで弁明したところでさらされるだけ」。出席を拒む自民党衆参議員が多くいることを見れば、党内から政治不信の是正などできるはずはないと国民は思うはずだ。また、政倫審に出席して弁明をする議員たちは「自らは派内では小物で、カネには一切タッチしていない」「まったく知らなかった」など、弁明というより言い訳に終始。この程度の認識、見識、管理能力で閣僚や党幹部をやっており、多くは総理総裁も狙おうという無能の議員たちということになる。
★いくら政倫審が弁明の場であって偽証には問われないとはいえ「そうだったのか。何も知らなかったのね」と思う国民がいるのだろうか。政倫審は疑惑の政治家に弁明を与える場だが、国民の不信を広げる役割も担ったといえる。14日の参院政倫審の前自民党参院幹事長・世耕弘成の弁明でも「22年の4月に清和会会長・安倍晋三から幹部にキックバックをやめろ」との発言が焦点になったが、この話の発端は昨年12月、元NHKの安倍側近記者のネット番組での発言だ。「22年2月、『そういえばお金はどうなっているんだ?』と会計責任者を呼び、『このような方法は問題だ。ただちに直せ』と叱責(しっせき)した。4月に改めて、『あの件はやめたんだろうな』と事務総長らにもクギを刺したら、翌月の派閥パーティーでのキックバックはなくなった。安倍元総理は選挙を終えてから深掘りするつもりだったが、その2カ月後に亡くなってしまい、話がうやむやになった」と解説した。
★安倍と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係すら全く知らなかったという側近記者は、キックバックについては世耕の弁明以上に詳しい。「ここだけ聞けば安倍さんがカネに清廉な人という印象を与えるが、既に東京地検特捜部がこの問題の捜査を開始しており、それを聞きつけて『こりゃまずいな』と思い、問いただしたのかもしれない。いささか印象操作が過ぎる」(野党幹部)。作られた説明が多すぎる。(K)