北陸新幹線延伸に関する社説・コラム(2024年3月16日)

延伸部分で試験走行をする北陸新幹線の営業用車両=金沢市で2024年3月4日、本社ヘリから西村剛撮影

延伸部分で試験走行をする北陸新幹線の営業用車両=金沢市で2024年3月4日、本社ヘリから(毎日新聞西村剛撮影)

東京・新橋と敦賀を結んだ「欧亜国際連絡列車」の発着駅だった敦賀港駅舎を再現した建物。いまは 敦賀鉄道資料館となっている=福井県敦賀市で2022年10月2日、宮間俊樹撮影
東京・新橋と敦賀を結んだ「欧亜国際連絡列車」の発着駅だった敦賀港駅舎を再現した建物。いまは 敦賀鉄道資料館となっている=福井県敦賀市で2022年10月2日、(毎日新聞宮間俊樹撮影)

源氏物語の作者、紫式部は…(2024年3月16日『毎日新聞』-「余録」)

 

 源氏物語の作者、紫式部は996(長徳2)年、京から越前国(えちぜんのくに)(福井県)に向けて旅立った。父、藤原為時の越前守任命に伴うもので、琵琶湖の舟旅を経ていまの同県越前市に着いたといわれる。為時が処遇を切望しての人事で、越前は都に近い大国だった

▲東京からの旅路は遠かった福井である。北陸新幹線は16日、金沢―敦賀(つるが)間が開業する。1997年に長野、2015年に金沢までが開業してから9年を経ての延伸だ。東京―福井間の最速所要時間は2時間51分に短縮される。4駅が置かれる福井県は「100年に1度のチャンス」と歓迎し、経済効果に期待を寄せる

▲延伸の終点となる同県敦賀市は、江戸期には北前船(きたまえぶね)で栄えた交通の要衝だ。明治末期、東京―敦賀港間を列車、ロシアのウラジオストクまで海路で移動し、シベリア鉄道につなぐ「欧亜国際連絡列車」が、日本とヨーロッパの間を短期間で旅行できる手段となった

▲第二次大戦中に外交官、杉原千畝(ちうね)が発給した「命のビザ」で難を逃れたユダヤ人を迎えたのも敦賀港だった

▲延伸は北陸への観光に関心が高まる契機となる。ただし、能登半島地震の被災地は復旧に追われている。祝賀ムードが逆に疎外感を生まないよう、十分な留意が必要だろう

紫式部は1年余りを越前で過ごした。福井県京都府滋賀県などと接するだけに、今後は北陸、北近畿を併せて旅する人も増えるのではないか。東京からの利便性だけでなく、北陸の開かれた窓に目を向けたい新幹線延伸である。

 

北陸新幹線延伸 観光需要を復興の足がかりに(2024年3月16日『読売新聞』-「社説」)

 能登半島地震で打撃を受けた被災地に観光需要を喚起できれば、復興への追い風となるだろう。新たに生まれる人の流れを着実に北陸地方の活性化につなげたい。

 JR西日本と東日本が運行する北陸新幹線が16日、金沢市から福井県敦賀市まで125キロ延伸する。東京―敦賀間は最短で3時間8分となり、従来より約50分短縮される。大阪―金沢間も2時間9分で約20分の短縮となる。

 2015年の長野―金沢間開業後は、富山、石川両県に関東圏からの観光客が増え、金沢駅周辺の地価は約2倍に上昇した。今回も石川、福井両県で年間588億円の経済効果が見込まれている。

 1兆6779億円の事業費は、国や自治体が大部分を負担する。延伸を能登半島地震の復興への足がかりとし、効果を持続させるための取り組みが欠かせない。

 地震後は、被害の大きかった石川県の奥能登地方だけでなく、周辺自治体の宿泊施設もキャンセルが相次いだ。新駅ができる加賀温泉(石川県)、あわら温泉福井県)を始めとする多くの地域に、にぎわいが戻るといい。

 福井県では、外資系ホテルが開業し、観光地を巡るバスの運行も始まる。今後は石川、富山とも連携して観光PRを展開するなど、北陸が一体となって関東、関西から誘客を図る工夫が重要だ。

 16日から4月26日までは、石川、富山、福井、新潟4県を旅行すると、代金が安くなる政府の観光支援策「北陸応援割」が適用される。国や自治体は、旅行者だけでなく、被災地で活動するボランティアにも利用を促してほしい。

 石川県の宿泊施設には、今も約3600人の2次避難者が滞在している。施設側は今後、観光客の受け入れと被災者の支援を両立していくことになる。

 県は、こうした施設向けに応援割の適用期間を延長し、不利益を被らないようにするという。現地を訪れる旅行客も、まだ生活の再建がままならない人が大勢いることに留意したい。

 北陸新幹線は今回の延伸開業後も、敦賀―新大阪間が未着工区間として残る。完成は2046年と見込まれており、実現すれば、経済効果はさらに高まるだろう。

 現在、環境影響評価の手続きが遅れており、事業費の高騰も想定されるなど、課題は多い。今後、整備計画をどのように具体化していくのか。人口減少の推移や地域のニーズを踏まえ、計画を柔軟に進めていくことが大切だ。

 

北陸新幹線県内開業 福井新時代向け出発の日(2024年3月16日『福井新聞』-「論説」)

 

 北陸新幹線金沢―敦賀開業の日を迎えた。整備計画の決定から50年、富山、石川県内の開業から9年。多くの福井県民が待ち望んだ日だ。整備効果をどう県内全域に広げ、持続可能な地域づくりにつなげるか。県民を挙げた新たな挑戦の始まりでもある。

 敦賀開業に伴い、福井から東京までは乗り換えなし、日帰り圏とされる3時間以内で結ばれ、交流人口や観光客の増加などが期待される。これからは多くの県民が、県内の駅から新幹線に乗って東京に向かうことが日常になるはずだ。

 国内の社会、経済状況は、整備計画が決定した右肩上がりの時代とは大きく変わった。人口減少、少子高齢化が進み、国、地方の財政はともに厳しさを増している。地方は持続可能な地域づくりに向けた取り組みが急務になっている。

 今後10年の国づくりの指針として昨年7月に閣議決定された第3次国土形成計画は、都市のコンパクト化を進め、都市間などを結ぶ交通ネットワークの確保を推進する必要があるとしている。自然災害が激甚化、頻発化する中、国土強靱(きょうじん)化の観点から、都市の広域的な配置と高速交通ネットワーク整備の重要性も増している。地方都市同士を結ぶ上で、新幹線は重要な交通ネットワークといえる。

 能登半島地震からの復興に貢献することも重要な役割だ。杉本達治知事は1月の定例会見で「福井県が3県の元気を引っ張っていく役割を担いたい」と意気込みを語り、JR西日本の長谷川一明社長は今月13日の会見で「能登半島地震からの復興の原動力となれば」と強調した。観光需要を喚起して復興の後押しにつなげたい。

 新幹線の県内延伸を巡っては否定的な声も聞かれる。首都圏への人材流出の加速、関西、中京方面の交通利便性の低下、並行在来線「ハピラインふくい」の厳しい経営見通しなど課題は確かにある。新幹線が無条件に明るい未来を運んで来るわけではないことは明らかだ。

 開業日に当たり、さまざまな曲折があった半世紀の歩みを改めて振り返ってみたい。オイルショックなどを受けた整備計画の凍結、政権交代による着工方針の白紙撤回、工事遅れに伴う開業の1年延期…。多くの関係者が難題を乗り越え、きょうを迎えたことを思うと、新幹線がもたらすプラス面にまず目を向けたい。

 敦賀開業を原動力に震災からの復興を果たし、大きく飛躍を遂げた北陸の未来を想像してみる。3県の連携・交流は新たなステージに入り、エリアとしての存在感は高まっているはずだ。福井の新時代をつくる出発の日として「3・16」を刻みたい。

 

北陸新幹線の延伸 能登復興へどうつなげるか(2024年3月16日『中国新聞』-「社説」)

 北陸新幹線が金沢―敦賀できょう延伸開業する。整備計画決定から約50年越しに地元にとっての悲願が実現する。

 首都圏とのアクセス向上で地域経済や観光面にもたらされる好影響に、沿線自治体や関係業者は期待を高める。

 とはいえ年始めに能登半島地震が発生して2カ月半。石川県南部に当たる延伸区間地震被害はなく、開業を迎えはしたものの、能登を中心とした被災地はまだ復旧の途上にある。

 開業と同時に、政府は観光復興支援「北陸応援割」を開始した。能登の復旧・復興を後押しする考え。しかし加賀市などには2次避難している人が少なくない。観光客の流入が被災者を圧迫しないよう、細心の注意が必要だ。

 その上で、新幹線の延伸が地域にもたらす経済効果を、確実に復興へと結びつけねばならない。

 延伸効果が特に大きいのは福井だろう。東京との所要時間は現ダイヤから約30分短縮され、最短で3時間を切る。

 北陸4県の観光地などには早速、「応援割」を利用した予約が殺到しているという。もともと新幹線の延伸で旅行需要が見込まれたが、割安となることから、予想を上回る人気を呼んでいる。

 観光、ビジネスで石川県を訪れる人も増える。ホテルや旅館は宿泊客増に期待しながらも、被災者支援と観光振興の両立に苦慮している。

 石川県によると、2次避難者は2月半ばに約5300人いたが千人近く減った。2次避難所であるホテルや旅館が2月末から3月末にかけて受け入れ期限を迎えるためだ。

 2次避難所を出た人の4分の1はみなし仮設住宅に入ったが、約半数は地元被災地に戻った。生活環境が復旧していないのを承知で戻ったようだ。別の2次避難所へ移った人も約200人いた。

 宿泊施設の決めた期限が来て移らざるを得なかったようだ。新幹線延伸で増える宿泊需要に押される形で被災者が退所を迫られる。不安を募らせる避難者も多いはずだ。

 宿泊事業者への補助など、被災者が避難生活を続けられるよう、工夫が求められる。

 さらに延伸による経済効果から地域の雇用増を図るなど被災者の生活再建に結びつける方策も考えたい。

 北陸新幹線は1997年に長野、2015年に金沢まで開業。今回ようやく敦賀に至った。事業費は当初から約5千億円増え、1兆6779億円。さらに大阪まで延伸する計画だが、見通しは立っていない。

 延伸に伴い、大阪と金沢などを結んできた特急の一部は運行を終える。並行在来線は地元の第三セクターが運営を引き継ぐ。国や沿線自治体などが協議し、鉄路を維持することが重要だ。

 地震被害が大きかった能登半島の鉄路についても注視していく必要がある。復興のためにも日常的に使われる鉄道は不可欠だからだ。

 新幹線延伸に北陸は沸いているが、ローカル線を復興に生かし、地域の将来像を描くことも求められる。

 

なごり雪と駅(2024年3月16日『中国新聞』-「天風録」)

 東京で見る雪はこれが最後―。君を乗せた汽車が動き出し、季節外れの雪がホームで解ける。春の駅の別れを描いた名曲「なごり雪」を伊勢正三さんが世に出し、今週で50年になる。歌の情景が時代を超え、胸に刻まれる

▲大分出身の伊勢さんが「かぐや姫」の一員として作詞作曲し、後にイルカさんの歌で国民的ヒットに。実は作者が思い描いたのは東京の駅ではない。古里の日豊本線津久見駅をモチーフにしたのは知る人ぞ知る逸話だ

▲かつて上京の玄関口だった九州の在来線の駅は乗客の先細りに直面する。「なごり雪」のメロディーが流れるこの駅も効率化にさらされ、駅員無人の時間に視覚障害者が特急にはねられる事故が、おととし起きた。ホームの安全にどう目配りしたか

▲きょうのJRダイヤ改正は列島の駅の情景をさらに変えるだろう。延伸の北陸新幹線にぴかぴかの6駅。一方で四国は11駅を無人化し、経営難の北海道に至っては無人駅すら五つ消える

津久見駅にあるあの歌の記念碑に、伊勢さんは言葉を寄せている。「ホームと言えば 心の奥深く いつもこの景色があるのです」。時は行けど、旅立ちと別れを演出する駅の役回りは守っていきたい。

 

北陸新幹線延伸開業 活発な交流生み出そう(2024年3月16日『佐賀新聞』-「論説」

 北陸新幹線の金沢―敦賀が総事業費約1兆7千億円をかけ16日に延伸開業。東京―福井の所要時間は最短2時間51分と、金沢で在来線に乗り換えるより約30分短縮される。首都圏などからのアクセスがよくなるだけに、観光やビジネスのため訪れる人を増やし活発な交流を生み出したい。

 能登半島地震からの復興に生かす観光支援事業「北陸応援割」も同時にスタート。復興の始まった被災地や観光客が減少した地域の誘客につなげる工夫も必要だ。

 開業により首都圏、関西圏から福井県を訪れる人は年間約80万人増え、経済波及効果は300億円超との試算もある。福井駅前では再開発が進み高層の建物が目立つ。

 東尋坊永平寺、恐竜といったコンテンツに加え、戦国時代の城下町跡「一乗谷朝倉氏遺跡」など新しい観光素材の活用、敦賀のターミナル効果も期待できる。

 福井県内の並行在来線は県などが出資する第三セクター「ハピラインふくい」に移管。民間も含め福井側の出資は20億円、JR西日本からの施設購入など初期投資は約100億円かかった。

 普通運賃は15%程度上げる一方、朝夕の通勤・通学時間帯を中心に運行を1日29本増やすという。特急列車がなくなり、福井駅を中心としたダイヤが可能となった。住民の利便性を向上させたダイヤに利用者増の効果があれば、他の路線にも応用できるはずである。

 それでも県によると、毎年6億円から7億円の赤字が想定される。県と沿線市町は経営安定基金をつくり、計70億円を拠出して11年間支援する計画という。固定資産税収や開業による経済効果が期待できるとはいえ負担は大きい。

 南海トラフ巨大地震が発生すれば東海道新幹線が使えなくなる可能性が高く、北陸新幹線は東京と大阪を結ぶ重要な代替ルートとなる。残った敦賀―新大阪は環境影響評価の手続きが長引き着工のめどは立ってない。

 ほとんどがトンネルでの走行となる京都府大阪府での地下水への影響や掘り出した土砂の処分をどうするのかなどがネックという。建設費は2兆1千億円ともされるが、近年の人件費や資材費の高騰からさらに膨らむだろう。

 京都駅、新大阪駅の地下にそれぞれ駅が整備される。街づくりの面では別の場所に新駅建設がなければ、地元負担の割にメリットが少ないと指摘できる。

 新幹線網は東京を起点に整備されてきた。北陸新幹線の金沢開業に伴い富山、石川両県から首都圏への進学が増えたという。新幹線が東京一極集中の一因だったとも言える。大阪に人を呼ぶ集中是正の観点からも、敦賀―新大阪の早急な整備に知恵を絞ってほしい。

 北海道新幹線の札幌延伸は2031年春の開業が遅れる見通しだ。西九州新幹線佐賀県内、新鳥栖―武雄温泉の整備方法も見えてこない。将来像も早急に示すべきだ。

 採算の悪いローカル線を切り離す動きがJR側にはある。並行在来線も含め、地域の生活のため公共交通網をどう維持するのか。国と自治体はどれだけ公費で負担するのかが、次の大きな課題である。

 JR各社も含めて協議し、国全体で鉄路を存続させる戦略を示すべき時期にあることも忘れてはならない。(共同通信・諏訪雄三)