糖尿病治療薬 不適切使用に歯止めを(2024年2月28日『東京新聞』-「社説」)

 糖尿病の治療薬=写真=をダイエットなど美容目的で使用する事例が広がっている。2月には同成分の新薬も肥満症治療薬として認められ、販売が始まった。目的外使用には副作用などの健康被害や必要な患者に治療薬が十分に届かない恐れもあり、不適切な使用を封じる対策が必要だ。
 糖尿病、肥満症いずれの治療薬も「GLP-1受容体作動薬」と呼ばれ、血糖値を下げ、食欲を抑える働きもある。いずれも公的医療保険が適用される。
 低血糖症状や急性膵炎(すいえん)などの副作用の恐れがあるため、医師が投薬対象の疾患かどうかを診断し、厳格な基準の下で使われるべき医薬品だ。
 ところが、すでに使用されている糖尿病薬は痩身(そうしん)目的での処方を宣伝する美容医療の広告があり、オンラインの自由診療で処方する事例が相次いでいる、という。
 新たに新薬として認められた肥満症薬も、同様に不適切な使用が広がる懸念がある。
 国民生活センターによると、痩身目的を含めた美容医療のオンライン診療に関する相談は2022年度で205件に上り、前年度比4倍と急増した。
 基礎疾患の問診や副作用の説明が不十分なまま処方箋を出すなど、厚生労働省のオンライン診療指針に反した事例も多いとして注意を呼びかけている。
 日本糖尿病協会は、本来の治療目的以外の不適切な使用の拡大により治療薬が不足し、患者に影響が出ていると訴えている。深刻な事態だ。糖尿病治療に取り組む医療機関に治療薬が迅速に届くよう改善する必要がある。
 厚労省はネット上の医療広告に、日本国内で承認された医薬品かどうか、医療機関が医薬品を入手した経路、海外での安全に関する情報などを明示し、治療の際には丁寧に説明するなど指針の改正を検討している。
 政府は医療機関、医師会、学会などと連携し、医薬品を適正に使用する重要性を訴えるとともに、医薬品の間違った使用には必要に応じて使用状況の実態を調査し、適切な対策を講じるべきだ。