総統選後の台湾 中国の圧力は逆効果だ(2024年2月28日『東京新聞』-「社説」)

台湾の総統選、与党候補が頼清徳・副総統に決定「権威主義の脅威 ...

 1月の台湾総統選で、頼清徳(らいせいとく)(写真)副総統が当選し、中国とは距離を置く与党・民進党政権が継続することを受け、中国は台湾と外交関係を有する南太平洋の島国に断交圧力をかけている。中国は間接支援してきた野党・国民党の候補が敗れた総統選の結果について「民進党は(台湾)島内の主流の民意を代表できない」と不満を隠さないが、台湾人が民主的な選挙を通じて示した民意を尊重すべきだ。 
 総統選では、頼副総統が、対中融和路線をとる国民党の侯友宜(こうゆうぎ)新北市長らを破り、初当選した。
 中国の南太平洋での外交攻勢は露骨だった。ナウルは頼氏の当選2日後の1月15日に台湾との断交を発表し、24日に中国と国交を樹立。ナウルはオーストラリアを目指す難民対策のため、同国の援助で造った収容施設運営の赤字支援を中国に求めたという。また台湾との外交関係を堅持してきたツバルも同月下旬の総選挙で親台湾派の首相が落選。議会には中国と国交を結ぼうとする動きがある。
 蔡英文(さいえいぶん)政権の2期8年間で、中国の圧力を受けた10カ国が台湾と断交し、今も国交を維持する国は12カ国に激減。中国は台湾の「外交空間」をさらに狭める戦略を継続する構えだ。だが、選挙介入や外交攻勢は、自分は中国人ではなく台湾人と考える「台湾人意識」が主流となった台湾人の中国への反感や不信を募らせるだけだ。
 総統選直後を狙い撃ちしたような中国とナウルの国交樹立について、国民党さえも「2300万人の感情を傷つけた。台中対話の助けにならない」と、中国批判の声明を出したのが証左といえる。
 2月中旬にドイツで行われた米中外相会談でも、王毅(おうき)外相が、台湾独立を支援しないよう米側にくぎを刺すなど神経を尖(とが)らせるが、台湾への圧力は逆効果でしかないことを中国は自覚すべきだ。
 台湾の国会に当たる立法院民進党少数与党であり、新総統は「ねじれ議会」で難しい政権運営を迫られる。だが、地金の「独立志向」を出すのは得策でない。
 同党の陳水扁(ちんすいへん)元総統は就任時に独立を求める動きはしないと公約したが、少数与党政権運営に苦しみ、ナショナリズムに訴えるため前言を翻して2期目に挑んだ。結果、再選はされたが、結局は中台関係の緊張を招き、米国の信頼も失って孤立した。頼氏は、これを教訓とすべきだろう。