診療報酬で賃上げ 医療の充実につなげたい(2024年2月21日『産経新聞』-「主張」)

診療報酬の改定で賃上げを実現し、人材を確保する狙いがある(写真はイメージです)

 

 医療機関の収入に当たる診療報酬の令和6年度からの改定内容が決まった。6月に適用が始まる。

 改定では、医療分野における幅広い職種での賃上げを重視した。医療機関の初診料を30円、再診料を20円引き上げるなどして原資に充てる。全ての患者で初診料を引き上げるのは消費税増税時を除き20年ぶりだ。

対象は若手勤務医、看護師、薬剤師、理学療法士放射線技師など幅広い。

 物価高などを背景に他産業で高水準の賃上げが行われる中、医療分野でも賃上げを実現し、人材を確保する狙いがある。

 医療の質の向上や効率化に向けて、複数の専門家が協力し合うチーム医療を進めることが求められている。病院で働く勤務医の業務を分担することも必要だ。そのためにも幅広い職種での処遇改善が欠かせない。

 ただ、診療報酬の引き上げは、患者の窓口負担や国民の保険料の増加につながる。政府は国民に対し改定の意義を丁寧に説明しなければならない。

 重要なのは、医療従事者の賃金が実際に上がるのか、しっかりと把握、検証することだ。

 改定には、新型コロナウイルス禍で機能しなかった医療を立て直す狙いもある。例えば、特別養護老人ホームなどの介護保険施設に入所する高齢者らの容体の急変に、医療は十分に対応していなかった。

 今後は日頃から施設と連携している医療機関が往診した場合、報酬が上乗せされる。可能な限り施設内で生活を継続できるようにしたい。施設の入所者が急変し、入院を受け入れた場合の報酬も加算される。高齢化が進む中、医療と介護の連携強化が急がれる。

 一方、今回の見直しによる医療費の削減は、不十分と言わざるを得ない。高齢化に伴い令和5年度予算で約48兆円に上る医療費は、今後も膨張することが予想される。現役世代に過重な負担がかかる構図を是正する必要もある。

 病院などに雇われている医療従事者には賃上げを進める。その一方で、利益率の高い診療所は、糖尿病など生活習慣病の一部の報酬を引き下げたものの、切り込みが足りない。効率的な医療の実現に向け、かかりつけ医を含む医療体制そのものの抜本的な改革が求められる。