肥満症薬は「やせ薬」ではない(2024年2月20日『日本経済新聞』-「社説」)

 
 

 


ノボノルディスクの肥満症薬「ウゴービ」は患者自らが皮下注射して使う=ロイター

 劇的な効果が期待できると米国を中心に使用者が急増する肥満症薬が日本でも22日、発売される。肥満症という寿命を縮めかねない深刻な病を治療する医薬品であり、「やせ薬」としての安易な利用は絶対に避けるべきだ。

 肥満症薬はデンマークの製薬大手ノボノルディスクが手がける皮下注射薬「ウゴービ」。体内の血糖値を下げるホルモン「GLP-1」に関するたんぱく質に働きかけ作用する。食欲がなくなり、食べてもすぐ満腹感を覚える。摂取カロリー量が減って体重減につながる。元々は糖尿病向けに臨床応用されてきた薬がベースになって開発された。

 肥満症薬への期待は大きい。2030年に世界市場が770億ドルになるとの予想もあり、日本の製薬会社も含め「ウゴービ」に続けと開発競争が激しくなっている。

 注意したいのは肥満と肥満症とは医学的に異なるという点だ。「体重が増えた」「おなか回りが気になる」といった太り過ぎは病気ではない。一方、合併症のある肥満症は健康を害した状態で、食事療法や運動療法でも効果がなければ減量治療が必要になる。

 国内での使用にあたり、厚生労働省日本肥満学会などの協力を得て適用ガイドラインを定めた。高血圧症、脂質異常症2型糖尿病のいずれかの病気があり、BMI(体格指数)が35以上(身長160センチで体重約90キロ)か、27以上(同69キロ)で肥満に関する健康障害が2つあることを条件とした。

 医師なら誰でも処方できるわけではなく、治療にあたる医療機関も当面、限られる。乱用を防ぐためにも妥当といえる。順守してもらいたい。

 同じ作用の仕組みをもつ糖尿病薬が美容クリニックなどでダイエット目的で使われ、実際の糖尿病患者に行き渡らないケースが起きている。日本医師会などが再三、不適切使用に警鐘をならしてきたが「やせ薬」としての利用はなくならない。厚労省は実態調査を進め、対策をとるべきだ。