【闘病】体重25kg増の爆発的な食欲の正体は「クッシング病」だった(2024年5月4日『Medical DOC』)

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「クッシング病」という病気を知っていますか? 名前が似ている「クッシング症候群」とは異なり、こちらは指定難病です。大学生のときにクッシング病と診断された小笠原妃奈子さんに、聞き慣れないこの病気についての闘病体験を話してもらいました。

 

 

 
 
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2024年2月取材。
 
[この記事は、Medical DOC医療アドバイザーにより医療情報の信憑性について確認後に公開しております]
治療しなかった場合の5年存率50%の「クッシング病」
 
編集部:
まず初めに、「クッシング病」とはどういった疾患なのか教えていただけますでしょうか?
小笠原さん:
難病に指定されている、ホルモン代謝異常の疾患です。日本では、およそ100万人に1人の割合で発症するとされていて、特に中年の女性に多いと言われています。
脳内でホルモン分泌の調節を中心的に行っている脳下垂体というところに腫瘍ができることによって生じます。
その腫瘍が副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を自律的かつ過剰に分泌し、結果的にコルチゾールという副腎皮質ホルモンが持続的かつ過剰に分泌されてしまうことでさまざまな症状が現れます。
編集部:
具体的にどのような症状が現れるのでしょうか?
小笠原さん:
急激な体重増加、中心性肥満、ムーンフェイス(満月様顔貌)、ニキビ、バッファローハンプ(野牛肩)、免疫力低下、月経不順、筋萎縮、血圧上昇などです。
これらの症状は直接的に命に関わることは少ないものの、二次的に高血圧や糖尿病、肝硬変などの合併症になることで致命的なダメージを受ける可能性があります。
また、コルチゾールは「ストレスホルモン」とも言われていて、過剰分泌により、うつ傾向になることもあるそうです。
治療しなかった場合の5年生存率は50%とも言われています。ちなみに、「クッシング症候群」という疾患もありますが、それは副腎に腫瘍ができることで同様の症状が現れますが、難病には指定されていません。
編集部:
病気が判明した経緯について教えてください。
小笠原さん:
病院で診てもらうきっかけとなった症状は脚のむくみです。大学3年生のときのある朝、起きたら片脚が象の脚のようにむくんでいて、歩くだけでゼリーのようにプルンプルンと足の甲が揺れていたのです。
当時は痩せるためにランニングをしていて、その日も走るとむくみは一気にひいたものの、翌朝にはまたむくみが戻っていたので地元の内科を受診しました。
編集部:
脚のむくみが現れる前に、別の自覚症状などはあったのでしょうか?
小笠原さん:
振り返ってみると、高校2年生から体の異変はありました。でも、その異変の多くもクッシング病とわかってから「あれも病気の影響だったんだ」と気づいた感じだったので、自覚症状があったかと言われると、微妙なところです。
さまざまな症状は受験期によるストレスが原因だと思っていた
編集部:
どのように治療を進めていくと医師から説明がありましたか?
小笠原さん:
内視鏡下経鼻的腫瘍摘出術という、鼻の奥の骨に穴を開けてそこから腫瘍を取り出す手術を行うと言われました。
腫瘍摘出後の残存した下垂体はACTHの分泌機能が低下しているため、薬の服用でそのホルモンを補いながら機能回復を図っていくという説明を受けました。
編集部:
病気が判明したときの心境について教えてください。
小笠原さん:
当時、私は獣医大学に通っていてちょうど内分泌代謝学の講義を受けていたところで、「自分の脚のむくみや体重増加はもしかしてホルモン系の病気なのでは?」と思いながら受診をしました。
犬ではクッシング病は比較的多い病気(発症率は人間の1000倍以上)のため、私にとっては聞き慣れた病名でした。
そんなこともあってクッシング病と診断されても冷静でいることができましたが、後々調べたら、人間のクッシング病は稀なことで、なおかつ難病であると知り、驚きました。
編集部:
発症後、生活にどのような変化がありましたか?
小笠原さん:
おそらく発症したのは高校2年生の頃だと思いますが、食欲が爆発的に増えて(3~4人前の鍋を毎晩1人で食べてしまえるぐらい)、いつの間にか生理がこなくなっていました。顔もニキビだらけでまん丸になって、友達と写真を撮ることがだんだん嫌になっていきました。
特に印象が残っているのは、たくさん食べてお腹がはち切れそうでも、頭が「まだ食べたい」と思う感覚があったことです。頭と胃の連携がまったく取れていない感じで、満腹感も空腹感も感じなくなっていました。
しかし症状が出始めたのが大学受験期と重なったことで、「ストレスで食欲が止まらないだけかな」「生理が来ないのも楽だし、病院に行く時間ももったいない」と思ってしまい、病院に行くことを後回しにしていました。
受験を終えてから、無月経のため婦人科を受診したものの、調べたのは女性ホルモンのみだったので、クッシング病とはわからず通常の月経不順の治療としてピルなどを服用していただけでした。
編集部:
症状に変化はなかったのでしょうか?
小笠原さん:
大学生になってからは特に、息が上がりやすくなり、身体が1日中だるくて大学の授業や実習がしんどくてたまりませんでした。
「なんでみんなは元気なんだろう、私って全然体力がないな」と思いながら授業を受け、できるだけ早く家に帰ることだけを考えていた大学生生活でした。
また、夜間にトイレで起きることが増え、まとまった睡眠がとれない日々も続き、精神的な浮き沈みやイライラも増えていきました。今では噓のようですが、友人の喜びや幸せがすべて妬ましいと感じるほど精神的に追い込まれていたときもありました。
結局クッシング病とわかるまで25kgくらい体重が増え、急激な体重増加に皮膚が耐えられず、肉割れ線が唯一の痕跡として今も残っています。いくつもの変化が起きていて、この気づきにくさがクッシング病の難点だなと改めて感じます。
編集部:
闘病に向き合う上で心の支えになっているものを教えてください。
小笠原さん:
大きな支えとなったのは2匹の犬たちです。私がだるくてしんどい時もストレスでいっぱいいっぱいな時も、犬たちがいつも癒してくれました。もちろん両親も献身的に支えてくれました。ただ、心配をかけないよう振る舞っていた部分もありました。
あとは、髪を緑や青など派手な色に染めていました。個人的に髪色が明るいと気分も明るくなるし、体型的に着られる服がなくなっていく中で、髪だけは唯一好きなように自分を表せるパーツだなと感じていたからです。
その中でも1番の支えとなったのは同じ病気の方々との出会いです。
病気の辛さをわかり合えたとき、一気に感情が溢れ出した
編集部:
同じ病気の方々との関わりの中で印象に残っていることはありますか?
小笠原さん:
入院中、同じクッシング病の方と出会えた瞬間、一気に涙が出ました。病気とわかるまでの経緯や症状を共感しあえたことが何とも言えぬ安心感と、今まで無意識に蓋をしていた、辛かった・苦しかった感情のようなものが一気に溢れ出たことを覚えています。
この経験から、私も誰かの役に立つことができればと思い、手術後はSNSを通じて自身の病気と経過を定期的に投稿し、同じクッシング病の方やほかの下垂体腫瘍の病気の方などと積極的に交流するようになりました。
5年が経った今でも私の投稿を見て年に数人の方から相談があり、可能な限り私の経験を伝えています。
編集部:
もし昔の自分に声をかけられたら、どんな助言をしますか?
小笠原さん:
「後回しにしないで早く病院に行きなよ」と言いたいところですが、一般的な血液検査ではわからない病気なので、結局はこういう運命だったのかなとも思っています。
でもやっぱり、早期発見に越したことはないし、早く見つかっていれば人生も違ったのかなとか、今の体型や肉割れに対するコンプレックスもまだマシだったかもしれないなと悔やむことはあります。
編集部:
現在の体調や生活などの様子について教えてください。
小笠原さん:
現在は何不自由なく生活しています。薬の服用は約1年8カ月で卒業しました。手術直後は「薬の飲み忘れに注意しなければ」といった緊張感をもっていたのを覚えています。
なぜなら、仮に災害などが起きて3日程度飲めないと命に関わるリスクがあると言われていたからです。術後1年くらいまでは生理が2~3カ月続いたり、メンタルの浮き沈みが激しかったりと体調は不安定でした。
一方で、ちゃんとお腹が空いて、満腹感も感じることができるようになりました。トイレで起きることもなく熟睡できるようになって、当たり前の感覚を取り戻せたことに幸せを感じていました。
手術から5年経った現在は、手術前日から23kg痩せることができました。いまだにゆっくりと痩せていっています。毎シーズン何かしらの服が緩くなっているので、喜びと自信に繋がっています。
ちなみに現在の職業がアルバイトなのは、この病気の経験を活かすために医療系大学に進学したいと思い、勉強と仕事を並行して生活しているからです。勉強以外にも、せっかく助かったのだから「後悔のない人生を送ろう」と思うようになりました。
編集部:
クッシング病を意識していない人に一言お願いします。
小笠原さん:
クッシング病と聞いても、大半の人がピンとこないと思います。進行するまでは症状も些細で、ほかの病気と共通するものもあるし、詳しい検査をしないとわからないので見過ごされてしまう可能性がある厄介な病気です。
私が今まで交流してきた同じ病気の方の中にも、病名が判明するまでいくつもの病院に行ったという方が多く、みなさん苦労されています。加えて、精神的苦痛を抱えている方が多いことにも気付かされました。
それは周囲の人たちの理解が得られないことからくるものです。太って見た目が変化していじめられ、不登校になった高校生、「手術した=完治した」という誤った認識から体調不良になっても「怠けている」と家族から言われる主婦の方など……。
ただでさえホルモン過剰・不足で心身のバランスが不安定なのに、周囲の無理解によってさらに追い打ちをかけられている方が多くいたのです。ですから、この闘病体験記を通して少しでも多くの方にこの病気を知ってもらい、理解が広がることを切に願っています。
編集部:
同じ病気を経験されている方へ伝えたいことはありますか?
小笠原さん:
自分の闘病期間を振り返って思うことは、焦っても回復を早めることはできないし、むしろ自分にさらにストレスをかけていいことは1つもないということです。
同じ病気の方には、「とにかく焦らず、ゆっくりでいいので、ストレスを抱えないように過ごして回復を待ちましょう」と伝えたいです。個人的におすすめしたいのは、「手術後は定期的に自分の写真を撮る」ということです。
術後は見た目がどんどん変わっていくので、比較すると結構驚くと思います。痩せる、肌が綺麗になる、元の自分に戻っていくことは嬉しいし、不安定な心を支え、自信もついていきます。
編集部:
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
小笠原さん:
「最近太っちゃって」とか「食欲が止まらなくて」というようなことを話したり、聞いたりすることもあると思います。そのような時に、この病気を思い出していただき、会話相手に対して「太る病気があるんだってよ」と、この病気の情報を伝えてくれると嬉しいです。
また、太っている人を見かけても、その体型にはさまざまな理由(病気・副作用・心理的理由など)があるかもしれないと想像し、「太っている=怠惰」というような考え方はせず、広い視野をぜひ持っていただきたいと思います。
編集部まとめ
 
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現在の小笠原さん
小笠原さんのお話にもありましたが、「クッシング病」は診断がつくまで時間を要すことが多く、その間、周囲の人たちから理解されないことが原因で精神的苦痛を感じている人がとても多いそうです。
私たちは、「太る病気が存在するということ」「ホルモンが関係する病気は当事者自身も気づきにくかったり、ほかの人から見ても分かりづらかったりすることがあるということ」を知り、病気を患っている人たちへの理解を広めていくことが大切だと感じました。
なお、Medical DOCでは病気の認知拡大や定期検診の重要性を伝えるため、闘病者の方の声を募集しております。皆さまからのご応募お待ちしております。
 
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小笠原 妃奈子 さん
【体験者プロフィール】
小笠原 妃奈子 さん
1997年生まれ、埼玉県在住。家族構成は、父、母、2匹のポメラニアン。診断時は大学3年生。2018年9月に確定診断、同年11月に手術を受ける。1年8カ月の服薬を終え、現在は年に1回の血液検査で経過観察中。体調には何ら問題なくアルバイトに勤しんでいる。
 
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久高 将太 先生(琉球大学病院内分泌代謝内科)
【この記事の監修医師】
久高 将太 先生(琉球大学病院内分泌代謝内科)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。