大きな柱は医療従事者の賃上げへの対応だ。看護師や薬剤師、リハビリ専門職など幅広い職種の処遇改善を進める。賃金体系を底上げするベースアップの目標を24年度に2.5%、25年度に2.0%と設定。同時改定される介護報酬の目標と同じ賃上げ水準を目指す。

 医療従事者も介護職員と同様に、他産業への流出が問題視されている。人材の確保と定着に向け、処遇の改善は喫緊の課題だ。着実な賃上げを実現させ、地域の医療提供体制にほころびが生じないようにしてほしい。

 賃上げの原資として、患者が病院や診療所を最初に受診した時に支払う初診料を30円増の2910円、2回目以降に負担する再診料を20円増の750円に、それぞれ引き上げる。初診料を一律に引き上げるのは消費税増税時を除くと20年ぶりだ。入院基本料もアップし、大学病院では1日当たり1040円増える。

 加えて、賃上げに取り組んだ医療機関に対し報酬を手厚くする加算を新たに設ける。職員数や患者数に応じて初・再診料などに上乗せされる。加算を受け取る医療機関には計画や実績の報告を求める。

 ただ、初・再診料や入院基本料といった基本報酬は、加算と違って使い道が限定されていない点に注意が必要だ。医療機関経営者の意向に左右され、報酬増が必ずしも賃上げに充てられる保証はない。

 今回の見直しが実際に医療従事者の処遇改善に結び付いたのか、実効性を検証する精緻な仕組みを構築する必要があろう。一連の報酬アップには患者の負担増が伴う。政府も医療界もその点に十分留意してほしい。

 改定ではこのほか、糖尿病や高血圧など生活習慣病に関する報酬について効率化する姿勢を打ち出した。高齢化の進行で生活習慣病の慢性患者の増加が見込まれる中、報酬を請求できる要件を厳しくし、過度の通院を抑える仕組みにする。

 診療所の開業医らから収入減を危惧する声も出ているが、医療費抑制と医療の質向上の観点からは評価できるのではないか。23年度の医療費は約48兆円に上る見通しで、今後も膨張が避けられない。医療の効率化への取り組みは不断に続けていかなければならない。

 安価な後発薬が既にあり、特許が切れている先発薬に関する患者負担が10月から増える。医療費抑制に向け保険給付の範囲を見直す転換点であり、影響を注視したい。

 また、高齢者の救急搬送の増加を受け「地域包括医療病棟」を新設。急性期治療後に手厚いリハビリや栄養管理を施し、患者が早期に自宅に戻れるよう支援する。

 医療デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進も加速させる。マイナ保険証や電子処方箋などを活用する医療機関に報酬を上乗せする。DXは医療の効率化に不可欠だが、検査や投薬の重複が減るといったメリットを患者が実感できるような工夫と周知が求められる。