NATO拡大(2024年2月28日)

NATO拡大 ロシアに対する団結を示した(2024年2月28日『読売新聞』-「社説」)

 北欧のスウェーデン北大西洋条約機構NATO)に加盟することが決まった。ロシアのウクライナ侵略を受け、欧州が安全保障面での結束を強めた意義は大きい。

 ハンガリー議会がスウェーデンの加盟を承認し、NATO全加盟国による批准手続きが完了した。昨年4月のフィンランドに続くスウェーデンの加盟によって、NATOは北欧全体に拡大し、計32か国体制となる。

 NATOは、加盟国が攻撃された場合、全加盟国への攻撃とみなして反撃する集団安全保障体制をとっている。北欧2か国の加盟により、バルト海や北極圏でロシア軍を監視する態勢が強化され、抑止力の向上が期待されている。

 スウェーデンは約200年にわたり、中立・非同盟政策を続けてきた。しかし、ロシアのウクライナ侵略を目の当たりにして、もはや中立では国を守れないと判断し、NATO加盟に転じた。

 プーチン露大統領は、ウクライナNATO加盟や、NATOの東方拡大を阻止することを、侵略の目的に挙げていた。それが結果として、北欧の新規加盟によるNATOの拡大、強化を生んだ。プーチン氏の失策は明らかだ。

 重要なのは、NATO各国が対露政策を巡る温度差を乗り越え、結束を保ち続けることだ。

 スウェーデンの批准手続きを巡っては、トルコとハンガリーが難色を示し、申請から加盟までの時間が予想以上にかかった。ハンガリーは、NATOだけでなく、欧州連合(EU)のウクライナ支援にも抵抗し続けていた。

 NATO拡大はようやく実現したが、各国がウクライナへの軍事支援を実行に移さなければ、ロシアの暴挙を押しとどめられない。結束してロシアに対処することが欧州の安定につながる、という認識を共有し続ける必要がある。

 NATO加盟国の中で最大の軍事力を持ち、欧州の安全保障にも責任を持つ米国が、存在感を低下させているのは懸念材料だ。米議会でのバイデン政権と野党共和党の対立により、ウクライナへの軍事支援の予算は滞っている。

 11月の大統領選に向けた共和党の候補争いで独走しているトランプ前大統領は、NATOに対する防衛義務について、後ろ向きな考えを隠そうともしない。

 米国が「自国第一」の内向きの姿勢を強める中、価値観を共有する欧州や日本、豪州などの国々が結束し、国際秩序維持への取り組みを強化することが不可欠だ。

 

NATO北方拡大 対露抑止力の強化を図れ(2024年2月28日『産経新聞』-「主張」)

 

記者会見するスウェーデンのクリステション首相(左)とハンガリーのオルバン首相=ブダペスト(AP=共同)

 

 ナポレオン戦争後、200年近く中立を保ってきた北欧のスウェーデン北大西洋条約機構NATO)加盟が決まった。

 全加盟国の承認が必要だったが、最後に残ったハンガリーの議会が承認した。世界最大の軍事同盟であるNATOの北方拡大が完成し、ロシア本土と大西洋を結ぶ海上交通路(シーレーン)が通るバルト海を包み込むことになった。

 スウェーデン加盟を評価したい。32カ国となるNATOは対露抑止力を強化し、欧州、ひいては世界の秩序の安定を図ってもらいたい。ウクライナ支援も極めて重要な課題である。

 スウェーデンは、中立国ながら旧ソ連・ロシアの侵略に備え防衛努力を続けてきた国だ。だが、ロシアのウクライナ侵略に直面して安全保障政策の転換を決意し、隣国フィンランドとともに一昨年、集団的自衛権の行使によって守り合うNATOに加盟申請した。

 スウェーデンのクリステション首相は加盟決定について「歴史的な日だ。責任を果たす用意がある」と語った。NATOのストルテンベルグ事務総長は「NATOはより強く、より安全になる」と歓迎した。

 フィンランドの加盟は昨年4月に実現したが、スウェーデンはトルコとハンガリーが難色を示し、承認が遅れていた。

 トルコは非合法組織「クルド労働者党」(PKK)関係者らの取り締まりについて、スウェーデン国内での対応進展を認め1月に承認に踏み切った。

 エネルギーのロシア依存が大きいハンガリーNATO諸国による強い働きかけで承認に転じ、スウェーデン製のグリペン戦闘機の購入で合意した。

 11月の米大統領選の有力候補であるトランプ前米大統領は最近、国防費の支出が少ないNATO加盟国を防衛しないと語った。NATOは国防費を国内総生産(GDP)比2%以上にする目標を掲げている。今年はドイツなど18カ国が目標を達成する見通しだ。残る加盟国も国防費の増額など防衛努力を進め、NATOの動揺を防いでもらいたい。

 林芳正官房長官は「同志国間の連携が重要になっている観点」からスウェーデンの加盟努力を歓迎した。日本とNATOは地球規模での安保協力を進めてほしい。