復興と伝統文化(2024年2月27日『山陰中央新報』-「明窓」)

地震で被災した石川県輪島市を訪れ、輪島塗の関係者らと話す岸田文雄首相(左)=24日午後(代表撮影)


 発生から間もなく2カ月となる能登半島地震は、住まいの確保を含めた暮らしの再建の途上である

▼水道や電気など生きていくための足場を固め、歩みを進めていくしかない。一歩ずつ進むにつれて義援金、現地に入ってがれきを整理するボランティア活動、石川県の産品購入、観光で訪れるなど、外部から応援できることが少しずつ増えていく

▼この中で、伝統文化の維持への支援は後回しになりがちだ。能登半島は「輪島塗」や「輪島朝市」を筆頭に、地場の経済と密接に結び付いている。「元の活気を取り戻すかどうか」と、よそ者が軽々なことは言えないが、復興の象徴として目が向けられるだろう

▼もう一つ、気になっているのが漁師まちの文化。輪島市珠洲市など能登半島の4市5町は棚田や浜辺での営みが評価され、日本で初めて「世界農業遺産」に認定された。このうち人口約1万5千人の能登町は定置網で漁獲する寒ブリが有名。漁港が被害を受けて競りができず、他所から氷を調達して水揚げを再開したという。港が人でにぎわうには、時が必要だ

▼この地域で漁師道具として広く使われているのが、魚をさばいたり、ロープを切ったりする際に使う小刀「マキリ」。高級品では鋼が島根県奥出雲町の日刀保たたら、地金は能登産の和鉄を融合し作られている物もある。奥出雲町が世界農業遺産を目指しているのも、何かの縁に感じる。(万)