港から漁船が出せない…能登半島地震で「隆起」 漁業に大打撃の現状は? 各地の新旧衛星写真も(2024年2月26日『東京新聞』)

 能登半島地震の影響で、半島の北側から西側にかけた沿岸部は、地盤が最大約4メートル隆起した。漁港は水深が浅くなったり干上がったりして、船を出せなくなった漁師も少なくない。一帯の石川県漁協支所が扱う販売額は県全体の4割近くに上るとみられ、操業停止の影響は大きい。「漁港の隆起は前例がない」と関係者も対応に苦慮している。(井上靖史)

◆避難先で既に別の仕事に就いた人も

 「輪島では船が全く出られない状態なので、こちらへ手伝いに来ている」。金沢市の県漁協かなざわ総合市場。県漁協輪島支所販売課の早瀬秀貴主任(32)は、同じ支所から来た他の若手職員10人ほどとともに、水揚げされた魚を選別していた。
 早瀬さんが普段、拠点にする同県輪島市輪島港は隆起した。水深3〜4メートルあった漁港部分は浅い所で1メートル前後になり、200隻ほどの漁船は出港できない。早瀬さんによると、隆起や津波の影響で船が壊れた漁師の中には、金沢市などの避難先で既に別の仕事に就いた人もいるという。
地震による隆起の影響で漁船が出港できなくなった輪島港。港湾内では海底の土砂を掘り出す浚渫工事が始まったている=16日、本社ヘリ「まなづる」から

地震による隆起の影響で漁船が出港できなくなった輪島港。港湾内では海底の土砂を掘り出す浚渫工事が始まったている=16日、本社ヘリ「まなづる」から

 例年ならタラやズワイガニなどを水揚げする季節。早瀬さんは「今季の操業はまず無理。来季もできるかどうか」と気をもむ。「他県の釣り船の人から、輪島沖に魚がいなくなったという話も聞いた。地震で逃げたのかな」と懸念する。

◆「浚渫しても漁港として使えるかどうかは分からない」

 石川県内には69漁港と、漁船の拠点にもなる12港湾がある。県によると、志賀(しか)町の富来(とぎ)漁港から珠洲(すず)市の蛸島(たこじま)漁港付近まで一帯が隆起し、海底の露出や水深不足が生じた。県漁協の資料によると、隆起した地域の漁協支所が販売する年間取扱高は計69億円で、県全体の4割近くを占める。特に輪島支所は最大だ。
 県や県漁協によると、考えられる対応策は必要な水深を確保するために港を掘削することや、漁船を別の港に移すことくらい。県に代わり輪島港を管理する北陸地方整備局は16日、同港の浚渫(しゅんせつ=底にある土砂の掘り出し)に着手した。
 ただ、県の担当者は「浚渫してみた結果、漁港として使えるかどうかはまだ分からない」という。別の港に漁船を移動させるのも「受け入れ先のことを考えると、簡単に決められることではない」とし、現時点で再開の見通しは立たない。
 2003年に4200人だった県内の漁業就業者は10年後の13年に3300人、18年には2400人にまで減った。さらに減少しかねないと懸念する声も聞かれる。