“カスハラ” 約2人に1人が被害に 労働組合が実態調査(2024年4月29日『NHKニュース』)

 

労働組合が実施したカスタマーハラスメント、いわゆる「カスハラ」の調査で、「2年以内で被害にあった」と回答したのは、およそ2人に1人で、専門家は「被害を防ぐためには、企業側がカスハラの線引きを明示することが重要だ」と指摘しています。

“カスハラ”の実態は 

労働組合でつくるUAゼンセンは、カスハラの実態を調べるため、3月までに、サービス業の組合員を対象にインターネットでアンケート調査を行った結果、3万3000人余りから回答がありました。

それによりますと、「2年以内でカスハラの被害にあったことがあるか」尋ねたところ、46.8%が「被害にあった」と回答しました。

4年前に行った調査での回答は56.7%で、前回に比べ10ポイント近く減りましたが、およそ2人に1人が被害にあったとしています。

また、最も印象に残っている客のカスハラについて尋ねたところ、
▽「暴言」が39.8%
▽「威嚇・脅迫」が14.7%
▽「何回も同じ内容を繰り返すクレーム」が13.8%
▽「長時間拘束」が11.1%
などとなっています。

このほか、カスハラのきっかけとなった具体的な理由について尋ねたところ、
▽「客の不満のはけ口や嫌がらせ」が26.7%
▽「接客やサービス提供のミス」が19.3%
▽「消費者の勘違い」が15.1%
などとなっています。

カスハラ問題に詳しい東洋大学桐生正幸教授は「カスハラは悪いという認識の広がりで、被害は減っているかもしれないが、もっと減らさなければいけない。『自分は教えてあげている』という考えで迷惑行為の認識がない人がいるので、店や企業側は、カスハラの線引きを明示することが重要だ」と話していました。

調査結果は5月下旬以降、正式に発表される見通しです。

“相手のために“ 繰り返し“カスハラ”行った男性は

カスハラを繰り返したことがあるという40代の男性を取材しました。

以前、男性はIT関係の会社に勤めていましたが、5年前に独立してIT関連の事業を立ち上げ、今では年収が1000万円を超えるまでになったと言います。

これまで働いてきた中で、自分のミスなどを上司や客に厳しく叱責されたことが自身の成長につながったとして、客として訪れた店では、不備などを厳しく指摘することが相手のためになると考えていました。

男性は「多いときは、1年に10回ぐらいカスハラをしていた。最近では定食屋で、おかずの量が少ないと感じたときに、店員に『作り直せ』とどなった。相手に強く言うことで、よくしたいという自分の正義感を振りかざしてしまった」と話していました。

“カスハラ” やめたい人のための講座も

カスハラへの認識が広がる中、カスハラをやめたいと考えている人もいます。

都内で開かれている怒りの感情をコントロールする方法を学ぶ「アンガーマネジメント講座」には、開設された去年以降、延べ140人が参加しました。

主催者によると、このうちカスハラをやめられない自身を変えようと、受講を希望する人も相次いでいるということです。

講座では、参加者が発注した名刺に載せる顔写真の画像が想定していたよりも粗く見えて不快に感じた場合、どう感情をコントロールするかのシミュレーションが行われました。

講師は「2%でもいいので、相手のことを肯定する気持ちを持ってほしい」と参加者に伝え、不快感に伴ってカスハラ行為を起こす前に思いとどめてほしいと呼びかけていました。

講座を運営している心理カウンセラーの吉村園子さんは「カスハラをテーマにした講座は求められている。今後、ブラッシュアップした講座を作っていきたい」と話していました。

“カスハラ”防止対策 自治体や企業では

カスハラを防ごうと、自治体や企業で対策に向けた動きが始まっています。

東京都は、全国初となるカスハラ防止条例の制定に向けた検討を進めています。

カスハラが、セクハラやパワハラなどのハラスメントと違って、法律上の定義はないことから、「違法な行為、または、不当な行為で就業環境を害するもの」などと、条例で定義づける方向で調整を進めていて、こうした内容を盛り込んだ条例案の早期提出を目指しています。

また、JR東日本は初めて、カスハラへの対処方針を策定したと先週、発表しました。

この中では、カスハラに該当する行為を
▽執ような言動や
▽社員の個人情報などのSNSなどへの投稿
▽不合理または過剰なサービスの要求
などとしていて、こうした行為が確認された場合、サービスの休止や要望を聴くなどの対応をやめるとしています。

さらに悪質と判断される行為があった場合は、警察や弁護士などに相談し、厳正に対処するとしています。