自民票はどこへ行く 3補選から読む次期衆院選(2024年4月29日『日本経済新聞』)

編集委員 大石格

 


衆院東京15区補欠選挙で当選を決めた酒井菜摘氏(中央、28日、東京都江東区)=共同

28日に投開票された衆院の3つの補欠選挙で、自民党は不戦敗を含め全敗を喫した。この地殻変動は、次の選挙にどのような影響を与えるだろうか。焦点は、これまで自民党を支持してきた有権者がどのような投票行動を示したのか。言い換えれば、自民票はどこへ行ったのかだ。

自分が支持していた政党に不手際などがあった場合、どうするか。大まかに3つに分かれよう。

(1)長年のつき合いなのだから応援し続ける
(2)とりあえず様子見で、棄権ないし白票にする
(3)おきゅうを据えるべく、他党に投票する

政権選択の場である衆院選で、自民党支持層が(3)にまで大きく踏み込んだことは、政権交代につながった1993年と2009年の2回しかない。今回はどうだったろうか。

長崎3区、自民票は棄権

いちばんわかりやすかったのが、自民党が公認候補を擁立しなかった長崎3区だ。2021年の前回選と比べると、当選した立憲民主党山田勝彦氏の得票は1808票減とほぼ横ばい。基礎票通りの順当な結果だった。

前回選で無所属で2万5566票を得た山田博司氏は、次の衆院選では日本維新の会の公認で長崎1区に出馬予定だ。今回、維新公認だった井上翔一朗氏はこの票をベースに戦い、ほぼ遜色ない2万4709票を得た。こちらも基礎票通りである。

この選挙区の投票率は前回よりも25.48ポイントも下落した。当日有権者数は23万1747人なので、棄権が5万9049人増えた計算になる。これは議員辞職した自民党谷川弥一氏が前回選で得た5万7223票とほぼ同じだ。自民党支持層はまるごと(2)を選択したと考えると辻つまが合う。公認候補がいれば、(1)もある程度はいただろうし、自民党支持層の怒り具合としてはほどほどである。

 

島根1区、自民支持層26%が立民に

自民党が唯一、公認候補を立てた島根1区では支持層から(3)まで踏み込む動きがあった。共同通信社出口調査によれば、当選した立憲民主党亀井亜紀子氏は自党の支持層の98%、支援を受けた共産党の支持層の90%を固めたうえで、自民党支持層の26%からも支持を得た。

前回選で自民党細田博之衆院議長は9万638票を獲得した。公明票無党派票を除いた自民党基礎票は約7万5000票と目されており、その74%は5万5500票である。今回の自民党公認の錦織功政氏が得た5万7897票とほぼ一致する。無党派層の票も亀井氏の3分の1程度とはいえ入っているので、自民党支持層の亀井氏への実際の流出は出口調査の26%よりも大きい計算になる。

亀井氏の父・久興氏は自民党時代に国土庁長官を務め、郵政民営化に反対して離党したものの、民主党に籍を置いたことはない。自民党支持層にしてみると、いわゆる立民タイプと異なる亀井氏は(3)まで踏み込むのに抵抗感が小さかったわけだ。

東京15区の自民票は全くばらばらだった。2021年の前回選では公認候補を立てず、無所属2候補をいずれも推薦して競わせており、もともと党としてのまとまりがない地域だ。出口調査でも自民党支持層は上位候補に10〜20%ずつ満遍なく投票しており、推薦を一時検討した無所属の乙武洋匡氏に固まることもなかった。

特徴としては、当選した立憲民主党の酒井菜摘氏への流出は1割程度にとどまったことだ。島根1区の亀井氏と対照的に、酒井氏はリベラル色が濃く、(3)まで踏み込みにくかったのだろう。

酒井氏の得票は投票率が今回とほぼ同じだった2023年の江東区長選のときよりも1万5184票増えた。自民票の流入を5000票程度と見積もると、残りはどこから来たのか。無党派層の支持でトップだったのが効いているのだが、より厳密にいうと、日本維新の会の支持層が無党派層にやや移ってきたことで、無党派層のパイが膨らんだ恩恵も受けている。逆に2021年の前回選で4万4882票を得た維新の金沢結衣氏は2万8461票へと大きく後退した。投票率が18.03ポイント下がった影響もあるが、維新の党勢伸び悩みがくっきり表れた形である。

次の選挙も棄権か

全体の傾向としてまとめると、自民党支持層は(1)にはほど遠いが、リベラルへの忌避感は根強く、大挙して(3)へと動く感じでもない。今回、3つの選挙区とも投票率は過去最低を更新した。補選だから、ではあるまい。次の衆院選でも自民党支持層のかなりが引き続き(2)、すなわち棄権を選ぶというのが、この補選の妥当な読み方だろう。