海に三方を囲まれている能登半島の沿岸には…(2024年2月18日『毎日新聞』-「余録」)

水揚げされた寒ブリを仕分ける漁師ら=石川県七尾市の鰀目漁港で2024年1月10日午前4時5分、北山夏帆撮影拡大
水揚げされた寒ブリを仕分ける漁師ら=石川県七尾市の鰀目漁港で2024年1月10日午前4時5分、北山夏帆撮影
隆起により、海底が露出した深見漁港=石川県輪島市門前町深見で2024年2月1日、高尾具成撮影拡大
隆起により、海底が露出した深見漁港=石川県輪島市門前町深見で2024年2月1日、高尾具成撮影

 海に三方を囲まれている能登半島の沿岸には、寄(よ)り神(がみ)と呼ばれる信仰が伝わる地域がある。海から漂着したとされる神々や、石などの神体をまつり、豊漁や豊穣(ほうじょう)を祈る

▲酒だるに乗って来る神など、物語はさまざまだ。1973年に刊行された「能登 寄り神と海の村」(日本放送出版協会)によると、当時100を超す伝承が確認できた。信仰は祭事と結びつく。夏祭りで大きな奉燈(ほうとう)をかつぐ幻想的な「キリコ」や、豊漁や安全を祈る旧正月行事の「起舟(きしゅう)」などが地域に根付いてきた

能登半島地震では石川県に69ある漁港の約9割が被害を受け、漁業が深刻な打撃を受けた。住居や港湾の被災に加え、地震による海底隆起で環境が一変した地域もある。寄り神をまつる神社も多くが被災した。漁業に携わる人々や、地域の苦境を思うと胸が痛む

寒ブリ漁、底引き網、刺し網など能登の漁業は多様さで知られる。石川県漁業協同組合の「X」(ツイッター)からは、困難な中で少しずつ漁を再開している様子が伝わる。「一歩一歩進むしかありません」と専務理事の福平伸一郎さんは語る

▲漁港の集約や再編を巡る議論も地元では出始めているようだ。離職者を増やさぬためには、商業や観光なども合わせたビジョンの構築が欠かせまい

能登など北陸では春ごろから「あい(あえ)の風」という海風が吹き、恵みをもたらすといわれる。人口減少や高齢化は全国の漁業に共通の課題でもある。行政や民間も力を合わせ、支援の風を起こす時だ。