クマ被害(2024年2月26日)

チケット(2024年2月26日『福島民友新聞』-「編集日記」)

 マーラーは早朝決まった時間に起きると、すぐに森の中の作曲小屋に入るのが日課だった。外のベンチで朝食を取った後は正午まで作曲に集中した。家族はその間、小屋に犬の鳴き声が響かないよう、近所の人にオペラのチケットを配ってお願いして回ったという

▼芸術家というと、創作意欲が高まるのに任せ、不規則な生活をしているようなイメージがある。しかし実際には、夜明けと共に目覚め、仕事に取りかかるという人が多いようだ(メイソン・カリー「天才たちの日課」フィルムアート)

▼暖冬で冬眠するタイミングを逃してしまったのか、それとも目覚めるのが早過ぎるのか。ことしはクマの目撃情報が早い。郡山市で正月早々に姿を現したかと思えば、南会津町では男性が襲われてけがをした。この時期のクマによる被害はまれだ

▼国が、全国で深刻な人的被害をもたらしているクマを「指定管理鳥獣」に追加することを決めた。クマの捕獲に関する事業費を補助して、被害防止対策の強化を後押しする

▼人の被害は防がなければならないが、むやみにクマを追い詰めてしまうのも、できれば避けたいものである。人もクマも平穏に暮らせるようになるチケットはないものか。

 

クマ被害対策 駆除の必要性に理解広げたい(2024年2月26日『読売新聞』-「社説」

 人的被害が増えている以上、人里近くに出没する危険なクマを駆除し、生息数を管理するのは妥当な対策だろう。国や都道府県は実効性ある仕組みを構築しなければならない。

 調査や捕獲を計画的に行って個体数を管理する「指定管理鳥獣」に、北海道のヒグマと本州のツキノワグマを追加することが決まった。現在は、ニホンジカとイノシシが指定されている。

 環境省の専門家会議が、クマを追加する方針案を了承した。

 今年度のクマによる人的被害は1月末現在で218人と過去最多となり、うち6人が死亡している。市街地に出没する「アーバンベア」も社会問題化している。

 これまではクマの保護に軸足を置く政策だったが、被害の続発で駆除を中心とする生息数の管理に転換する必要性が高まった。

 対応に苦慮してきた都道府県も、国が立場を明確にしたことで、今後は駆除に取り組みやすくなるのではないか。

 指定後は、都道府県がハンターに払う日当を国の交付金で賄えるようになる見込みだ。これまでは財源が乏しく、人手が十分に確保できないこともあったという。

 駆除に対して抵抗感を抱く人も少なくない。自治体やハンターが、「クマがかわいそうだ」などと批判を浴びる風潮は根強い。

 しかし、駆除されるクマの大半は、人里に侵入して人や農作物に危害を与える「問題個体」と呼ばれるものだ。住民の生活と命を守るため、駆除が必要な場合もある。そのことについて、社会全体で理解を深めていきたい。

 重要なのは、クマの個体数を正確に把握することだ。今回の指定によって都道府県の生息数調査にも国の交付金が出る。

 過去には過剰な捕獲で個体数が減ったこともあった。九州のツキノワグマは絶滅し、四国でもその可能性が危惧されている。こうした事態を繰り返さないよう、調査の回数や方法を全国で統一し、精度を上げてもらいたい。

 クマによる被害が増加している原因には、過疎化や高齢化による地域社会の衰退や、耕作放棄地の増加といった構造的な変化も挙げられるだろう。

 かつてはクマのすむ奥山と人里の間に里山があり、住民が下草を刈って見通しを良くしていたが、人口減で荒廃し、クマが近づきやすくなっている。

 国や自治体は、里山を再生する取り組みを強化し、クマと共生できる環境を整える必要がある。