クマ、指定管理鳥獣に すみ分け強化、人身被害防げ(2024年2月16日『河北新報』-「社説」)

 市街地に出没し、人身被害が相次ぐ状況はもはや看過できない。すみ分けを図り、共存できる環境づくりを目指さねばならない。

 環境省は4月にクマを「指定管理鳥獣」に追加し、都道府県の捕獲事業を支援する方向性を打ち出した。絶滅の恐れがある四国と既に絶滅したとされる九州は対象外で、専門家検討会が決定した対策方針を踏まえて判断した。

 指定管理鳥獣になると、都道府県による捕獲・狩猟や担い手育成といった事業で国の交付金が受けられる。人身被害の多い地域を抱える北海道東北地方知事会が指定を要望していた。地方の切実な訴えを国が聞き入れた判断をまずは評価したい。

 環境省によると、昨年4月~今年1月のクマによる人身被害は19道府県の計197件218人で、うち6人が亡くなった。記録が残る2006年度以降で最多だ。東北は本年度、突出して多く、秋田県が62件70人(1月末時点)、岩手県は46件49人(8日時点)でうち2人が死亡した。

 クマに遭遇する危険性が日常的にあることを改めて感じさせられる。林業従事者や狩猟者の減少で人に対する警戒心が薄れたほか、人口減少や高齢化による耕作放棄地の拡大などで生息域が広がっていることが要因とみられる。

 検討会の方針は、被害を防ぎつつ、生息環境の改善などによるクマの「保全」を唱えており、バランスも重視した内容と言える。

 クマの個体数は増加傾向にあるが、数万頭とされる。既に指定管理鳥獣のニホンジカの約300万頭、イノシシの約70万頭に比べて圧倒的に少ない。九州のツキノワグマの絶滅は過度な捕獲が一因とされ、検討会が保全も主張した理由がここにあろう。

 現在のような出没状況では、検討会が提言した通り、人とクマの生活圏を分ける「ゾーニング管理」を強化することが肝要だ。

 市街地など「人の生活圏」では人の安全を最優先に、侵入したクマを速やかに排除する。里山など「緩衝地帯」は樹木の伐採や下草の刈り払いによって出没を抑制する環境整備に取り組み、奥山の「保護優先地域」はクマの生息環境を保全する。これらを徹底し、被害を防止したい。

 高齢化が進むハンターの後継者育成も欠かせない。昨年はクマを駆除したハンターや自治体への誹謗(ひぼう)中傷が相次いだが、なり手が不足すれば対策は滞る。住民の命に関わる問題として認識してほしい。

 間もなくクマが冬眠から目覚める春を迎える。環境省は来月末までにハンターからの聞き取りやドローンを使い、足跡やふんなどを基に生息状況を調べるという。出没に備え、自治体や警察、狩猟団体の連絡体制も強化する。

 人身被害が多発する傾向が強い季節を前に、実効性の高い対策を講じてもらいたい。