管理獣にクマ指定 まずは生息調査が必要だ(2024年2月12日配信『産経新聞』-「社説」)

北海道標茶町で撮影されたヒグマ「OSO18」=(同町提供)

本州のツキノワグマと北海道のヒグマが今年4月にも「指定管理鳥獣」に追加されることになった。

環境省の専門家検討会の対策方針案を受けて伊藤信太郎環境相が表明した。

統計開始以来、最多となった人身被害を踏まえた措置である。ただし、クマの捕殺数の急増は避けたい。クマは種子の散布など奥山の森林生態系の持続にとって重要な役割を果たす大型獣である。

指定管理鳥獣に定められると都道府県による捕獲などの費用が国からの交付金の対象になる。結果として捕殺圧が高まる方向に作用することは避けられないだろう。実施に当たっては慎重な制度設計が必要だ。

その第1が生息数の調査である。環境省によってツキノワグマの数が調べられたのは約10年前で1万5千頭前後と推定しているが、あまりに古い。県ごとの調査もあるが、クマはナワバリを持たず、県境をまたいで移動するので総計と実生息数には差が生じる。

環境省と生息都府県がまずなすべきことは、正確な生息数の把握である。専門家検討会もこの点を指摘しているようだが、調査方法と推計方式、時期などを統一して行わなければ精度が落ちる。環境省には、ただちにこの総合調整に本腰を入れてもらいたい。

それなしに指定管理鳥獣としての駆除に走ればツキノワグマは絶滅に向かう。令和元年以降、昨年末までの5年間で捕殺された個体は、狩猟分を除いて約2万5千頭に上る。既に過剰捕殺が危惧されるレベルだ。

クマはなぜ市街地にまで出没して「アーバンベア」と呼ばれるようになったのか。ドングリ類の不作もあろうが、根源的な原因は中山間地の人口減だろう。増えた耕作放棄地はクマの行動圏に化している。

さらなる原因は日本の少子高齢化と人口の首都圏集中だ。日本の社会構造の変化に起因しているクマ問題は、小手先の対応では解決が望めない。

本の森林生態系はオオカミを失っている。そのツケがシカとイノシシの爆発的な増殖による林業や農業の被害の増加なのだ。クマの保護と捕獲の両立は口で言うほどたやすくない。

クマの研究者育成も急務だ。なすべきことは、山ほどある。環境省の手腕が問われる。