災害死者の氏名公表 国が統一基準の策定を(2024年2月25日『』-「明窓」)


石川県珠洲市の倒壊した家屋の前に手向けられた花=19日

 能登半島地震で甚大な被害を受けた石川県は、発災2日後には連絡が取れない安否不明者の氏名公表を始めた。結果、生存情報が早期に多数寄せられ、捜索対象を絞り込むのに寄与した。一方で死者の氏名公表は、地震の2週間後にずれ込んだ。初日は23人だったが、この時点で既に200人を超す犠牲者が確認されていた。

 災害時の安否不明者については原則公表とする国の指針があり、これに沿って県が定めていた基準にのっとった。死者は国の指針がなく、県独自の基準で遺族の同意を条件とし、意思確認に時間と労力を要したという。

 いまも順次氏名公表が続いているが、災害関連死を含め240人を超す犠牲者のうち、これまでの公表は6割程度にとどまる。つらい状況で意思確認に応じた遺族、その心情に配慮し丁寧に耳を傾けた自治体担当者には頭が下がるが、専門家からは「遺族同意」の条件に疑問の声も出ている。

 共同通信の昨年の調査では、都道府県の多くが石川県と同様の方針を示したが、同意を条件とせず原則公表とする自治体も出てきている。このままでは都道府県によって対応が異なり、広域災害などで混乱を招く恐れもある。死者の氏名公表についても国が主導して議論を深め、統一基準を策定すべきだ。

 災害時の安否不明者の氏名公表は従来、自治体任せで対応がばらばらだった。安否不明者は後に無事が確認されることも多い。氏名が公表されなかった2015年の関東・東北豪雨では、無事だった人を約1週間も捜索し続けたケースまであり、批判を浴びた。

 一方で西日本豪雨(18年)、静岡・熱海の土石流(21年)では公表で多くの情報が集まり、捜索の効率化に役立った。

 こうした経緯を受けて、国は昨年3月、安否不明者の氏名についてドメスティックバイオレンス(DV)などの被害者を除いて、家族の同意がなくても都道府県から公表する統一基準を盛り込んだ自治体向け指針をまとめた。

 遅すぎる措置と言わざるを得ないが、死者について「個人情報保護法の対象外」として触れなかったのも不十分だ。

 このため、都道府県で個別に判断せざるを得ず、石川県の基準では(1)DVなどの被害者ではない(2)遺族の同意がある―を公表の条件としている。

 災害と個人情報に関する政府の検討会委員を務めた弁護士によると、死者と遺族は別の人格であり、氏名の公表に遺族の同意が必要という法的根拠は見いだせない。遺族とは何親等までを指すのかも曖昧で、遺族内で意見が割れた場合や遺族がいない場合の対応も定かではない。

 災害検証などのため死者の氏名公表の意義は大きい。安否を気遣う知人、友人にとっても重要な情報だ。数多くの犠牲者のうちの「1人」という数字ではなく、かけがえのない人が生きた証しでもある。石川県も「人生の尊厳」を公表の公益性を認める理由の一つとした。公表を前提に国の指針が不可欠だ。

 日本はいつ、どこで大地震が起きるか分からない。毎年のように台風や豪雨にも襲われる「災害列島」だ。

 関東地方知事会は昨年11月、死者の氏名公表に関する統一ルールを求める要望書を国に提出した。同じ思いの自治体は多い。国は急ぐべきだ。