「暴走」する内閣、三権分立は機能している? 最高裁・国会は歯止めとなるのか 日本国憲法施行77年(2024年5月3日『東京新聞』)

 
 1947年の施行から3日で77年となった日本国憲法。最近は安全保障や人権といった重要な分野で憲法をないがしろにするような政府の動きが目立つが、立法や司法が行政の権力の乱用を抑制できているとは言い難い。国民主権をうたった最高法規は、三権分立の下で尊重されているのだろうか。(近藤統義、我那覇圭)
最高裁判所(資料写真)

最高裁判所(資料写真)

 岸田文雄首相は、菅義偉前首相、安倍晋三元首相の防衛力強化の路線を引き継ぎ、防衛費の大幅増や敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有、戦闘機の輸出解禁を次々に閣議決定してきた。憲法9条に基づく専守防衛を逸脱しかねない安保政策の大転換にもかかわらず、首相らは「憲法の範囲内」と繰り返し、国会で憲法論議を深めようとしない。
 憲法解釈を変え、集団的自衛権の行使を容認した安保関連法の違憲性を問う訴訟では、昨年12月の仙台高裁判決が初の憲法判断を示した。「9条で許される武力行使の限界を超えると解する余地もある」と認めたが「明白に違憲とは言えない」とするにとどめた。
 国会が税の使い道を決める「財政民主主義」の原則を定めた83条も空洞化している。政府は2020年のコロナ禍以降、具体的な使い道の決定に国会の議決を必要としない予備費を乱用。物価高対策など使途を自在に広げ、桁違いの巨額の予備費を計上している。
 
首相官邸(資料写真)

首相官邸(資料写真)

 53条で定められた臨時国会の召集要求が軽んじられている事態も深刻だ。安倍政権が憲法に基づく国会の召集要求に約3カ月間も応じなかったのが違憲かどうか争われた訴訟では、昨年9月の最高裁判決で「20日以内に召集すべきだ」との少数意見も付けられたが、原告側の訴えを退けた。
 一方、13条の個人の尊重や14条の法の下の平等などを巡り、性的少数者らの人権を擁護できていない現行制度の不備を裁判所がようやく指摘し始めている。
 札幌高裁は今年3月、同性婚を認めない現行制度に違憲判決を下した。性別変更に生殖能力をなくす手術を求める法規定を違憲とする最高裁決定も昨年10月にあった。にもかかわらず、政府・与党の腰は重く、法改正は実現していない。
 
 行政や立法、司法がそれぞれ憲法を尊重し、国民の権利を守る責務を果たしていると言えるのか。立教大の渋谷秀樹名誉教授(憲法学)は「最近の政治には憲法に加え、政治資金規正法をはじめとする法律を軽視する傾向が見られる。法の支配、立憲主義の危機だ」と懸念する。
 その上で「集団的自衛権や敵基地攻撃能力は必要最小限度の実力行使の枠を超えている。内閣の暴走を国会が止められないなら司法が歯止めになるべきだ」と指摘。憲法の最後の砦(とりで)である裁判所に対して「憲法は人々の命や自由、日々の生活を守るためにある。憲法が守られていない状況を正すのが使命だ」として、三権分立をより機能させる必要性を訴える。