石川県能登町小木の水産品加工会社「カネイシ」は能登地方に伝わる魚醬「いしり」を製造する。能登半島地震で貯蔵タンクは無事だったが、貯蔵施設へ向かう唯一の道が崩落し、車の通行ができなくなった。断水も続き、春の仕込みはできていない。社長の新谷伸一さん(54)は「売る物がないと商売にならない」と話す。
九十九湾の入り江を見下ろす貯蔵施設。現在は出荷を待つ22のタンクが保管されている。目の前の崖は地震で土砂崩れが起こり、多くの土砂が海に沈んだ。
地震後、新谷さんは地盤の緩みを危ぶみ、施設内の入り江側に置いてあった11のタンクを内陸側に置き直した。タンクは一つが1.8トンに及び、フォークリフトで何とか動かした。余震も警戒する中での作業は「怖かった」と振り返る。
ただ道が崩落し、搬入と搬出ができなくなった。水も確保できず、例年2月下旬に始める春の仕込みのめどは立たない。年明けにするはずだった出荷済みのいしりの残さ処理やタンク洗浄もできていない。
道路の復旧は進んでいるが、不安は尽きない。「原料の搬入や残さ処理には大型車が必要。以前ほど広い道路ではないだろうし、やってみないと分からない」
当面は仕込みの再開に期待しつつ、22年秋と23年春に仕込みをしたいしりを量を調整しながら出荷していく考え。「そうしないと来年売る物がなくなってしまう」。歯がゆさばかりが募っている。(石井豪)