株価史上最高値(2024年2月23日)

日経平均史上最高値 2024年2月22日 19:00 日経平均株価は34年ぶりに最高値を更新した(22日、東京都中央区

 

株価最高値更新 中長期の持続性はあるか(2024年2月23日『河北新報』-「社説」)


 日経平均株価がきのう、バブル経済期に付けた1989年12月29日の3万8957円44銭を上回り、史上最高値を更新した。

 地価高騰などに日本中が沸いていた80年代の株価に戻った。そう言われても、実感を持てない人は多いだろう。

 賃金が伸びたとはいえ、物価変動を加味した実質賃金ではまだマイナスだ。株式市場で「経済の好循環」への期待が高まってはいるが、実現し、一人一人の暮らしが今後少しずつでも上向いていくかは依然、見通せていない。

 株式市場は昨年から上昇基調を強めていた。年明けは能登半島地震などで一時警戒感が広がったものの、その後一転、さらに速度を上げて上昇を続けた。

 背景に目を凝らすと、期待が先行し、日本経済の実力を正確に反映しているとは言い切れない現実も浮かび上がってくる。

 まず挙げられるのが海外の投資家の動きだ。世界経済を引っ張ってきた中国の景気減速が鮮明になり、比較的安定した日本市場に資金が逃げ込んでいるとの見方がある。企業の成長力が評価されたとばかりは言えないだろう。

 企業業績は確かに好調だ。だが、金融緩和による日米の金利差が招く円安で、輸出企業の業績が水増しされた影響も大きい。

 新たなNISA(少額投資非課税制度)への関心が高まり、これまで投資とは縁遠かった個人の資金が流入していることも、追い風になっている。

 東京証券取引所は昨年、市場改革の一環として「株価を意識した経営」を呼びかけた。株主への還元を強めるよう促している。投資家には魅力だろう。

 こうしてみると、日本の株式市場への関心が高まる要素がそろっていたことに気付く。それらが今後の経済成長を保証するものではないことに注意したい。

 中国経済の減速はいずれ日本にも悪影響が及ぶだろう。NISAの人気も、老後など将来不安の反映とみることもできる。

 消費が増え、企業の業績が伸びる。それが賃金に反映されてさらに消費が伸びる。そんな好循環が回っていくにはまず、中小企業も含めた幅広い賃上げが欠かせない。市場の期待が高い分、今年の春闘の重要性は増す。

 その先の日本経済を中長期的に展望する上で避けて通れないのが、各方面で既に顕在化し始めた人手不足だ。特効薬はない。

 株高を単純に受け止め、経済の実力を見誤ってはならない。

 

株価史上最高値 「失われた30年」脱する起点に(2024年2月23日『読売新聞』-「社説」

 東京株式市場で日経平均株価が、史上最高値を約34年ぶりに更新した。「失われた30年」と呼ばれる長い停滞から脱し、新たな成長を実現する起点にしたい。


 22日の日経平均株価は大きく上昇し、一時、3万9156円をつけた。バブル期の1989年12月29日に記録した3万8957円を上回り、最高値となった。

 22日の終値も3万9098円となり、終値として最高値だった3万8915円を超えた。

 日本経済は、バブル崩壊後のデフレの長期化で、賃金が伸びず、それが消費を押し下げる悪循環から、抜け出せなかった。

 株価も低迷が続き、リーマン・ショック翌年の2009年には、日経平均株価終値が7054円をつけた。そこからは、5倍以上の水準に戻したことになる。

 経済不振の象徴ともなっていた株価の回復を、日本経済の再生につなげていく必要がある。

 企業業績は好調だ。24年3月期決算で、東証に上場する主要企業の最終利益の合計は、3年連続で最高になる見通しだという。企業への期待が、株価が上がる一因になっているのだろう。

 海外投資家が、日本株を割安とみていることも大きいという。日本株の売買額に占める割合は、海外投資家が約6割を占める。

 一方、現在の株高は、日本企業全体の収益力を反映したものとは言い切れない部分もある。輸出企業の業績は、円安が押し上げている。株価の値上がりが半導体関連に偏っているとの指摘もある。

 米国経済が堅調で、米株価が上昇を続けていることが、日本株に波及している。不動産不況の長期化などで中国の株価が下落しており、中国市場から資金が日本に移っているとみられている。

 好景気に沸いたバブル期とは大きく異なり、多くの国民には株価回復の実感も乏しい。

 物価高に賃上げが追い付かないため、国内の消費は伸び悩んでいる。23年のドルベースの名目国内総生産(GDP)は、ドイツに抜かれ世界4位に転落した。

 最高値とはいえ、日本の株価は約34年前に戻ったにすぎない。その間に米ダウ平均株価は約14倍となった。日本には、米アップルやマイクロソフトのような利益率の高い巨大企業は見当たらない。

 株価の回復を契機に、日本企業が本格的に「稼ぐ力」を高めていくことが必要だ。そのためには、積極的な国内への投資と賃上げに努めることが不可欠となろう。

 

株式市場を生かす時代の始まりに(2024年2月23日『日本経済新聞』∺「社説」)

 22日の株式市場で日経平均株価が3万9098円をつけた。バブル期の頂点である1989年末の3万8915円を超える最高値となり、「失われた30年」といわれた長期の低迷を抜け出た。ここをゴールとせず、日本が株式市場を健全に生かしていくスタート地点にしなければならない。

 株価は企業の稼ぐ力を映すものだ。一時は7000円台まで下がった日経平均が上昇基調を取り戻してきたのは、企業が収益力を高めたからにほかならない。

世界で稼ぐ企業けん引

 東証プライム市場に上場する企業の2024年3月期は全体の純利益で43.5兆円を見込む。3期連続の最高益だ。日経平均換算でみれば、89年当時の4倍の純利益をあげる力をつけている。

 株式市場に映る日本経済のリード役の顔ぶれは変わった。89年末はNTTや銀行が時価総額上位に並んだが、今はトヨタ自動車ソニーグループなど世界で稼ぐ企業が全体をけん引する。

 米国で人工知能(AI)向け半導体を手掛けるエヌビディアが急成長しているように、日本でも東京エレクトロンなど半導体関連企業が上位に顔を出す。センサーのキーエンスも高い評価だ。

 大胆な事業の再構築に成功する企業が出てきたのも見逃せない。製造業最大の赤字を経験、上場子会社をなくし世界で勝てる事業に集中した日立製作所が代表だ。

日本型経営の課題だったガバナンス面でも改革が進んでいる。生え抜きで固めるのではなく、社外取締役が入り外部の視線で経営を監督する。資本効率を意識し、持続的な成長を求める株主の声が企業に届きやすくなってきた。

 かつては株式を企業同士で持ち合う比率が50%を超えたが、今は10%強だ。代わって外国人が30%を保有する。物言わぬ株主に経営者が守られた時代は終わった。

 非効率な経営にはアクティビスト(物言う株主)が改革を求め、一般の株主にも賛同が広がる。敵対的な買収も起き始めた。東京証券取引所が企業にPBR(株価純資産倍率)の向上を要請したことも経営を刺激している。

 日本がデフレを脱するなら変革はもっと前に進むのではないか。そう感じる海外投資家が日本株を再評価したことが株高が加速した背景にある。日経平均の上昇率は22年末に比べ50%、23年末比で17%と世界でも際立つ。短期的な過熱感はあるものの、企業業績などの裏づけを伴っており「バブル」とは様相が異なる。

 地政学的な変化も指摘できる。米中対立などが世界の供給網に再構築を迫り、半導体関連をはじめ日本企業の存在感を押し上げている。日本たたきが広がった90年代までとは逆の構図といえる。

 一方で34年間で世界とは大きく差がついた。米ダウ工業株30種平均はこの間で14倍になった。マイクロソフトとアップルの時価総額は2社で東証全体に匹敵する。現金に偏ってきた家計の金融資産の伸びも鈍い。

 ここから問われるのは株式市場本来の機能を生かすことだ。

 自己資本利益率ROE)といった経営効率でみれば日本はなお世界に後れをとる。コスト削減頼みでなく、将来の成長へ戦略的に資本を使いたい。新たなイノベーションに設備投資や研究開発は欠かせず、着実な賃上げにも取り組むべきだ。株高を生かしたM&A(合併・買収)も選択肢だ。

 新陳代謝も必要だ。新たな企業がもっと生まれ、調達資金でさらに大きくなる土壌を整える努力がいる。時価総額上位に次の主役が続々と現れる市場にしたい。

家計にも広く恩恵を

 そうした株式市場の恩恵が家計に広がってこそ意味がある。新しい少額投資非課税制度(NISA)で投資は身近なものになった。市場に向き合う知識を得られる金融教育が大切だ。資産運用会社は投資先と対話し価値向上を引き出す役目を果たしてほしい。一連の歯車がかみあうことにより本物の資産運用立国が実現する。

 日本は日銀が金融政策として株式の上場投資信託ETF)を大量に買い入れた。大株主が中央銀行という世界でも異例のひずんだ構造に今後どう手を打つか、議論を始めねばならない。

 34年で世代の入れ替わりが進んだ。投資は損をするものと感じる世代から、投資は報われると期待する世代への移行だ。

 この先も持続して富を生む健全な株式市場に育てたい。株主や従業員や顧客などすべて の利害関係者の視線が長期的にそろう市場。それが次に目指すべき姿だ。

 

株価が史上最高値 さらなる企業価値向上を(2024年2月23日『産経新聞』-「主張」)

 22日の東京株式市場の日経平均株価が、バブル期以来、超えることのなかった史上最高値を約34年ぶりに更新した。3万9098円で取引を終えた。

 平成から令和に至りようやく果たしたバブル期超えは、「失われた30年」とされる日本経済の長期停滞が転換に向かう兆候の一つでもあるだろう。

 株式市場は年初来の上げ幅が5千円を超える急騰を続けている。一部では過熱感も指摘されるが、株高を企業経営の追い風にすることが肝要だ。企業価値を高める取り組みを一段と進めて成長力に磨きをかけ、民間主導の力強い経済の実現につなげられるかが問われよう。

 平成元年末につけた最高値は往時の日本経済の勢いを象徴するものだった。その後のバブル崩壊や長期デフレで停滞が続いた現在の経済状況は当時と大きく異なる。物価高に伴う個人消費の低迷といった懸念は足元の株高でも変わってはいない。

 そんな中で国内外の投資家の目が日本株に向かっているのは好ましい動きだ。背景の一つには、中国経済の停滞に伴い海外投資家を中心とする資金の流れが中国から日本に移ってきたことがある。東証に上場する株式の時価総額の合計は上海証券取引所を抜いて3年半ぶりにアジア首位を奪還した。

 値上げの浸透や円安による海外収益の改善などで企業業績が上向いていることも大きい。特筆すべきは、東証が昨年、資本効率や株価を重視した経営改革で企業価値を高めるよう要請したことだ。企業の自社株買いや増配、企業間で株式を持ち合う政策保有株の売却などが進んで海外投資家にも好感された。

 投資できる金額などが大幅に拡充された新しい少額投資非課税制度(NISA)もスタートし、株式に対する個人投資家の関心が強まっている。「貯蓄から投資へ」の流れを確かなものとし、株式市場をさらに活性化することにも期待したい。

 企業が株式発行で調達した資金を効率的に活用することを通じて、成長分野を中心とする経済の発展を促すことが市場の役割だ。経営実態からかけ離れた株価の過熱には注意が必要だとしても、資本主義経済の基盤をなすのが株式市場である。株価が史上最高値を更新したのを機に、市場の活性化に資する企業の変革をさらに進めたい。

 

株価最高値更新 暮らしに反映させねば(2024年2月23日『東京新聞』-「社説」)

 東京株式市場の平均株価が1989年12月以来約34年ぶりに終値で最高値を更新した。投資資金が国内外から押し寄せ、市場はバブル期以来の活況を呈するが、足元の景気は改善せず、株高だけが際立ついびつな構造が続く。
 市場に流入した膨大な資金を、物価高騰に苦しむ暮らしの向上にどう反映させるか。国や経済界は真剣に取り組まねばならない。
 平均株価は22日午後、取引時間中の最高値を更新した後も上昇を続け、終値ベースでも最高値で取引を終えた。
 米半導体大手の好決算が、最高値目前で足踏みしていた株価を押し上げた形だが、大企業を中心に国内企業の収益改善が投資意欲を勢いづかせていることも要因だ。
 好調な株式市場の一方で、国内景気の現状は深刻だ。
 内閣府が公表した2023年10~12月期の国内総生産GDP)速報値は2四半期連続のマイナス成長を記録した。GDPは23年通年でもドル換算でドイツに抜かれて世界4位に転落した。
 景気不振の大きな要因は個人消費の低迷にある。政府が発表した2月の月例経済報告は景気判断を3カ月ぶりに下方修正し、個人消費について「持ち直しに足踏みがみられる」と指摘した。
 厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、23年の実質賃金は前年比2・5%減。賃上げが物価の上昇に追いついていない実態は数字的にも裏付けられている。
 日銀の大規模な金融緩和を背景とした円安は、物価高に拍車をかけて消費を低迷させる一方、輸出関連を中心とする大企業の経営には追い風となっている。好調な企業経営が暮らしの犠牲の上に成り立っているのなら、ゆがんだ構造を放置することは許されない。
 当面は、大幅な賃上げで不公平を解消していく以外に道はない。今年の春闘では、株高の中で経営が好転した企業は賃上げをためらってはならない。さらに大手企業には、取引先からの価格転嫁要請に積極的に応じ、雇用者の7割を占める中小企業の賃上げを後押しする責任もある。
 急激な株価変動で注意したいのは市場における投機的な動きだ。バブル経済の崩壊期にあったような投機の被害が暮らしに与える打撃は深刻だ。国や日銀は過去の教訓に学び、市場の動きを日々、厳しく監視すべきである。

 

エスタディ君。若いころにバブル期を謳歌(おうか)した作家…(2024年2月23日『東京新聞』-「筆洗」)

 イエスタディ君。若いころにバブル期を謳歌(おうか)した作家の甘糟りり子さんの周辺に当時、陰でそう呼ばれた男性がいた。東京・環八通り沿いに店があったレストランチェーンの名に由来する

▼親が営む中小企業に勤め、親に与えられたソアラで甘糟さん宅に迎えに来てドライブし、若者に人気のその店で総額1万円弱の食事をして会計の際「千円ね」と一部負担を求めてきた

▼ごちそうする「メッシー君」、運転手役「アッシー君」ら恋人未満の女性に尽くす男性が多い時代。デートが全額奢(おご)りでないことに衝撃を受けたという。同性の友に話すとやはり驚かれ本人に秘す形で冒頭のあだ名献上が決まる。著書『バブル、盆に返らず』に詳しい

 


▼奢りかどうかは別に、若者も消費を堪能したバブル時代。絶頂期の1989年暮れに記録した日経平均株価終値の史上最高値が昨日、更新された

▼人口が減る国内に頼らず、海外で稼ぐ会社が買われている。人々の財布の紐(ひも)は緩くなく、一昨日発表の政府の景気判断でも個人消費は力強さを欠くという。民の熱さが乏しい株高。燃料高などで苦しい中小企業は少なくない

▼甘糟さんはバブル時代に「今日より明日はより楽しい」と信じたという。昨日は顧みられぬだけに、その呼称が悲しいイエスタディ君。ソアラをくれた父から大きくない会社を継いだのなら今、何とかやっているだろうか。

 

株価最高値 なぜ国民は実感できないか(2024年2月23日/『山形新聞』-社説」/『山陰中央新報佐賀新聞』-「論説」)

 

日経平均株価終値が3万9098円68銭を付け、拍手する証券会社のスタッフら=22日午後、東京都千代田区

 東京株式市場の日経平均株価(225種)が、バブル経済期につけた史上最高値を上回った。好調な企業業績などが要因という。だが、株高の象徴する好景気を実感している国民がどれだけいるだろうか。生活感覚とかけ離れた株高は、企業優先の政策のゆがみを映していよう。その点を見過ごしてはならない。

 これまでの終値最高値は1989年末の3万8915円で、その後のバブル崩壊を機に株価は長らく低迷。日銀による2013年の大規模金融緩和などを弾みに上昇基調となり、22日に約34年ぶりに記録を更新した。

 今回の株高は複数の要因を指摘できる。まず新型コロナウイルス禍からの経済活動の正常化だ。

 昨年来、旅行や外食への支出が活発化。関連企業の業績が回復し、好感した買いが入った。今後の焦点は、コロナ自粛からの反動に当たる今の需要の持続性にあろう。

 次に円安だ。インフレ退治へ米欧が金融を引き締める一方で、日銀は緩和を続け、金利差拡大から足元では1ドル=150円近辺へ下落。自動車など輸出企業の利益が膨らみ、株価を押し上げた。ただ為替差益は一時的な面があり、企業の「稼ぐ力」の向上と必ずしも言えない点に注意したい。

 加えて円安でドル換算した株価が割安になり、海外投資家が日本株に手を伸ばしやすくなった点がある。東京証券取引所の働きかけにより企業が自社株買いや配当の株主還元を拡充した動きと相乗効果を生み、海外勢の積極的な買いを呼んだ。

 株売買の約6割は海外投資家が占め、保有は3割に達する。影響力は大きく、利益確保へ日本株を手放した際などには値下がりが予想される。海外投資家の動向に左右されやすい市場構造を忘れないようにすべきだ。

 ほかの株高要因としては、少額投資非課税制度(NISA)が刷新され個人投資家の資金が市場へ流入した点や、米国経済の堅調、半導体需要への期待が指摘される。しかし肝心なのは、経済活動の実体を伴っているかどうかであろう。

 景気の柱である個人消費を見れば不振は鮮明だ。実質国内総生産(GDP)の消費は、昨年10~12月期まで3四半期連続で前期比減。2%目標を超える物価高でも日銀が緩和をやめない影響などで、インフレに賃上げの追い付かない状態が続くのだから当然だ。GDP全体では景気後退に等しい2期連続減に沈んだ。

 この景気実体とちぐはぐな株高は、手じまいできない大規模緩和と円安をはじめ、多くの原因を政策のゆがみと企業の姿勢に求められよう。

 企業利益や株主還元が拡大してきた背景には法人税減税などの優遇策がある一方で、家計には消費税や社会保障の負担増、そして物価高騰と重荷ばかりがのしかかる。

 海外投資家などを恐れて企業が株主還元に前のめりな半面、賃上げには長年後ろ向きだった点も忘れてはならない。今春闘では従来以上の賃上げとして還元を求めたい。

 日銀は緩和策として大量の株を事実上買ってきたため、日本の株価は「げた」をはいているのが実態だ。市場の正常化へ動く機会は、株高の今を置いてほかにあるまい。

 株価高騰に反比例するように岸田政権の支持率は低迷する。政治資金問題だけでなく、国民生活の痛みへの無頓着が根底にあると知るべきだ。(共同通信・高橋潤)

 

株価史上最高値 長期低迷を抜け出せるか(2024年2月23日『新潟日報』-「社説」)

 日本経済は「失われた30年」から抜け出せるのか。史上最高値を付けた株価により企業は活力を強め、大幅な賃上げの実現につなげてもらいたい。

 平均株価はようやくバブル期を超えた。これから日本経済は持続的に成長していけるかどうか、真価が問われる。

 22日の東京株式市場は、日経平均株価終値ベースでバブル経済期の1989年12月29日を上回る3万9098円68銭となり、約34年ぶりに史上最高値を付けた。

 取引時間中にも一時、3万9156円97銭まで上がり、最高値を更新した。

 これまでの最高値は終値で3万8915円、取引時間中は3万8957円だった。

 この日の市場は、米半導体大手エヌビディアが好決算を発表したことを受け、ハイテク株を中心に幅広い銘柄が買われた。

 物価と賃金がともに上がる「経済の好循環」が訪れそうな兆しに株価が反応したと言える。

 ただ、株高の恩恵は一般市民など隅々に行き届いているとは言い難く、物価高による生活苦は長引いている。地方経済は疲弊し、能登半島地震の影響は大きい。

 日経平均は90年以降、下落基調に転じて低迷が長引いた。リーマン・ショック後の2009年3月には、終値としてバブル後最安値の7054円98銭を記録した。

 経営危機に直面した多くの企業が雇用や賃金を抑えた。消費が低迷し、モノの値段が下がり続けるデフレスパイラルに陥った。

 上昇基調を取り戻すきっかけは12年に始まった経済政策「アベノミクス」だった。13年に日銀が導入した大規模な金融緩和策も株価を支えた。

 今回の最高値更新の背景には、好調な企業業績がある。23年度の業績は過去最高水準の見通しだ。

 海外投資家が割安感のある日本株を評価しているとの見方がある。新たな少額投資非課税制度(NISA)で、市場に流入した投資マネーも株高を支えている。

 新型コロナウイルス禍後、企業の経済活動が回復し、外国為替の円安ドル高基調は輸出企業の業績を押し上げ、訪日客の増加はサービス業を支えた。

 ロシアのウクライナ侵攻後、原材料価格の高騰で企業は商品を値上げする一方、賃上げの動きも加速させている。

 好循環が実現する好機を迎えつつあるのではないか。デフレ脱却に近づいたとの受け止めが市場に広がっているのは確かだろう。

 今春闘は労使交渉の序盤で満額回答が相次ぎ、要求額を上回るケースも目立ってきた。こうした動きが中小・零細企業にまで広がるかが景気回復の鍵となる。

 強気相場の勢いに満足することなく、日本経済は実体を伴った成長を目指さねばならない。

 

【株価バブル超え】生活実感は厳しいままだ(2024年2月23日『高知新聞』-「社説」)

 長く低迷が続いた株価が大きな転機を迎えた。きのう日経平均株価バブル経済期に付けた史上最高値を約34年ぶりに更新した。
 東京市場はこのところ、好調な企業業績を背景に輸出関連株や半導体関連株などが株高をけん引。きのうも米半導体大手エヌビディアの好決算が発表され、ハイテク株の買い注文が一段と膨らんだ。
 市場には急激な株高進行に警戒感があるが、税優遇が厚くなった新しい少額投資非課税制度(NISA)が1月から始まり、個人の投資資金も拡大。先高観が続いているといってよい。
 しかし、いまの株高は素直に喜べない面がある。株価は本来、経済を映す鏡だが、足元の経済は弱く、国民生活に好景気感は乏しい。
 むしろ物価高などで生活実感は厳しいままといえるだろう。政府も経済界も株高に浮かれることなく、現実を冷静に見詰め、経済対策をさらに進める必要がある。
 日経平均株価の史上最高値はこれまで、取引時間中、終値ともに1989年12月29日に記録。それぞれ3万8957円44銭と3万8915円87銭だった。
 きのうはそれらをいずれも180円以上上回り、取引時間中に一時、3万9156円97銭、終値で3万9098円68銭を記録した。その勢いに「4万円に向けて緩やかな上昇が続く」と見通す専門家もいる。
 株価上昇自体は歓迎すべきことだろう。企業の時価総額が上がり、企業価値が高まる。その結果、資金調達もしやすくなり、人材も集まる。投資家も潤う。
 ただ、いまの社会情勢は明らかにバブル期と異なる。
 賃金の上昇が物価上昇に追いつかず、実質賃金は低下。国民の多くが生活費を切り詰めて生活しているのが実情だ。少子高齢化が進み、人手不足も深刻になっている。先行き不安は大きい。
 経済指標にもそれが表れている。内閣府が発表した2023年10~12月期の国内総生産(GDP)速報値は2四半期連続のマイナス成長だった。23年の年間名目GDPはドイツに抜かれ、世界4位に転落した。物価高が家計を圧迫し、個人消費の不振が続いているのが大きな原因の一つという。
 円安効果や物価高を価格転嫁できた企業は業績も好調だが、全般には物価上昇に見合うほどの賃上げが実現されてない。中小企業の中には、人手不足や原材料費高騰で、苦しい経営を強いられているところも少なくない。
 このままでは富める企業や人と、そうでない企業や人との格差が広がる一方だ。個人や中小企業の犠牲の上に成り立つ株高は長続きもしないだろう。
 鈴木俊一金融担当相は史上最高値更新を受け、「企業の稼ぐ力の強化や、物価高に負けない賃金の実現に取り組んで、生活実感の向上を図る」と強調した。地力のある経済の実現が求められる。