株価 史上最高額(2024年2月25日)

 生活向上につなげてこそ(2024年2月25日『毎日新聞』-「社説」)

 

史上最高値を更新し、一時3万9153円台となった日経平均株価を表示する電光掲示板=東京都中央区で2024年2月22日午後2時47分、北山夏帆撮影


 日経平均株価が初めて3万9000円を超えた。バブル期の1989年12月に記録した史上最高値を約34年ぶりに上回った。

 当時は不動産の売買で膨らんだ巨額のマネーが株式市場に流れ込み、企業や富裕層による投機的な取引が過熱した。

 間もなく不動産価格が急落すると状況が一変し、日本経済は「失われた30年」と呼ばれる長期低迷期に突入した。

 リーマン・ショックに伴う世界的な金融システム不安も重なり、2009年3月には株価が7000円割れ目前まで落ち込んだ。

 今回は様相が異なる。再浮上の原動力となったのは堅調な企業業績だ。円安の追い風もあり、上場企業の24年3月期決算は過去最高益を更新する見通しだ。

 日本経済の復活への期待から海外の投資資金の流入も加速している。不動産不況に苦しむ中国市場の低迷もあり、「日本買い」に拍車がかかっている。

 しかし、株式市場が最高値を更新したといっても、手放しで喜べる状況ではない。

 この30年で世界経済における日本の存在感は大きく低下している。昨年は名目国内総生産GDP)でドイツに抜かれ、世界4位に転落した。

 米国の代表的な株価指数であるダウ工業株30種平均は89年から10倍以上に伸びている。

 バブル期には企業の時価総額ランキングで、日本勢がトップ5を独占していた。だが、現在はGAFAと呼ばれる米IT大手などに大きく水をあけられている。

 好調な株式市場と市民の生活実感との乖離(かいり)が広がっていることも気がかりだ。

 長期化する物価高が家計を圧迫し個人消費は伸び悩んでいる。23年10~12月期の実質GDPは2四半期連続でマイナス成長となり、景気の停滞感が強まっている。

 市民が恩恵を実感できないような株高では、持続性に大きな疑問符がつく。

 企業は利益をため込むのではなく、設備投資や従業員の賃上げを通じて株高のメリットを還元する姿勢を打ち出すべきだ。

 産業界や政府に求められるのは経済の底上げを図り、国民の生活向上につなげる努力だ。

 

史上最高値の株価と3つの「み」(2024年2月25日『産経新聞』-「産経抄」)

最高値を更新した日経平均株価終値を示すボード=22日午後、東京都中央区(斉藤佳憲撮影)

筆が持ち重りして、手元の原稿が先に進まないことがある。そんな時にかぎって作家、野坂昭如さんのお説が頭の中で明滅を繰り返す。「コラムは3つの『み』で書く。妬(ねた)み、嫉(そね)み、僻(ひが)みだ」。むろん、まねできるわけではない。

▼むしろ、思案に時間を取られてしまう。大方の辞書には妬み、嫉みのどちらにも「うらやみ憎む」とあり、「嫉妬」の語もあるほど両者は近い。作家の真意はどこに。ついには僻み根性が顔を出し、お説の理解を妨げる。超凡の人が達した境地に凡俗がたどり着けるものか、と。

▼僻みついでに書くと、当方の社会人生活はバブル崩壊後の「失われた30年」とほぼ重なる。22日に巷間(こうかん)をにぎわした「東証 史上最高値」のニュースを翌朝の小欄で袖にしたのは、3つの「み」が強過ぎて、手指が職務を拒んだことも一因にある。

▼バブル期の平成元年に記録した株価の最高値と今回の最高値更新では、中身がかなり異なるという。いまの株価は企業の実力を反映しており、一過性に終わる心配は少ない―。そんな専門家の見解が示され、さらなる株高を予想する声も聞かれる。

▼家計が物価高の圧迫を受ける中、全ての人がお金を投資に回せるわけではない。理想は、物価高と賃上げが好循環を描き、個人消費が上向くことである。あらゆる層の人々が日々の暮らしで景気回復を実感できてこそ、妬み、嫉み、僻みに遭うことなく株高が喜ばれるのだろう。

▼低金利下の貯蓄から投資へと振り向け、お金に働いてもらう―。「長期・積立・分散」とともに、最近よく耳にする考え方である。実体以上に膨らむ泡とも、濡(ぬ)れた手でつかむ粟(あわ)とも縁遠いらしい。3つの「み」に縛られたわが手指に、いま猛省を促している。

株価最高値更新/所得増につなげなくては(2024年2月25日『神戸新聞』-「社説」)

 日本経済は「失われた30年」を克服したと言えるのか。

 東京株式市場の日経平均株価は22日、一時3万9156円97銭を付け、1989年12月29日の記録を200円近く上回る史上最高値となった。

 前回のピーク時はバブル経済の渦中だった。その後、バブル崩壊とともに日本経済は長期の混迷に陥った。

 景気回復による企業収益の改善を見越して投資家の資金が流れ込んだ結果だが、前回のピーク時と異なり、社会全体に好景気の実感は乏しい。実質賃金は下落が続き、雇用が不安定な非正規労働のウエイトが高まっている。財政赤字の拡大や社会保障負担の増大など、先行き不安も尽きない。


 株価上昇を持続させるには、所得の増加で国内消費を拡大させ景気を下支えすることが不可欠だ。その点を、政府と企業経営者は十分認識するべきだ。

 今回の株高は、景気回復への期待とともに、日銀の金融緩和がもたらした円安が影を落とす。輸出企業を中心に見かけの収益は大きく改善したほか、外貨に換算すれば日本の株価が割安になったため外国人投資家の資金も流れ込んでいる。

 今年に入ってわずか1カ月で株価は5千円も値上がりした。米国の株価の堅調さも相まって、市場では4万円の大台を突破するとの強気の見方も出ている。予想される企業収益の伸びと株価の上昇カーブがあまりにかけ離れれば、かつてのバブルの二の舞いになりかねない点は認識しておきたい。


 注視すべきは、物価高や円安の行き過ぎを考慮して、日銀が金融緩和の修正をにおわせ始めた点だ。市場に流れ込む資金が減少するだけでなく、円安基調が修正されれば企業収益にも影響する。そこで株価が大きく下がれば、日本経済の基礎体力にまだまだ市場が厳しい目を向けていると言える。

 企業は目先の株価に一喜一憂せず、足腰の強化に努めて着実に賃上げを実施するとともに、事業変革に力を注ぐべきだ。株高にあぐらをかいて政府が財政再建行政改革の手を緩めることが、日本経済の将来に対する投資家の期待を裏切ることも、忘れてはならない。

 

東証史上最高値 国民全体が潤わなければ(2024年2月25日『中国新聞』-「社説」)

 東京株式市場の日経平均株価が22日、34年ぶりに史上最高値を更新した。バブル期以来、低迷を続けてきた日本経済がようやく大きな壁を乗り越えたことは感慨深い。 日本企業の業績は改善していたのに株価は世界で見れば割安のまま放置されていた。それが世界的な好況で見直され、海外投資家が積極的に買いを入れているようだ。 ただ、今回の株高に熱気があまり感じられないのはなぜだろう。投資のお金が流入して市場こそ活況だが、足元の景気はむしろ後退気味なのは特に気にかかる。 株高は本来は賃上げや購買力の向上につながるもののはずだ。国民は物価高騰に苦しんでいる。投資でもうけた人だけでなく、恩恵が国民全体に行き渡るような経済の底上げにつながってほしい。 株高をもたらしたのは、アベノミクス以来の大規模緩和策とそれに伴う円安である。世界は金融引き締めを行っているのに、ひとり日本銀行だけがお金をじゃぶじゃぶと市場に流し続けている。 その結果である歴史的円安で日本製品は売れている。海外からはバーゲンセールに映るのだろう。輸出型企業を中心に好業績が相次ぎ、株価が上昇するのも当然と思える。 同様に最高値を更新し続ける米国株より、むしろ外国人投資家の注目を集めている。たとえ株価が下がっても、為替が円高になれば利益を確保できると見込めるからだ。 「日本の株価はさらに上昇する」と分析するエコノミストが多いのもうなずける。ならば株高の恩恵を、企業は賃上げや設備投資にきちんと振り向けてもらいたい。 法人税率はバブル期より大きく下がり、企業収益はバブル期よりはるかに多くなっている。にもかかわらず、社員の給料はほとんど上がってこなかった。このことが「失われた30年」をもたらしたことを忘れてはなるまい。 人への投資を抑え、モノを安く売るコストカットの手法が日本経済をこれほどまでに低迷させてしまった。人や設備への投資を進め、より付加価値、収益性の高い経営が企業には求められている。 株価と好業績がそろった今春闘で、物価高を大幅に上回るような賃上げがマストと言える。その点では経済界も労働界も一致している。 岸田文雄首相は就任当初、アベノミクスで拡大した格差の是正を訴えていた。投資と無縁な年金生活者や子育て世帯にも株高の恩恵がなければ、首相の言う「分配」など絵空事ということになろう。 これまでの株価最高値だった1989年、世界の時価総額トップ10社に日本企業7社が入っていた。今はトヨタ自動車が24位にとどまるだけ。株高をけん引する半導体業界も当時、日本企業が世界シェアの半分を握っていたが、今は数%と見る影もない。 多くの国民は新しい少額投資非課税制度(NISA)の投資先に、日本株でなく外国株を選んでいるのが現実だ。日本企業がどんな成長につなげるのか。株高をただ喜んでいるわけにはいかない。

 

「バブル」で終わらせないために(2024年2月25日『琉球新報』-「金口木舌」)

 「バブル」の本来の意味は「泡」だが、実体がない見せかけの事象を表現する際にも使う。かつて日本は、不動産や株などの価格が実体からかけ離れて高騰する「バブル期」を経験した

▼22日の日経平均株価はバブル期の水準を上回り史上最高値を付けた。景気のいい話だが、庶民の実感は薄い。物価は上がり続けて生活は厳しいままだ。現在の株価上昇が実体のあるものか疑いたくなる
▼県内では県産ヤギの競り価格が高騰して「ヒージャーバブル」と言われる。ヤギ汁を振る舞う機会が増え需要が拡大したようだ。価格上昇は農家にとって追い風となる一方で、ヤギ料理店は仕入価格の上昇に頭を抱える
▼ヤギ肉は古くから県民に親しまれ、沖縄の伝統食材の一つとなった。農家の経営基盤強化で安定供給ができれば、県民も観光客も笑顔でヤギ料理を楽しめる
▼県産ヤギ価格の高騰が単なる「バブル」で終わってほしくない。泡となって消えてしまわないように行政の後押しも必要だ。沖縄のヤギ料理のさらなる発展に期待を膨らませている。