株価(2024年2月28日)

株価の高値に思う(2024年2月28日『佐賀新聞』-「有明抄」

 大学卒業を3カ月後に控えた1986年12月、1学年上の先輩に偶然出会った。大手証券会社に就職したその先輩は、入社1年目の冬のボーナスで100万円をもらったという

◆株の話にもなった。「買うべき」と言われたのは、その前年に日本電信電話公社から民営化したNTT株。87年2月に上場し、160万円の初値がついた

◆当時は「バブル期」。銀行の貸出金利が大幅に引き下げられ、資金を借りやすくなった企業が本業以外の金もうけに走った。その材料になったのが土地と株。NTT株が財テクブームに火をつけた格好だった。日経平均株価は89年12月末、3万8915円を記録した

◆この史上最高値を今月22日、約34年ぶりに更新した。日経平均株価はきのう3万9239円となり、最高値を再び更新した。今は金融機関にお金を預けても利息は少ない。少額投資非課税制度(NISA)など「運用に回した方がいい」という声をよく聞く。稼ぐ手段ではなく、長い目で企業を応援する。そんな視点でお金を回す賢い消費者が増えた気がする

◆ところで、冒頭のNTT株購入は「100万円用意できるなら」の条件つきだった。買えるはずもない。その後も結局、バブルの恩恵を感じることはなかった。でも、地に足をつけて進む方がいい。絶対にもうかる株の話など、まずない。(義)

 

株価最高値(2024年2月28日『宮崎日日新聞』-「社説」)


◆企業優先のゆがみ映し出す◆

 東京株式市場の日経平均株価(225種)が、バブル経済期につけた史上最高値を上回った。これまでの終値最高値は1989年末の3万8915円だったが、22日に約34年ぶりに記録を更新した。

 株高の象徴する好景気を実感している国民がどれだけいるだろうか。生活感覚とかけ離れた株高は、企業優先の政策のゆがみを映している。

 今回は複数の要因を指摘できる。まず新型コロナウイルス禍からの経済活動の正常化だ。

 次に円安だ。インフレ退治へ米欧が金融を引き締める一方、日銀は緩和を続け、金利差拡大から足元では1ドル=150円近辺へ下落。自動車など輸出企業の利益が膨らみ、株価を押し上げた。ただ為替差益は一時的な面があり、企業の「稼ぐ力」の向上とは必ずしも言えない。

 加えて円安でドル換算した株価が割安になり、海外投資家が日本株に手を伸ばしやすくなった点がある。企業が自社株買いや配当の株主還元を拡充した動きと相乗効果を生み、海外勢の積極的な買いを呼んだ。

 株売買の約6割は海外投資家が占め、保有は3割に達する。影響力は大きく、利益確保へ日本株を手放した際などには値下がりが予想される。海外投資家の動向に左右されやすい市場構造を忘れないようにすべきだ。

 ほかの株高要因としては、少額投資非課税制度(NISA)が刷新され個人投資家の資金が市場へ流入した点や、米国経済の堅調、半導体需要への期待が指摘される。しかし肝心なのは、経済活動の実態を伴っているかどうかであろう。

 景気の柱である個人消費を見れば不振は鮮明だ。実質国内総生産(GDP)の消費は、昨年10~12月期まで3四半期連続で前期比減。2%目標を超える物価高でも日銀が緩和をやめない影響などで、インフレに賃上げの追い付かない状態が続くのだから当然だ。GDP全体では2期連続減に沈んだ。こうした景気実体とちぐはぐな株高は、手じまいできない大規模緩和と円安をはじめとする政策のゆがみ、企業姿勢に求められる。

 企業利益や株主還元が拡大してきた背景には法人税減税などの優遇策がある一方で、家計には消費税や社会保障の負担増、そして物価高騰と重荷ばかりがのしかかる。海外投資家などを恐れて企業が株主還元に前のめりな半面、賃上げには長年後ろ向きだった点も忘れてはならない。今春闘では従来以上の賃上げとして還元を求めたい。

 株価高騰に反比例するように岸田政権の支持率は低迷する。政治資金問題だけでなく、国民生活の痛みへの無頓着が根底にあると知るべきだ。

 

株価最高値(2024年2月28日『しんぶん赤旗』-「主張」)

金融頼みのゆがみ正してこそ

 日経平均株価終値が3営業日連続で史上最高値を更新しました。株価がバブル期の最高値を超える一方、生活の悪化や経済成長の停滞が深刻です。実質賃金は21カ月連続で低下し、ピーク時の1996年から年収にして74万円減っています。2023年の名目GDP(国内総生産)は世界3位から4位に落ち込みました。経済成長が止まったもとで株価が上がり、大企業・富裕層と国民の格差が広がる、いびつな姿です。「失われた30年」といわれる長期停滞は、暮らしを中心とした実体経済の回復で打ち破らなければなりません。

公的マネーでつり上げ

 株価はこの10年余で4倍近くに値上がりしました。“主役”は安倍晋三政権が始めた公的マネーの投入です。政府と日銀が主導して、禁じ手まで使って株価をつり上げました。

 大企業の株式で構成する、株式上場投資信託ETF)を日銀が大量に購入し、株価を押し上げました。中央銀行が株式市場に資金を投じるのは異例の政策です。安倍政権は、公的年金積立金の株式運用を2倍に増やしました。

 「異次元」と言われる大規模な金融緩和は、金融市場に大量のマネーを供給し、円安を加速させました。ドルで評価した日本株は割安となり、大量の投機マネーが海外から日本市場に流れ込みました。特に今年1月以来、外国の投資家が日本株買いを急激に増やしています。海外主導の株高です。

 その一方、円安は、エネルギーや食料をはじめ輸入物価を上昇させ、物価高騰が国民の暮らしや中小企業の営業を直撃しました。株式投資の資金を持たない庶民には株高の恩恵がありません。

 「コストカット型」経済も株価上昇の要因です。大企業は、売り上げが伸びなくても利益を増やせる経営を強化してきました。30年間で大企業の売り上げは16%しか増えていませんが、税引き後の最終利益は11倍です。正社員を非正規雇用の労働者に置き換え、人件費を削ったことが、金融市場で収益力の向上とみなされ、株価の上昇につながりました。

 株主への配当が増える一方、賃上げは抑えられてきました。

 大企業の内部留保はこの10年間で180兆円膨らみ、510兆円を超えました。日本のGDPに近づくほどの巨額なため込みです。

 岸田文雄首相は、株価つり上げ政策をさらに進めています。就任前に掲げていた「金融所得課税の強化」を、首相になったとたんに投げ捨て、「資産運用立国」の旗を振っています。個人の預貯金を金融投資に動員する政策です。

賃上げと格差の是正を

 政治に求められている役割は金融頼みの政策ではありません。GDPの5割超を占める個人消費を活発にし、内需を増やすことです。大企業の内部留保に課税し、それを財源に中小企業を支援することをはじめ、政治が賃上げに責任を果たす必要があります。

 株価の上昇で巨額のもうけをあげている富裕層に応分の負担を求め、格差を是正することも政治の重要な役割です。株取引で得た所得への課税は、欧米諸国と比べて軽く抑えられています。株式譲渡所得にかかる税率を、高額所得者には欧米並みに30%以上に引き上げるなど、大資産家優遇を正す改革が求められます。