「すぐに番組を中止してほしい…(2024年2月23日『毎日新聞』-「余録」)

帝劇「生きて行く私」で宇野千代を演じる山本陽子さん=1984年10月撮影拡大
帝劇「生きて行く私」で宇野千代を演じる山本陽子さん=1984年10月撮影
井上靖の銅像前で記念撮影に応じる長男修一さん(銅像の右)ら親族と、女優の山本陽子さん(右端)。山本さんは井上さんの自伝的小説「しろばんば」を原作にしたテレビドラマにも出演した=静岡県長泉町東野で2023年11月25日午前10時17分、石川宏撮影拡大
井上靖銅像前で記念撮影に応じる長男修一さん(銅像の右)ら親族と、女優の山本陽子さん(右端)。山本さんは井上さんの自伝的小説「しろばんば」を原作にしたテレビドラマにも出演した=静岡県長泉町東野で2023年11月25日午前10時17分、石川宏撮影

 「すぐに番組を中止してほしい。わが家も同じ問題を抱えている」「姑(しゅうとめ)なんてあんななまやさしいものじゃない」「あの嫁ならまだいいほうだ」。NHKにハガキが殺到したという。1976年に放送された「となりの芝生」である

橋田寿賀子さんの書き下ろし脚本。郊外にローンでマイホームを建てたサラリーマン家庭に夫の母が転がり込む。姑役の沢村貞子さんと嫁の山本陽子さんの迫真のバトルが社会的にも大きな反響を呼んだ

▲81歳で亡くなった山本さん。約60年前に証券会社社員から芸能界入りして以来、テレビドラマの常連だった。和服が似合うイメージが強いのはギネス記録になるほど長く続いたノリのCMの影響もあるだろう

▲横領金で銀座にクラブを開く「黒革の手帖」のヒロイン。現代版必殺仕事人「ザ・ハングマン」のパピヨン。嫁をいびる姑役も演じた。世代によって記憶に残っている作品は異なるかもしれない

▲株価が89年12月末のバブル経済期につけた史上最高値を上回った。当時、住宅ローンを借りた人がようやく返済を終えるだけの時間が経過したわけだ。翌90年のNHKの朝ドラ「京、ふたり」でヒロインの一人を務めたのが山本さんだった

▲「降る雪や明治は遠くなりにけり」(中村草田男)。有名な俳句は大正を経て昭和初期の感慨を詠んだという。89年といえば平成が始まり、冷戦も終わった激動の年。あの頃、いつもテレビで見かけた山本さんが旅立った。まさに「昭和は遠くなりにけり」である。