株価の史上最高値(2024年2月27日)

株価の史上最高値/リスク見据え体力強化図れ(2024年2月27日『福島民友新聞』-「社説」)

 東京株式市場の日経平均株価(225種)が3万9千円を超え、バブル経済期だった1989年12月の水準を上回り、史上最高値を付けた。

 外国為替市場の円安ドル高基調が輸出企業の業績を押し上げ、株価が上昇している。市場ではデフレ脱却に近づいたとの受け止めが広がり、海外投資家の日本株買いも堅調に推移している。米株価が上昇していることの影響や、中国経済の停滞から投資が日本に流れているとの見方がある。

 日経平均株価が停滞していた30年超の間に、米ダウ平均株価は約13倍となっており、最高値更新をもって日本経済が回復したとは言い難い。ただ、市場関係者からは「失われた30年の象徴的な数字を超えた意義は大きい」との声も聞かれる。市場心理の改善は好材料だ。引き続き、海外からの投資を呼び込み、経済の再生につなげていくことが重要だ。

 今後の焦点となるのは、低調な内需をどう拡大させるかだろう。国内は物価高が続いており、日銀は日本経済がインフレ状態にあるとの認識を示している。物価高に対応して賃上げによって消費を促していく必要がある。

 バブル期の好況と異なり、今回の株価は国民の実感を伴っておらず、消費を促す力は弱い。春闘で大手企業の賃上げ回答が目立っているものの、その動きが中小企業にまで広がらなければ、消費の押し上げは期待できまい。

 賃上げの動向は、海外投資家が投資を判断する際にも重要な要素の一つだ。政府と経済界は、日本の経済が成長軌道に乗りつつあることを海外に対して印象づける上でも賃上げを着実に進めていくことが求められる。

 海外に目を向ければ、11月の米大統領選が今後の世界経済の大きなリスクとなる可能性がある。トランプ前大統領が返り咲くことにより、世界経済が大きく混乱するとの見方もある。米経済が混乱することによって、日本の株価が再び停滞、下落に転じるのを避けなければならない。

 新型コロナウイルス禍の収束などにより、国内企業の業績は好調だ。この利益を設備投資に充てるなどして体力を強化し、世界経済がリスクに直面した際にも安全な投機先として選ばれる企業、市場にしていくべきだ。

 現在の株価の伸びは米市場と同様、今後さらに成長が見込まれる半導体関連企業への買いが支えている。国の投資誘導策を活用するなどして、半導体関連を含めた成長産業を育てることも急務だ。

 

株価が最高値 失われた30年に終止符を(2024年2月27日『西日本新聞』-「社説」)

 東京株式市場で日経平均株価が最高値を更新した。バブル期の1989年12月に記録した3万8915円を約34年ぶりに上回った。

 日経平均は225銘柄の株価を平均した株価指数で、その値動きは日本経済の現況を反映する。バブル期の水準を超えた意味は大きい。「失われた30年」の停滞と決別し、経済の好循環に向けてスタートする節目としたい。

 株価が上昇したのは堅調な企業業績に歴史的な円安、日銀による大規模金融緩和などが重なったためである。

 2023年度の上場企業の純利益合計は過去最高水準で推移している。円安で輸出企業の業績は上振れし、割安になった日本の株式市場に海外の投資マネーが流入した。中国経済の低迷で、日本への資金流入が加速した面もある。

 金融緩和の影響も大きい。日銀は上場投資信託を大量に買い入れ、株価を下支えしてきた。日銀の保有額は60兆円を超え、公的年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人とともに、多くの国内企業の「大株主」になっている。

 東京証券取引所は昨年春、上場企業に「資本コストや株価を意識した経営」を要請した。配当を増やしたり、自社株買いをしたりして、株主還元を強化する動きが強まったのも株高の要因だろう。

 とはいえ、株高を手放しで喜べる状況ではない。

 株高の恩恵は資産家など一部に限られる。「資産運用立国」を掲げる政府は少額投資非課税制度(NISA)を拡充したが、株高によって資産格差が広がる懸念もある。

 株高をばねに国民生活に広く恩恵をもたらす経済成長を実現するには、企業が好業績を維持し、大幅な賃上げを重ねるしかない。

 バブル崩壊後、企業は人件費や設備投資を削って利益を出し、株主に還元してきた。今後は株主重視に偏らず、従業員や取引先、地域社会など利害関係者全体に目配りする経営への転換を求めたい。

 日本の平均賃金は30年間、ほぼ横ばいで推移する。韓国に抜かれ、経済協力開発機構OECD)の加盟国でも下位に位置する。

 賃金が増えなければ、国内総生産GDP)の過半を占める個人消費は増えない。人件費の抑制が日本経済の長期低迷を招いたのは明らかだ。韓国より低い最低賃金も大幅な引き上げを急がなくてはならない。

 23年10~12月期の実質GDPは2四半期連続のマイナス成長となった。個人消費は3四半期連続で落ち込んだ。実質賃金が目減りし、物価高に苦しむ庶民には資産を運用して「株高」を実感する余裕はない。

 急上昇した株価の先行きは不透明だ。日銀が3月か4月にも金融政策の正常化に踏み切る可能性がある。為替相場や株式市場への影響を注視する必要がある。