株価の上昇(2024年3月5日『新潟日報』-「日報抄」)
住宅ローンに教育ローンと歯を食いしばって借金を返す、わが身にとって投資は縁遠い。きのうは日経平均株価がとうとう4万円の大台を超えたが、わずかな恩恵も感じられない
▼年明け1月4日の大発会の終値は3万3288円29銭だった。前年末の終値から175円88銭の値下がりでスタートした。翌日の本紙は「一時700円超安 波乱の幕開け 地震の影響を懸念」と見出しを掲げた
▼元日に能登半島地震が発生し、売り注文が優勢だった。とはいえ3連休明けの9日には早くも大幅に続伸し、バブル経済期に迫る高値をつけた。地震の影響を懸念する向きは雲散霧消したかのようだった
▼その後も株価の上昇は続いてきた。投資家と日本経済にとっては喜ばしいことかもしれないが、地方で暮らす立場としては、どこか寂しさも感じてしまう。「人口減少が深刻な地方で大きな災害が起きているのに、日本経済への影響は微々たるものなのかな」。そんな思いが頭をよぎる
▼地震の発生から2カ月、株価と被災地の状況はあまりに対照的だ。能登半島はもちろん本県でも、生活再建の見通しすら立てられない被災者は多い。地震の影響に苦しむ事業所も目立つ。株式市場の好調は遠い世界の話としか思えない人も多いはずだ
▼社会の分断の深まりが指摘されるようになって久しい。中央と地方、正規と非正規、富裕層と貧困層…。株価の勢いが経済を活性化させ、広く等しく底上げすることを願う。バブルのようにはじけないことも。
【株価4万円超え】暮らしに反映させてこそ(2024年3月5日『高知新聞』-「社説」)
株価の大台突破に市場は沸く。低迷期からの脱出は喜ばしいが、生活実感はそうした熱気からほど遠い。このずれを解消し、暮らしを上向けられるかが試される。
日経平均株価が初めて4万円を超え、終値も大台を維持した。1週間余り前に、取引期間中と終値の最高値を約34年ぶりに更新した上昇の勢いが持続している。
相場をけん引したのは生成人工知能(AI)の将来需要を見込んだ半導体関連株の値上がりだ。ニューヨーク市場での上昇を引き継いだ。
ハイテク株が強い一方で、きのうは多くの業種に値下がりが及んだ。ただ、企業業績は堅調だ。新型コロナウイルス禍の低迷から人出や物流が回復し、その後押しで最高益の更新予想が増える。円安ドル高基調で輸出関連企業の業績が伸びる。
中国経済の減速と先行き不透明感から、外国人投資家の日本株の評価の見直しが進んでいるようだ。賃上げ動向を見据えた物価上昇との好循環への期待が漂う。
こうした動きとは対照的に、国民生活に好況感は乏しい。直近の国内総生産(GDP)は、市場のプラス予想に反して2期連続となるマイナス成長だった。内需が盛り上がりを欠いている。個人消費は落ち込み、設備投資も資材価格の高騰や人手不足が響いて伸びない。
物価高から衣料や外食を切り詰め、教育費を圧縮する動きも出ている。大企業を中心に大幅な賃上げがあったものの物価上昇には追いつかず、物価変動を考慮した実質賃金はマイナスが続いた。
物価が上がって収入が増えない状況は、将来への不安を高める。株価の最高値更新に、実体経済とかけ離れていると冷ややかな声も上がる。暮らしに好影響がなければ格差が拡大するばかりで、高揚感を得られるはずはない。
今春闘も高水準の賃上げを打ち出す企業が相次いでいる。その継続が好循環の実現と持続に欠かせない。こうした動きを中小、零細企業に波及できるかが焦点となる。
日銀はデフレ脱却を目指して大規模な金融緩和策を続けている。好循環が見通せるようになれば、金融政策の正常化を検討するとしている。現状について植田和男総裁は、デフレではなくインフレの状態との認識を示した。
マイナス金利の解除にいつ踏み切るか注目される。緩和策は円安につながり、企業収益を膨らませて経済を支えた。一方では輸入物価を押し上げて暮らしを直撃した。正常化への取り組みは新たな刺激を伴う。金融市場の混乱も想定され、そうした事態を招かないよう対話の重要性が増している。
日本は名目GDPが2023年に世界4位に転落し、今後も下落すると予測されている。順位自体が豊かさと直結するわけではないが、人口が減少する中で活力の維持は困難を増す。生産性の向上や出生率の改善など課題がのしかかる。実効ある施策が求められる。