株価最高値更新 生活向上の実感乏しい(2024年2月28日『秋田魁新報』-「社説」)

 東京株式市場の日経平均株価が、バブル期につけた史上最高値を約34年ぶりに更新した。ただ足元では景気の柱である消費の不振が続いており、株価が日本経済の実態を反映しているかは定かではない。経済成長が確かなものとなり、生活が上向いたと国民が実感できるかどうかが問われる。

 平均株価は1989年12月29日に終値3万8915円をつけた後に下落基調に転じ、リーマン・ショック後の2009年3月10日にはバブル後最安値となる7054円まで落ち込んだ。13年に日銀が導入した大規模な金融緩和策などで上昇基調を取り戻した。

 現在の株高には複数の要因が指摘される。米国株の上昇、円安ドル高基調を受けた輸出企業の好調な業績、新型コロナウイルス禍後の経済活動の回復、中国の景気減速を受けた投資マネーの流入などだ。割安感から株売買の約6割を海外投資家が占める。

 年内には4万2千円へ上昇するとの強気の見方もある。だが国民が生活の向上を実感できる状況には程遠いのが実情だ。投資をしている人以外は株高の恩恵を直接受けにくい上、ここ数年は物価高が家計を直撃している。

 賃上げの動きもあるが、物価高の影響を差し引いた実質賃金はマイナスが続く。実質国内総生産個人消費は昨年10~12月期まで3四半期連続で前期比減。切り詰めながらやりくりしている家庭は多いはずだ。

 東証上場の主要企業の純利益合計額は過去最高となる見通しの一方、国内労働者の7割が勤務する中小企業では原材料費などの高騰で経営を圧迫されているところが少なくない。コストの上昇分を価格に十分転嫁できず、経営が行き詰まる例もある。人手不足も深刻だ。

 中小企業が多い地方は疲弊したままだ。株式市場が活況を呈していても、こうした地方の状況が改善されないうちは日本経済の足腰が強くなったとは言えないだろう。

 賃金と物価がそろって上がり、消費も増える経済の好循環の実現に向けては物価高に負けない賃上げが不可欠。まず、賃上げに長年後ろ向きだった企業が変わることだ。

 今春闘では大手企業の経営者から高水準の賃上げを実施するとの発信が相次いでいる。好調な業績や株高の恩恵をしっかりと賃金に振り向けてほしい。政府は中小企業が適切に価格転嫁できる環境を整え、賃上げの流れを隅々に行き渡らせなければならない。

 株高とはいえバブル期のような高揚感はない。賃上げが一部にとどまれば、日本経済の好循環に期待している投資家の間に失望が広がるとの指摘もある。政府には持続的な賃上げを促す取り組みに力を注ぐとともに、企業の生産性向上を後押ししていくことが求められる。