「中村、9番にお電話です」-。最近、見たテレビCMに思わず…(2024年2月21日『東京新聞』-「筆洗」)

 「中村、9番にお電話です」-。最近、見たテレビCMに思わず笑う。主人公は新入社員の「森君」

▼先輩から「社外の人には(自分の)上司の名は呼び捨てでいい」と教えられたようだが、どう勘違いしたのか、社外からの電話を上司に取り次ぐ場合も呼び捨てと思い込んだらしい。森君から「中村」と呼ばれた部長の表情がおかしい

▼「森君」だけではなく間違える人が出てくるかもしれない呼び方の変更である。法務省は4月以降、刑務所などで受刑者の呼び捨てをやめて、「さん付け」にする方針を明らかにした

▼名古屋刑務所で刑務官が受刑者に暴行を繰り返していた事件を踏まえた対応という。受刑者に「さん」を付けることで刑務官の人権意識を高める狙いがあるという

▼これまで受刑者が刑務官を先生と呼ぶこともあったが、これも見直し、「さん」とする。受刑者も刑務官も同じ○○さん。犯罪ドラマを見慣れた身には違和感がないではないが、「さん付け」で刑務官に受刑者を同じ人として向き合う気持ちが強くなれば手荒なこともできまい。なによりも刑務官と受刑者の間の根っこにある対立感情が少しでも和らげば良い

▼受刑者の増長のようなものを心配する向きもあろうが、刑務所の目的が差別や復讐(ふくしゅう)ではなく更生にある以上、侮蔑的な呼び捨ては遠回りな気もする。「さん」の挑戦を期待を込めて見守る。

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受刑者が「さん」付け運用に抱いた違和感 「お前」よりはマシだけど… 刑務官は「立場が逆転する」と懸念(2024年2月19日)

刑者を「さん付け」 名古屋刑務所暴行問題の再発防止に向け4月から開始 法務省(2024年2月16日)

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三輪記子氏 受刑者の「さん」付けを評価「悪いことをした人でも尊厳はゼロにならない」(2024年2月16日)