年始を揺るがせた羽田空港の航空機衝突事故。欠かせないのが原因究明と再発防止策だ。国は既に緊急対策を示しているが、現場には異論もくすぶる。航空機事故に限らず、人間のミスから何を学ぶか、教訓を得る道はいつも険しい。では、再発防止策はどう議論すべきか。そのあり方を探った。(木原育子)
今月8日、日本記者クラブ(東京都千代田区)。航空業務に就く人らでつくる「航空安全推進連絡会議」(JFAS)議長でパイロットの永井丈道さん、事務局次長の牛草祐二さん、管制官で副議長の石井直人さんが厳しい表情を見せた。永井さんは「目指すのは航空の安全」、牛草さんは「全員参加型の再発防止策につなげていかなければ」と訴えた。
なぜ会見を開いたのか。それは事故の1週間後に国土交通省が緊急対策を発表したが、現場の意識と乖離(かいり)があるからだという。
今回は管制官が事故機に対し、出発順で最優先を示す「ナンバー1(ワン)」と伝えた。国交省は離陸許可と誤解されるのを恐れ、この運用を当面取りやめる対策を示した。ただ牛草さんは「ナンバー1」という情報が「状況認識に極めて有効」「パイロットからは高い支持がある」と話す。
◆「常時監視より適切な人員配置が必要」
誤進入監視機能の常時監視も求められたが、石井さんは「エラーが起きやすいのは混雑時に限らず、緊張感が少し和らぐスローな時にも起きる」と訴え「常時監視より適切な人員配置が必要では」と独自の再発防止策を唱えた。
それだけではない。日本も加盟する国際民間航空機関(ICAO)は、最新機器を活用して空港安全を管理する次世代型の「A―SMGCS」(先進型地上走行誘導管制システム)の導入を促すが、混雑空港を抱える国で導入していないのは日本だけだ。
浮き彫りになるのは、立場によって見方が変わるという点だが、再発防止の議論の難しさは他にもある。課題を浮かび上がらせるのは医療事故の例がそうだ。
◆医療事故でも隠される「不都合な真実」
医療事故調査制度は医療法に基づき、「予期せぬ死亡」が起きた時、まず院内調査の報告書をまとめ、結果に遺族が納得いかなければ、第三者機関にさらに調査を依頼できる。
当事者やその家族らでつくる「医療過誤原告の会」の宮脇正和会長は「原因を正確につかむには、医療者や被害者ら多くの当事者から話を聞く必要がある」と前置きしつつ「医療事故調査は病院管理者や顧問弁護士が中心。不都合な真実には目をつぶる」とし「再発防止策はおろか、真実は隠されたままだ」と訴える。
調査の担い手に課題があるからか、制度の利用は滞り、2014年の法改正後、申請数は年間400件未満と低迷。制度前に試算した1300~2000件との差は大きい。
では、再発防止策は誰がどう議論すべきか。
◆内部調査か第三者機関かの択一でなく
日本大危機管理学部の福田充教授は「内部調査だからこそできることもできないこともあるし、第三者調査が全ていいわけでもない」とし、答えを導く難しさを口にする。「内部か第三者かの二者択一ではなく、それぞれの良さを出し合ったより良い調査のあり方を探求しなければならない」
再発防止に向けた探求は重い意味を持つ。「ガバナンスや危機管理の近代化をすれば、コストカットにつながり、危機自体も減る。社会利益を求める方向になる。皆で乗り越えなければならない」