小室圭さんの母の借金がきっかけ
「彼は能吏(能力の優れた役人)ですが、情報公開には消極的な印象です。今このポストに求められている人材なのかどうかは、疑問があります」
夫妻が引っ越すとされる2億円豪邸 皇室警備の指揮を執る、警察庁警備局OBがこう語るのは、宮内庁の吉田尚正皇嗣職大夫。皇室のアドバイザー役である宮内庁御用掛から、2月1日付で新しい大夫に就任した人物である。
吉田氏は第94代警視総監まで務めた元警察キャリア。警察庁では刑事局捜査一課長と警備局警備企画課長を歴任し、刑事と警備、両部門のエースと謳われた。吉田氏の何が疑問なのか。その理由を紐解く。
皇嗣職大夫(こうししょくだいぶ)は、秋篠宮さまとご一家を支える皇嗣職のトップ。以前は皇太子を意味する「東宮」を支える東宮職のトップだった、東宮大夫に相当するポストだ。
天皇陛下に男児がおらず皇太子がいないことから、お代替わりに伴って秋篠宮さまが皇嗣となられたため新たにできたポジションである。秋篠宮さまは「兄(天皇陛下)が80歳のとき、私は70代半ば。それからは(即位)できません」と述べられたと伝わるが、皇位継承順位第1位であることは間違いなく、その最側近として「吉田氏は申し分無い力量の持ち主ではある」(同OB)とされる。
吉田氏は現在63歳。東大卒で1983年に警察庁入りし、警視庁刑事部長や警察庁刑事局長、警視総監を歴任して 2022年7月から御用掛を担っていた。
前任の皇嗣職大夫・加地隆治氏の退官を受けて、当面は今秋に成年を迎えられる長男・悠仁さまの進学や成年式、成年皇族としてのご公務と学業の両立などに対応する。一方で大夫にはもう1つ大きな課題が待ち受けている。宮内庁関係者が語る。 「新しい大夫には秋篠宮家の情報発信という宿題が待ち構えています。これが結構な難題なんです」
ここで言う情報発信とは、SNSなどを使った英国王室並みの“開かれた皇室”の実現を意味する。 「秋篠宮家にとって長女の小室眞子さんの結婚は大きな試練でした。小室圭さんの母の借金問題をきっかけに結婚の是非がSNSなどで議論を巻き起こしたのはまだ記憶に新しいはずです」(同関係者)
“影の警備局長”ポストも歴任して
SNSなどでの騒動について眞子さんは2021年10月、結婚会見で、
「一方的な憶測が流れるたびに、誤った情報がなぜか間違いのない事実であるかのように取り上げられ、いわれのない物語となって広がっていくことに恐怖心を覚えるとともに、辛く、悲しい思いをいたしました」
と語り“誹謗中傷”に悩まされたと訴えた。秋篠宮さまは同年11月に誕生日会見で誹謗中傷やバッシングに対して、
「反論を出す場合には(中略)基準を設けてその基準は考えなければいけない」
と述べ、翌年の誕生日会見でも「皇室の情報発信というものも、正確な情報を(中略)タイムリーに出していくということが必要」とした上で「海外の多くの王室はWEBサイトとSNSを組み合わせて使っている」と語られた。
これを受けて宮内庁は昨年4月から情報発信の強化を目的とした広報室を新設。今回退任した加地氏も会見での発表方法を試行錯誤してきた。
「しかし、広報室は何をやっているのか未だに“顔が見えない”状態です。もちろんSNSなどは使用していません。初代室長の藤原麻衣子氏は2002年警察庁入庁の中堅警察キャリアで、警察庁出身の大先輩・加地氏に物申せる立場になく、皇嗣職との連携もいま一つです。秋篠宮家の情報発信は手つかずのまま今日を迎えているのです」(同)
吉田氏にはこの情報発信で、リーダーシップや実行力が期待されている。
「ですが、それは大きな問題を含んでいます」
と皇室警備の担当経験のある警視庁関係者は、冒頭で紹介した警察庁警備局OBと同じ懸念を指摘する。
「吉田さんは刑事警察のセクションで名前をとどろかせる一方、警備警察(警備・公安警察)でも有能な官僚として知られた存在でした。警備警察は皇室守護を全面的に任されているため、吉田さんは皇室についての知見も十分なはず。その意味では、宮内庁の中枢を担い得る有資格者と言っていいでしょう」
全国の警備警察を統括するのが警察庁警備局。皇室守護については警衛指導室と、附属機関の皇宮警察本部が警備局長の指導下にある。また、警視庁では天皇陛下のお住まいである御所など、皇室の枢要施設や、天皇・皇族への護りは、警備部が警衛課を中心に警戒警備を行い、2003年に逮捕された偽有栖川宮詐欺事件など、皇室周辺の事件を捜査するのは公安部になる。吉田氏の警察人生の最後は、その警視庁トップの警視総監だったのは既述の通りである。
警視庁はじめ全国の警備警察部門を統率する司令塔役が、警察庁警備局の“影の局長”ポストとされる警備企画課長。吉田氏は華々しい経歴の途次、その大役も歴任しているというわけだ。
吉田氏が警視庁刑事部長に就任する際、先輩に当たる元警察幹部が「てっきり吉田は公安部長になるものと思っていた。蓋を開けたら刑事部長で正直驚いた」と述懐していた。それほどの能力のある元警察官僚が、皇嗣職大夫として結果が出せるかどうか疑問があるというのはなぜだろうか。前出の警視庁関係者が解説する。
「吉田さんは(警視庁の)刑事部長時代、積極的に情報を公開する情報発信には後ろ向きだとみられていました。高橋克也(受刑者)の追跡捜査では、防犯カメラの画像公開を求める庁内の意見に反対する姿勢を見せていると噂されていたんです。なので情報発信の責任者として最適とは言い難いのではないでしょうか」
オウム逃亡犯捜査では結果オーライも
高橋受刑者とは、元オウム真理教信者で地下鉄サリン事件など数々の教団関連事件で警察庁から特別指名手配されていた男。「オウム逃亡犯最後の1人」と呼ばれ、2012年に17年間の逃亡生活にピリオドを打った。無期懲役が確定し、服役中の身だ。
高橋受刑者の尻尾をつかんだ警視庁は、矢継ぎ早に次々と防犯カメラの映像を公開。画像は連日のように報道され、一般市民から集まった有力情報で高橋受刑者を追い詰め逮捕につながった。
その経過は「劇場型捜査」と持てはやされたが、映像公開に当初、難色を示していたのが捜査指揮官だった吉田氏だったというのだ。画像情報の発信を強く求める内部の声に背中を押されるかたちでゴーサインを出し、結果オーライとなったが、
「警備・公安のエキスパートだったから秘密主義で、保秘が大原則との思いが強かったんだと思います。他の殺人事件でも、画像や捜査情報の公開にはいい顔をしなかった印象です」(同関係者)
悠仁さまには、来春のお茶の水女子大附属高校ご卒業を待って成年式が実施される。準備は着々と進められており、41年ぶりの男性皇族の成年式という歴史的大イベントも、とどこおりなくフィナーレを迎えるとみられている。
だがもう1つの課題である秋篠宮家の情報の正確かつスピーディーな発信は、全く展望が見通せない。「SNSを駆使して迅速な情報公開を差配する吉田さんの姿が、どうしてもイメージできません」(同)ということならば、眞子さんの結婚前と状況は変わらない。
SNSの活用、広報室との連携……。皇嗣職大夫は皇室全体にも目配せすべき宮内庁特別職の首脳陣でもある。ネット上にあふれる皇室情報の中から、どういった視点で誤ったものをピックアップし、どのように正すのか。皇室を、秋篠宮家を、全身全霊をかけて支えなければならない吉田氏の手腕はいかに。
朝霞保人(あさか・やすひと)
皇室ジャーナリスト。主に紙媒体でロイヤルファミリーの記事などを執筆する。
デイリー新潮編集部