医療機関の収入に当たる診療報酬の2024年度の改定内容が決まった。柱の一つが看護師をはじめとする医療従事者の賃上げだ。その原資を確保するため、初診や再診、入院時にかかる基本的な診察料を幅広く引き上げる。
全ての医療機関で初診料を30円増やし、病床のない診療所が看護師らのベースアップを行う場合はさらに60~700円上乗せする。自己負担が3割の患者の場合、窓口で支払う額は9~219円増える。全ての患者の初診料を引き上げるのは、消費税増税時を除けば04年度以来20年ぶりだ。新料金は6月から適用される。
物価高騰や、他産業の賃上げが30年ぶりの高水準となったことを踏まえれば、医療従事者の賃金引き上げは避けられまい。深刻な人手不足に対する医療現場の危機感は強い。働き手が一層減れば、国民が安心して医療を受けることは難しくなる。
患者の負担増を確実に賃上げにつなげなければならない。診療報酬の増加分が働き手に広く行き渡っているか確認するため、政府は賃上げの実態について報告を求める方針だ。しっかり検証し、人材確保につなげてもらいたい。
政府は昨年末、医療従事者の人件費などに相当する診療報酬の「本体」部分を0・88%引き上げる方針を決定した。前回改定(2年前)の2倍超という大幅な引き上げである。その大半を賃上げに充て、賃金を底上げするベースアップを24年度2・5%、25年度2・0%とすることを目標に掲げている。
今回の改定は、今後ますます進む高齢化に備えるために、医療と介護の連携を後押しするのも特徴だ。デジタル技術の活用によって患者の医療情報を介護施設側と共有する仕組みづくりをしたり、施設入所者が容体が悪化した際に往診したりした場合、医療機関への報酬を手厚くする。
診療報酬とともに24年度に見直される介護報酬の改定でも、医療と介護の連携を強化する方針が打ち出されている。限りある資源をいかに効率的に活用し、サービスを維持していくか。不断の改革が求められる。
改定では、一部の生活習慣病について診療報酬の引き下げや処方箋料の減額を実施するなど、医療費を抑制する取り組みも盛り込まれた。
22年度に46兆円だった国民医療費は、高齢化によって今後さらに増えることが確実だ。介護の需要も一層増え、高齢者を支える現役世代の負担は一層重くなる。一方で、高齢者数がピークを迎える40年には、少子化などの影響によって医療・福祉分野の人材が96万人不足するという厚生労働省の推計もある。
24年度政府予算案では、社会保障費は過去最大の37兆7千億円余りに膨らんだ。今回の診療報酬改定は「社会保障費の歳出改革」も掲げていたはずだ。安定した医療制度を守るためには、医療費を抑制する努力も怠ってはならない。