トヨタ系の改革(2024年2月17日『宮崎日日新聞』-「社説」)

◆伝統と戒め再生し打開せよ◆

 世界最大の自動車グループに変調が生じている。トヨタ自動車のグループ販売台数は年間1千万台を超え、世界首位を快走している。2024年3月期決算の連結売上高は過去最高の43兆5千億円に膨らむ。電気自動車(EV)の開発は出遅れたが、ハイブリッド車(HV)で確立した覇権は当面揺るぎそうにない。

 その一方で、日野自動車ダイハツ工業豊田自動織機の3社で品質を巡る不正が起きた。ダイハツの一部車種は量産に必要な型式指定を取り消され、出荷を停止した。背景に見え隠れするのは開発期間の強引な短縮や、納期に過度にこだわる姿勢だ。収益重視によって最も肝心な安全性が後回しにされた。それがグループの中核3社で相次いで起きた。深刻な事態というほかない。

 トヨタは2009年から10年にかけて、主力車種「プリウス」の品質問題に直面。社長就任から間もなかった豊田章男会長は、米議会で釈明する事態に追い込まれた。そこから生まれたのは、グローバルな事業拡大を急ぎ過ぎたという反省だ。14年の時を経て同じ問題がグループに起きているのではないか。

 トヨタの完全子会社になったダイハツは、新興国向けの小型車開発に組み込まれた。開発期間の短縮や生産拡大で現場の負荷は重くなっていた。豊田自動織機トヨタ向けのエンジンの試験で数値を改ざんした。日野自動車はエンジンの排出ガス試験のデータを偽装した。

 納期を厳守するため検査をごまかし、試験を勝手に省略した。開発日程が厳しすぎると訴えても、上司が取り合ってくれない―。各社の調査委員会はこう報告している。

 トヨタのような事業持ち株会社と傘下企業は、発注側と受注側という面があり、双方の利益が常に一致するとは限らない。グループ全体の企業統治を見直し、経営の組織や体制の改革にも踏み込んで議論してほしい。

 トヨタの生産ラインには作業者が不具合に気付いた時にラインを止めるひもがある。放置すれば欠陥のある製品がそのまま流れていく。工場で働く社員は「ひもを引く勇気」を教えられる。この気持ちを忘れてしまったから、不正が起きた。

 失敗があっても「人を責めるな、仕組みを責めよ」という言葉もトヨタの現場にはある。改革と信頼回復の道筋を明確に示してもらいたい。その手がかりは先達が築いた企業文化や多様な経験の中にあるはずだ。

 現場がひもを引いたら、先輩や上司たちが直ちに集まり改善する。伝統と戒めを再生させ、「不正のない車」をつくらねばならない。