診療報酬の改定に関する社説・コラム(2024年3月5日)

診療報酬の改定 看護師に届いたか検証を(2024年3月5日『山陽新聞』-「社説」)

 厚生労働省医療機関の収入に当たる診療報酬の2024年度の改定内容を決めた。6月から実施する。

 看護師ら医療従事者の賃上げ原資を確保するため、初診や再診、入院時にかかる基本的な診察料金を幅広く引き上げる。全ての患者で初診料を上げるのは消費税増税時を除き20年ぶりになる。

 政府が昨年末、診療報酬のうち人件費に相当する「本体」部分を0・88%引き上げると決定したのを受け、中央社会保険医療協議会厚労相の諮問機関)が個別の価格を答申した。賃金を底上げするベースアップを2%以上実施し、人材確保を図る。

 待遇改善は理解できるが、増額分が看護師らの賃上げに確実に振り向けられるかどうか判然としないとの不満の声も、財源を負担する企業の健康保険組合側にある。

 初診料を引き上げても賃上げに使われたのか、別の経費に充てられたのか見えにくいからだ。確実に職員に届いたかどうか検証が必要である。

 初診料は全ての医療機関で30円増の2910円となる。さらに病床のない診療所が看護師ら職員のベースアップを行う場合、職員や患者数などに応じて60~700円を上乗せする。自己負担が3割の患者が窓口で支払う額は9~219円増える。

 再診料も一律で20円増の750円となり、同様に最大100円上乗せする。3割負担の窓口支払額は6~36円増える。病床のある診療所や病院も初・再診料の引き上げや、上乗せの仕組みの一部が対象となる。入院基本料も同様である。

 政府や医療機関は、自己負担が増える患者に対して丁寧な周知が求められるのは言うまでもない。患者が納得できる医療の充実につなげねばならない。

 併せて、効果に注目したいのは、子どもが入院する際に親らが泊まり込みで世話をする「付き添い入院」の負担軽減策も盛り込んだことだ。子どもを見守る保育士や看護補助者を病棟に手厚く配置した場合、報酬を増額する。

 付き添い入院は病院側が要請するケースが多い。親らは睡眠や休憩がほとんど取れず体調を崩すこともあり、改善を求める声が出ていた。対策の必要性はこの欄でも指摘してきた。

 これまでは医療機関が小児病棟などに保育士を配置した際には、保育士の人数にかかわらず、子ども1人当たり1日千円以上を加算していた。今回の改定では、保育士を2人以上配置すれば1800円以上に引き上げる。夜間の寝かしつけや日中の見守りのために看護補助者を勤務させた場合の報酬も創設する。

 病院側が付き添いを要請する背景には、看護人材の不足があるとされる。家族が仕事をしながらでも子どもの療養に安心して向き合えるよう、医療機関は支援体制の整備に生かしてもらいたい。

 

診療報酬改定(2024年3月5日『しんぶん赤旗』-「主張」)

コロナ禍の教訓に逆行する
 2年に1度の診療報酬改定の内容が固まりました(6月1日実施)。公的保険の医療の価格を定めるもので、医療機関にとっては諸経費をまかなう収入を左右します。物価高騰や賃上げのために大幅引き上げが求められていましたが、消費税増税への対応以外では6回連続のマイナス改定です。

急性期病床の絞り込み
 人件費や設備関係費に当たる診療報酬「本体」部分は0・88%の引き上げですが、薬価などが1%引き下げられ、トータルでは0・12%のマイナスです。薬価の引き下げ分は、以前は本体部分に上乗せされていましたが、2014年度からは行われていません。

 24年度予算案で社会保障費の自然増を約1400億円切り縮め、財界言いなりに医療費抑制路線をひた走る自公政権の姿勢を示しています。

 改定内容もそれを反映しています。一つは、発症間もない急性期に対応する病床の削減をすすめることです。看護師の配置が最も多い「7対1病床」(入院患者7人に看護師1人以上)の対象者の条件を厳しくし、平均入院日数も2日短くして「16日以内」とします。対象にならない人や16日を超えた患者は退院を迫られたり、病気の治りにくい高齢者は入院も敬遠されることになります。200床以下の中小病院の2割で急性期病床が維持できなくなるとの指摘もあります。感染症の流行などに備えた余裕ある体制確保というコロナ禍の教訓に逆行します。

 二つ目は、診療所を中心として報酬を0・25%引き下げることです。とくに糖尿病、高血圧、高脂血症の三つの慢性疾患の診療報酬が大幅にカットされます。こうした基礎疾患をしっかり手当てしてこそ大きな病気は防げるとしてきたものを削減します。発熱外来などコロナ感染で役割を発揮した診療所に大きな影響を与えます。「入院から在宅へ」をすすめながら、在宅医療の役割を担う診療所の収入減が危惧されます。

 患者負担も増やします。薬剤では、特許が切れている薬(先発品)でジェネリック医薬品(後発薬)があるものについて、窓口負担を10月から引き上げます。先発薬と後発薬との差額の4分の1を、保険外で患者に負担させます。患者によっては自己負担が3倍にも膨れます。入院時の食事代の負担は月約3千円増えます。保険給付は据え置いて患者の自己負担だけを増やすものです。

 問題なのは、「医療DX」をすすめるため、マイナンバー保険証の利用などを条件に初診料に80円の加算を新設することです。欠陥だらけのマイナ保険証の普及役を医療機関にやらせようとしています。マイナ保険証を使用しない患者も含めて一律に負担を求めることは許せません。

賃上げへの手当は不十分
 今回、「看護職員、病院薬剤師その他の医療関係職種」の賃上げに診療報酬が当てられましたが、金額が小さく、事務部門や医師、歯科医師は対象を一部に限定しています。そもそもマイナス改定では、コロナ禍で頑張った医療機関全体の体制維持に必要な経費を確保できないことは明らかです。

 社会保障予算を増やし、医療機関にも患者にも犠牲を押しつける診療報酬のマイナス改定を見直すことが必要です。