避難所の環境 「雑魚寝」では健康を保てない(2024年6月15日『読売新聞』-「社説」)

 能登半島地震は、災害時に開設される避難所の環境整備が遅れている実態を、改めて浮き彫りにした。国や自治体は、被災者が心身の健康を保てるよう改善を図る必要がある。
 
 元日に発生した能登半島地震では、建物の倒壊や津波などの直接的な被害とは別に、避難生活に伴う体調悪化で亡くなる「災害関連死」が30人に上っている。
 道路の寸断で迅速な支援が難しかったとはいえ、地震発生から1か月が過ぎた時点でも、床で雑魚寝を続け、おにぎりや即席めんでしのぐ被災者が少なくなかった。その後、環境は改善されたが、今も避難所にとどまる人は多い。
 災害関連死の大半は高齢者だ。避難所で集団生活を続けるうちに新型コロナウイルスやインフルエンザに感染したり、心身に負荷がかかって持病が悪化したりして亡くなった人が目立った。
 日本はこれまで何度も災害に見舞われたが、そのたびに避難所の過酷な環境が問題視されてきた。災害発生時に助かった命が、その後の避難所生活で失われる状況は、あまりにやるせない。
 避難所の運営は自治体の役割だが、対応にあたる職員自身も被災し、物資の調達や配布に手が回らないことが多い。加えて「災害時なので多少の不便は仕方ない」という考え方も根強いとされる。
 これに対し、4月に震度6強の地震が起きた台湾では、発生直後から避難所にプライバシー保護用の間仕切りが設けられ、また、温かい食事も提供された。
 過去の地震を教訓として、自治体が民間団体や企業との連携を強化してきた成果だとされる。
 欧州有数の地震国であるイタリアでも、自治体やボランティア団体がトイレやテントのほか、キッチンカーも確保している。
 災害の規模や地形が違うため単純比較はできないが、災害直後で 辛つら い時こそ、被災者が安心して生活できる環境が必要だ。官民挙げて被災者の健康を守ろうとする海外の姿勢には学ぶ点があろう。
 日本でも一部の自治体が、車とトイレが合体したトイレカーや、キッチンカーを災害用に導入している。被災者目線を大切にして、各地で整備を進めてほしい。
 経済界や医療界からは、災害時には国が司令塔となり、避難所の環境改善にも主体的に取り組んでほしいという要望が出ている。
 災害はいつどこで起きるか分からない。発生直後でも支援が行き渡るよう、平時から備えが十分か確認しておくことが大切だ。